記録110 再検査項目について
アデーラの視線が痛い。完全に見下げ果てている目である。
この間の健康診断において、一部の診断項目に『再検査の要あり』という結果が下されたのだ。よりによってその再検査項目は、性病の項目であり……。
弁明をさせてもらおう。つまり、この診断は何かの間違いに違いないのだ。保身や面目のために嘘をついているわけじゃない。身の潔白を聖女カーロッタ様に──いや、六人の聖女様の全員に誓ってもいい。
なにせ、その原因となる事象が存在しないのだから、その手の病気になるわけがない! 当然であるが、戦争が始まってから今に至るまで、感染が発生しうる行為が、そもそもなかったということだ。
しかし、この結果がもたらされた後の、アデーラの視線は冷たい。
「そんな目で見るのはやめてくれ、アデーラ! ……そもそも、君とは四六時中ずっと一緒にいるじゃないか。これは何かの間違いだってことは、君だってわかっているはずだ」
「お側に仕えているのはそうですが、常にというわけではありませんから。わたしの目がないところで何をやっていたかなんて、わかりかねます」
「自由都市執政の言葉が信じられないっていうのか」
「執政殿には、いろいろと前科があります」
「勘弁してくれ……今回のこれは誤診だよ!」
「そうですか」
「大体、いま痛くもなければ痒くもないんだから、病気なわけないだろ」
「……」
アデーラの視線は軽蔑に満ちていた。
さて。
まったく、あの呪い師にはとんだ迷惑をかけられたものだ。これじゃあまるっきり不面目である。再検査なりなんなりをして、さっさとこの疑いを晴らしてほしいものだが。
──そもそも、あの若い魔女は診断医としての技能が確かなのだろうか? 若くて優秀、という触れ込みだったが、単に経験不足で頓珍漢な診断を下しているのならば、次はもっと腕の確かな呪い師に担当してもらうべきではなかろうか。




