記録107 密書について
今日、密書がわたしの元に届いた。自由カオラクサに抑留されている捕虜に関するものであった。
密書の差出人は、とある貴族派領邦の伯爵家の分家の家宰を称していた。──その自称がどこまで正しいものかは分からないが。
さて、その密書によると、あの捕虜たちの正体は、その分家の四男坊と家来たちだという。この四男坊は戦働きによる成り上がりを夢見て、此度の自由カオラクサ戦乱に家来ともども乗り込んでいったのだという。分家の者たちは、終戦後の混乱の中でこの四男坊たちの行方が分からずに心配していたが、ようやく彼らが捕虜として捉えられていることを突き止めた。いくら勇み足をしたとはいえ、四男坊たちが捕虜としてさらし者になっている現状を憂慮しており、早急に解放してほしい──とのことだった。
後は、支払える身代金だとか、お家の名誉のために捕虜解放の交渉は秘密裏に進めてほしいだとか、そのようなことも書いてあった。
さて。
この密書による説明は、事前の予想とそう大きく違ったものではないが……なにか、どこか疑わしいような気もする。つまり、おさまりが良すぎるような気がするのだ。伯爵家の分家筋の四男坊が捕虜になり、身代金を払って解放された──という、ある意味でだれもが納得できる物語に誘導されているような感じがある。つじつまが合うようにでっち上げられた噓の説明のように思えるのだ。全て単なる直観ではあるが。
実際のところ、この密書の内容の裏をとるのは苦労しそうだ。今から貴族派領邦の内部のお家事情を探るとなると、どれだけ時間がかかるかも分からないし、費用が見合うかも不明だ。
さて。このような状況の時、自由カオラクサ執政としてはどのような行動をするべきか? ……分からない。さっさと交渉に応じるのは拙速な気もする。とりあえず、一旦は保留し、様子を見ておくこととする。




