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デスゲームに巻き込まれたらしいが、どうやらまともにゲームが始まりそうもない件について。

『これこれ、絶対秘密だよ?』


 ちょいちょいちょいちょい、と大学の怪しい先輩(女子)に誘われて、ほいほいついっていった俺。確かに馬鹿だったとは思う。いくら、良いアルバイトが見つからなくて困っていたからって。


『とってもいいバイトがあるのよ。短期間でも短時間でもOKだから、大学の講義の合間にでもどお?』

『先輩もやってるんですか?』

『ええ。いっぱい稼がせてもらってるわ』

『よっしゃ行きます!』


 確かに。彼女、エミカ先輩は美人だった。巨乳で、長い髪からはいつもいい匂いがして、怪しい大人のお姉さんの色気がむんむんだったのは認めよう。そして、そんな彼女にほいほいされた自分がちょっと純情過ぎたことも。

 だがしかし。

 さすがにこの展開は、いくらなんでもぶっ飛びすぎてやしないだろうか。


「な、なんじゃこりゃ?」


 エミカ先輩に言われて向かった面接会場で、うっかり気絶させられて気づいたら――なんかこう、どこかの地下広間みたいな場所にいましたとな。

 上からシャンデリアのようなものが垂れさがっていて、壁は大理石で、ちょっとした洋館のような雰囲気の広間である。もしくは、結婚式会場かどこかにイメージが近いかもしれない。昨年従兄の結婚式の出席したのでよく知っている。

 しかも、周囲には他、数十人もの大人の方々が。二十代から四十代、比較的若い人が多いような印象である。全員、何やらざわざわしている。


「ここどこ?」

「さあ?おかしいですね、アルバイトに来たはずなんですけど……」

「バイトの面接落ちたなら返してよお、推しアニメをリアタイする予定なんだからあ」

「どこかの洋館でしょうか?」

「うう、なんかちょっと、怖い……」

「人が多すぎ!さっき足踏まれたんですけど!?」

「おーい、なんなんだここ!誰か事情知らないのか?」

「ねえ、いつになれば帰れるのよ?アニメ始まっちゃうじゃない。リアタイする予定で録画してこなかったのにどうしてくれるのよ!?」

「ねえ、まさかこれって、デスゲームとかそういうのじゃ」

「ばっか、そんなラノベの世界じゃあるまいし!」

「ちょっとお!だから、アニメ見たいつってんでしょうがああああ!」


 何やら一人、異様なほどの執着でアニメをリアタイしたくてイライラしてる人が混ざってるのはさておき。

 他の男女も混乱しているのは間違いないようだ。


――な、何が始まるんだ?


 俺も混乱して、周囲をきょろきょろしたその時だった。


 テーテッテテッテーテテテテテ、ドン!


 何やら軽快なマーチの音とともに、アナウンスがかかった。ノイズまじりで非常に聞き取りづらいが、男性の声であるようだ。


『皆さん、はじゅめまして!ようこそ、人生逆転デスゲームの会場ふぇ!』


 とりあえずつっこみたい。

 噛みすぎるし、活舌悪すぎる。頼むからこういう大事な放送するなら、もうちょっと練習してから出直してきてほしい。




 ***





『というわけで』

「いやどういうわけで?」

『こ、ここにいるみなしゃんは、デスゲームの参加者として選ばれたのでした。おめでとうございやす!皆さんはこれから、最後の一人になるまで戦って頂きます!勝者のみが、ここから生きて出ることができますので、がんばってください!じゃ、じゃ!』

「あ、ちょ、ちょっと!」


 ぶつ、とアナウンスはあっという間に終わってしまった。

 ええええ?と困惑したような声があちこちから上がる。俺は思わず突っ込みをいれた。


「いや頑張ってください、じゃねえよ!説明雑過ぎ!なんで俺ら連れてこられたかの説明もなんもなし!?つか、ゲームのルールさえ説明されてないんですけど!?」


 戦えと言われても、はっきり言って困る。

 だってこの場には、明らかにか弱そうな女性もいるのだ。さすがに殴り合いの喧嘩をしろ、ではゲームとして成立しないだろう。俺だって、けして喧嘩が得意な方じゃない。むしろ男子大学生としてはかなりモヤシな方だと言える。普通に殺し合えと言われても、はっきり言って困るのだが。


「説明しろ説明!あとアナウンス聞き取りづれえ!」

「そうだそうだ!」

「アニメ見たいんだから早く帰してよおおおお!」

「運営には説明責任があるぞおお!」

「そもそもルール解説しないで戦えとか言われても困るんですけど!え、なに?全員拳でぶちのめせばいいってこと?シンプルイズベスト的な?」

「いやいやいやいやいや」

「だからあ、アニメえ!」


 やいのやいのと騒ぐ俺たち。だから、この状況で異様にアニメに執着してる人はなんなのか。

 俺達があまりに騒ぐからだろう。ぶつ、と再びスピーカーのスイッチが入る音がした。そして。




『うるさああああああああああああああああああああい!ぼ、ぼ、ぼくは本来説明役じゃなかったんらひょ!ほ、本当はべ、別の奴が案内係する予定だったのに遅刻しやがって仕方なく、仕方なく、き、緊張しまくってる中台本もなしに台詞読んでんだぞ!お前ら少しは褒めろよおおおおおおおおおお!!』




 逆ギレされた。

 いや、デスゲーム始めるのに運営の重要メンバーが遅刻ってなんなん、とは思うが。それ以上に。


「……いや、知らんがな」


 としか言いようがない。

 こっちは無理やり連れてこられたのだ。褒めろと言われたって“はあ?”という感想しか出てこないのだが。


『とととと、とにかく!ぼ、ぼくは段取りとかなんも知らんの!わからんの!とりあえず、せ、説明役の奴が来るまでそこで待機、待機よろ!今モーニングコールしたからそろそろ起きてくるはずだから!じゃ!』

「今モーニングコールかよ!まだ起きてないのかよ!いつ来るんだよそいつ……ってちょっと待てええええ!」


 再び切れてすまったスピーカー。俺はがっくりと肩を落とした。

 どうしよう。自分が知ってるデスゲームとなんかこう、いろいろ違いすぎる。運営に緊張感も危機感もなくてやばい。やばすぎる。ちゃんとゲームが成り立つ気がしない。


――しかも、この様子だと、あと一時間くらいは放置プレイくらいそうな予感。


 もう自力で脱出した方がいいんじゃなかろうか。そう思っていると、眼鏡の男子高校生っぽい青年が、ぺりぺりと壁紙を剥がしているではないか。

 よく見ると、俺達は全員名札をつけられているらしい。といっても苗字だけだが。俺の胸元には苗字の“佐藤”の文字が掲げられている。


「えっと、何してるんだ?」


 俺が声をかけると、壁紙を剥がしていた男子高校生が振り返った。名札は“秋山”とある。


「いえなんか、壁紙剥がしたらスイッチとかドアとか出てこないかなって」


 彼は淡々と告げた。確かに、この広間には扉らしきものが何もないが。


「案の定です。壁紙で、扉隠してありました」

「あ、ほんとだ」

「しかも、この大理石、全部壁紙っぽいです。デスゲーム開催するっていうのに、予算ケチってますね」

「予算……」


 なんだその、夢も希望もない話は。いやデスゲームだから元々夢も希望もないのかもしれないが。


「仕方ないわよ。デスゲームって、お金かかるんですもの」


 すると、風俗嬢っぽい派手な服装の女性が声をかけてきた。名札には“山本”とある。――派手な美人、的な雰囲気なのに、苗字がなんとも地味だと思ってしまった。


「冷静に考えてみなさいよ。東京の住宅事情考えたら、この広さの建物借りるだけでどれだけお金かかると思ってるの?そして、“デスゲームに使うので会場貸してください”なんて言って貸してくれる物件あると思う?」

「……ないな」

「ないですね」

「しかも、この人数を誘拐してくるなんて大変なことよ?……わたしも最初バスに乗せられそうになったんだけど、運転手役の人が飲酒運転で捕まったとかで乗り物使えなくなっちゃって。東京駅から徒歩でここまで案内させられてきたんだから。せっかく大型バス借りたのに、とんだ無駄足になっちゃったわよね。あれもお金かかったでしょうに」

「徒歩!?」


 どうしよう、どっからツッコめばいいのかわからない。これからデスゲームやるって時に、飲酒運転で捕まる運転手は馬鹿すぎるし、それで参加者を徒歩で移動させるのも馬鹿すぎる。

 ここの場所がバレバレになるというリスクは考えなかったのだろうか。


「そして、デスゲームとなるといろいろなお道具が必要でしょう?殺し合わせるなら武器が必要だけど、日本はほら、銃刀法とか厳しいし。重火器の類は密輸するしかないわよね。リスクもお金も半端ないわ」


 はあ、とため息をつきながら言う山本嬢。


「あと、死体の処理とかも大変じゃない?この会場が賃貸なら血痕とか残して汚したら、家主に怒られちゃうじゃないの」

「……怒られる以前に、逮捕案件だとは思うけどな」

「それに死体の処理もねえ。この人数の死体埋められるような土地あるのかしら。焼却場にこっそり投げ込んだって骨は残っちゃうし。でもって、最終的にはデスゲームって賞金用意するものでしょう?そのお金も必要だわ。あんまりショボいとやる気なくなっちゃうもの」


 困ったわねえ、と。ちっとも困ってなさそうな声で彼女は告げる。


「一攫千金のアルバイトだって聞いたから来たのに。これ、本当にバイト代払って貰えるのかしら」

「この状況でバイト気にするとかあんたすげえな!?」


 ああ、おかしい。自分はツッコミキャラじゃないはずなのにさっきからツッコミしかしていない。


「無理でしょう。こんなおんぼろ会場しか借りれなかったってことは、この運営さんお金ありませんよ?」


 壁紙の下から出てきた、ボロボロのコンクリートの壁を指さして言う秋山少年。


「賞金もちゃんと出るかどうか。頑張って戦っても、なんかメリットなさそうですこのゲーム。さっさと脱出した方がいいかも。僕も塾の時間が迫ってるので、早く帰りたいんですよね。大学受験、絶対本命に合格したいので」

「さ、さいですか……」


 最近の高校生、メンタル強すぎるだろ、と思う俺。

 壁紙で隠してあった扉には鍵がかかっているようだが、こっちは男女合わせて数十人もの人間がいるである。全員で体当たりしたら開いてしまう気がしないでもない。

 そもそも、なんでデスゲームさせようというのに、自分達は一切拘束されていないしセンサーみたいなものもくっつけられていないのだろうか。よくあるデスゲームなら、抵抗したら爆発する首輪とかくっつけられていそうなものなのに。


――まあ、多分ほんっとーにお金、なかったんだろうなあ。


 こんな会話をしていても、スピーカーはうんともすんとも言わない。よく見たら、シャンデリアも張りぼてだし、スピーカーはかなりの年代物だし、監視カメラ的なものも設置されていなさそうである。


「ええっと、みなさーん!ここに扉がありますので、みんなで一緒に体当たりしてぶち破って脱出しませんかー?あ、あとここ東京駅から徒歩圏内らしいし、スマホも圏外じゃないので多分歩いて帰れるとおもいまーす」


 秋山少年が声をかけると、人々は“おおおおお!”と歓声を上げて近づいてきた。特に反応したのが、さっきからアニメアニメうるさかった女子高校生である。


「やったあ!これで帰れるね!なんとしてでも今日のリアタイは逃せないのよ、異世界転生した喪女が魔王の恥ずかしい写真を撮って脅迫するっていう大事な場面なんだから!」

「何そのアニメ!?」


 彼女は胸に“鈴木”というプレートを付けている。鈴木少女は雄叫びをあげて扉に突進した。

 めきめき、ばきばきばき!という音を立てて破壊される扉。――扉がボロかったのか、彼女のパワーがやばかったのかどっちだろう。


「……お、おお……」


 しかも扉の向こうは、そのまんま外だったらしい。何やら遠くに、町の明かりが見えているような。


「と、とりあえず」


 俺は参加者たちを振り勝った。


「脱出……します?」

「異議なーし」


 デスゲームに巻き込まれたらしいが、どうやらデスゲームやらずに家に帰ることになりそうです。

 とりあえず、命があって良かったと思うことにしよう。なんかこう、やけに疲れてはいるけれど。

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