0098・鑑定板
ミクは通常の門から入ろうとしたのだが、ヴァルが馬車を牽いている為に逃げる事が出来ず、貴族用の門から入る羽目になった。素通りするが如く通る事は出来たが、代わりに王城まで行かなくてはならない事を思うと面倒臭いのだろう。
ヴァルに乗って前を向いているので顔は見られないが、明らかに面倒だという顔をしているミク。少なくとも今以上の面倒事は御免なので、その表情を王女一行に見せる気は無かった。
巨大な狐といって差し支えないヴァルが王女専用の馬車を牽いている姿は、平民街ならまだしも貴族街では物凄く目立っている。周辺の貴族も王女専用の馬車だからこそ声を掛けてこないだけだ。
それが分かっているからこそ、ミクも面倒臭そうな顔を隠さないのだ。実際にはヴァルは2割から3割ほどで、それ以外はミクの美貌目当てなのだが……。面倒臭そうな顔すら美しいという事を理解するべきである。
王女専用の馬車は貴族街を越えて王城の門まで来た。そこで騎士達が前に出て手続きをし、更にヴァルが馬車を牽いている事も説明して門が開く。そのまま中に入るのだが、門兵が後ろで引き摺られているモノを見てギョっとする。
すぐに止めようとするが、後ろで引き摺られている者が何なのか聞くと激怒した。どうも第一王女は慕われているらしい。離れた所からでも正確に聞こえている肉塊は、第一王女の印象を上方修正するのだった。
というか、離れた所からでも正確に聞き取る能力は素のものだ。こういう部分でも肉塊の能力は反則級である。
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現在、城の一室に居て紅茶を飲んでいるミク。何やらキザったらしい奴が来てゴチャゴチャ言っているが、完全にスルーしている。王女は着替えてから来るそうで、室内にはメイドが一人居るがオロオロしているだけだ。
そんな中、完全に無視を決め込んでいると目の前の奴が急にキレた。意味が欠片も分からないが、その後もスルーし続けるミク。何かを言っているようだと、一切気にしない態度は流石としか言いようが無い。
大声で罵倒してくる意味不明な人物をスルーしていると、第一王女と髭のオッサンが入ってきた。その後ろから騎士が入ってくるが、第一王女と髭のオッサンを見た目の前の奴は目が点になっている。
その後、再起動して再び意味不明な事を言い出した。
「これは陛下。ここに王城に潜り込んだゴミ虫が居ますが、すぐに片付けますのでお待ち下さい。貴様のような者が居られるような場所ではない、さっさと失せろ!!」
「えっ!? いいの? じゃあ、そういう事で」
「ち、ちょっとお待ちを!! ミク殿は私がお呼びした客人ですよ! 何故モルダン卿が勝手な事をされるのです!!」
「おや? 申し訳ない。私とした事が貴女のような美しい人を忘れているなど……。すみませんが、何処の御令嬢でしたかな? このモルダンにお教え下さいませんか?」
「………ワシの娘だ。キサマが裏で醜いと言っておった、ワシの娘だ」
「………」
凄まじい怒りが王からモルダンという男へ向けられている。余程の何かがあったのか、王はブチギレるのを必死に堪えているようだ。それを理解したのか、モルダンという男は何も言わず部屋から立ち去って行った。
「あのゴミめ……これから先は一切容赦をせぬぞ。…………ふぅ。冒険者のミクと申したか。我が娘の呪いを解いてくれた事、感謝する」
「あー……うん、まあ。正直言って王国でも王とか宰相に会ったけど、特にどうすればいいとか知らないし、態度が悪いなら今すぐ出て行くから言ってよ」
「「「「「「「………」」」」」」」
「ワハハハハ……! 構わん、構わん。それぐらい大した事では無い。態度やマナーが出来ても、腹の中で何を考えておるのか分からぬ者より遥かにマシだ。正直言って王族だろうが息を抜きたい事もあるでな」
「父上。ある程度は、お願いします」
「分かっておる、分かっておる」
そう言いつつソファーに座る王族親子。ミクは気にせず座ったままだし、ヴァルは床に寝転んで目を瞑っている。完全に我関せず状態だ。ミクはとりあえずで、何故王が来たのか聞いてみた。忙しいんじゃないのかと。
「まあ、王というのは忙しいのだがな。かといって、娘の恩人に顔も見せんような不義理な真似など出来ぬ。それに<聖霊水>を使ってもらったとなれば尋常ではない。我が国にも鑑定板はあるので、少し調べさせてもらって良いかな?」
ミクは了承し、聖霊水の入ったガラス瓶を出す。ミクとしても鑑定板があるなら調べてほしかったのだ。唯の聖霊水と表示されるのか、それとも肉塊が生み出した聖霊水と出るのか興味があったからだ。
ちなみに鑑定板とは滅多に出回らない国宝級の魔道具の事で、別名<神級道具>とも呼ばれる魔道具の事だ。魔力で動くのだが、それ以外全く分からず解析不能な為にそう呼ばれる。
真っ白い板に幾何学模様が描かれた物が鑑定板なのだが、本質は板の中に描かれた魔法陣であり、幾何学模様はダミーでしかない。その事はミクも知っているのだが、もちろん黙っている。口を滑らせると神が五月蝿いし。
鑑定板の上にミクが渡したガラス瓶が置かれ、少し経つと目の前に四角い黒い板のようなものが浮かび上がった。タブレットの画面みたいだと言えば、何処かの人々には伝わるだろう。そこにはこう書かれている。
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<聖霊水>
一口飲めば、呪いや契約による呪縛から完全に解放する。また、アンデッドに掛けると安らかな死に返す事が出来るという、極めて特殊な霊薬。ダンジョン産。
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「「「「「「「おおーーーっ!!」」」」」」」
どうやら鑑定板では誰が作ったかという情報は出ないらしい。初めて見たので驚いたが、なかなか面白いなと思うミク。魔導国には巨大な鑑定板があり、誰でも無料で使える様になっている。
正しくは、古くから巨大な鑑定板があった場所に国を作っただけだ。とはいえ、向こうに行けば使えるので何を鑑定しようか悩むミクに、王が突然聞いてきた。
「そなたは万能薬も持っていると聞いたが、それも調べてみても良いかな? ワシもあまり使った事がなくてな、年甲斐も無くちょっと楽しい」
「まあ、とりあえず適当なのを出すよ」
ミクも興味があったのか色々と取り出してみる。それらを鑑定板に載せて調べる王。何とも子供っぽいなと思いながらも、結果を楽しそうに見ていく王女。しかし、最初から固まるのであった。
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<紅の万能薬>
一口飲めば、あらゆる異常を治す秘薬。この薬に治せぬのは死亡のみであり、それを治す事は神以外は不可能である。尚、口に含むだけで毒を無効化する事が可能。ダンジョン産。
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<恐怖の魔剣>
とある呪いが付いていた短剣。何者かが呪いを貪り喰い、その恐怖が短剣にこびり付いて誕生した極めて特殊な魔剣。切りつけた相手に対し、貪り喰われた呪いが受けたのと同じ絶対の恐怖を与える。
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<魔剣ブレインホワイト>
それなりの剣として使えるが、専用スキルが非常に強力な魔剣。専用スキル【白光陽熱衝】を使用可能。ダンジョン産。
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「「「「「「「………」」」」」」」
魔剣ブレインホワイトの鑑定結果を読み、ジト目を向けてくる室内の一同。どうやら<ソルシャイル>を知っているらしい。




