0097・第一王女と共に王都へ
嬉しいみたいなので放っておき、ガラス瓶をアイテムバッグに入れた後、忘れ物などを確認したら立ち去ろうとするミク。それに気付いた第一王女が慌てて止める。離脱に失敗したミクは面倒臭そうに応じた。
「お待ち下さい!! 治していただいたというのに、御礼の一つもしないなど恥になってしまいます。どうか、御礼をする機会を下さい!」
「いや、治ったならいいじゃない。私、面倒臭いの嫌いだし、いちいち変なのと関わりたくないんだよね。今まで貴族に碌なの居なかったしさー。王女っていったら、それより上でしょ? 正直、勘弁してほしい」
「仰りたい事は痛いほど分かりますが、お願いします。呪いを治していただいたにも関わらず御礼の一つもしないなど、呪い以上の問題になってしまうんです!」
「はぁ……なら出来る限り早く帰してね。それなら、いいよ」
仕方なくミクは折れる事にした。理由は幾つかあるが、最悪は逃げれば済むという事が大きい。そこは変わらないので折れたのだ。後は助けたにも関わらず、その後どこかで死んだら自分が疑われるという事ぐらいだろうか。
死体どもは放置して行くのだが、困った事に馬が殺されてしまっており馬車を動かせなかった。馬車自体に被害は無かったので、仕方なくヴァルに大きくなってもらい牽く事に。ヴァルが巨大化した事に驚いていたが、さっさと馬車に乗り込ませた。
ミクはヴァルの背中に乗っており、騎士は小走りでついてくる。騎士自体は元々徒歩なので仕方ないのだが、それでも遅い速度に合わせる気も無いし、ヴァルは馬車を牽いていても速い。当たり前ではあるのだが……。
ジュイルの町までは遠くなかったのだが、それでも騎士達は疲れきっておりダウンしている。王女の泊まる宿自体は決まっているし、旅の日程通りなので問題無く宿泊できた。ミクは適当に宿を探そうとするも、王女が何故か泊まっていけとしつこい。
側仕えも同じなので妙だと思ったミクは聞いてみた。すると、襲撃される可能性がゼロではないとの事。つまり夜間の護衛を頼みたいらしい。部屋でするならまだしも外でする話でもない為、暈していたようだ。
仕方なく王女と同じ部屋に泊まる事にし、食事も同じ物をとる事にした。金額は高めだったものの、賭けで儲かったお金すら使い切っていないので問題無く支払う。王女の側仕えが払おうとしていたが、気にしなくてもいいと言っておく。
王女はミクがお金を持っているのを強いからだと思ったようだが、ミクは王都の賭博場で大勝ちした事を暴露した。困った顔をする王女に、イカサマをしたディーラーの手札と変えた事も教えてやるミク。
更に何とも言えなくなった王女。その後に襲ってきたが、全て返り討ちにしてやった事を話すと納得していた。王女からは賭博のイカサマについて謝罪されたが、賭博なんてあんなものとミクは流した。
ヴァルは溜息を吐いていたが、それ以上は何もしなかった。ミクもイカサマに怒った訳ではなく、イカサマが多すぎた事に怒っただけだからだ。
夕食後、王女の泊まる大きな部屋のソファーに座るミク。一応夜番のような事をしなくてはならないので、室内で起きておく必要がある。まあ起きておくだけでいいので、ミクとしては起きているフリで停止するだけでしかない。
眠るまでに王女と色々雑談をしたが、自分が飲んだのが<聖霊水>だと聞いて仰天していた。ミクが商国のダンジョンで手に入れたと言うと、ガックリして項垂れていたが。
その後、王女はベッドで休んだので、ミクは分体を起きている風にして停止する。最低限は繋がっているので問題無し。後は適当に暇潰しをしながら時間を潰すだけである。仮に襲撃されても問題無い。
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深夜、物音を立てずに扉が開き何かが入れられ燃やされる。ミクは分体を最低限で起動。匂いと漂っている物を分析した結果、麻痺効果のある煙だった。なのでこのまま動かないフリをしておく。
ある程度経つと部屋に侵入してきた者が二名。そいつらが王女の部屋に侵入した途端、ミクは視認出来ない速さで触手を放ち麻痺毒を注入する。あっと言う間に麻痺して動けなくなった”護衛の騎士”。
ミクは寝ている王女の首に触れ、直接万能薬を注入する。その後、侵入した奴等の身包みを剥ぎ、縄で縛ってから尋問を開始した。
分かった事は、こいつらはオコードイ伯爵に金で雇われていた事と、襲撃に失敗したら王女を殺害する予定だったという事だ。それと最悪の場合に備えて、麻痺効果のある煙を出す毒草を与えられていたらしい。
ミクの強さは分かっていたので、毒草を使わないと失敗すると思って使ったそうだ。肉塊に効く訳が無いのだが、万能薬を言い訳に使えばいいかと楽観的に考えるミクだった。
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夜が明けて朝。王女が悲鳴を上げ、その声で飛び起きる側仕え。慌てて王女の部屋に入ると、素っ裸で縛られて寝転がる護衛の騎士。何があったのかと思うも、起動したミクが説明する。
「まさか、この者達がオコードイ伯爵に買収されていたなんて。ミク殿が居てくれなければ殺されていました。それにしても麻痺効果のある毒草を使うなど、騎士ではなく暗殺者でしかありませんね」
「本当に姫様の仰る通りです! 必ずやこの者どもの実家には厳しい沙汰を下していただかねば!! それよりも、ミク殿はよく煙を吸って無事でしたね。それに姫様も……」
「私は王国のダンジョンで万能薬を手に入れてる。………コレだけど、口に含んでいるだけで無効化できるよ。あの程度の麻痺毒ならね。そのうえ煙だし」
「まあ、紅い万能薬……。ダンジョンでも滅多に見つからない最高等級の万能薬ではありませんか。黄色から青色、そして白色から紅色へとランクが変わると聞いた事があります。紅はあらゆる異常を治すとも……」
「それほどの薬を持たれていたとは……。あらゆる意味で計算外だったでしょうね、この者達にとっては。聖霊水だけでも国宝クラスの代物です。更に紅い万能薬もお持ちとは」
何だか余計に面倒事に巻き込まれそうな予感がしたミクは、さっさと宿の食堂に行く事を提案する。了承した王女一行は、素早く身形を整えて部屋を出た。他の騎士に話し、暗殺者だった二人を馬車に押し込めておくように命じる王女。
流石に他の騎士もそれを聞いて激怒している。ミクが見ても二心があるようには感じなかったので大丈夫だろう。そのまま朝食を食べる為に食堂へと移動した。
朝食後、縄を買ってきたミクは暗殺騎士を更にぐるぐる巻きにし、馬車の後ろに繋ぐ。その状態でもヴァルは楽々と牽くので、問題無く出発する。昨日と同じく騎士は小走りだが、武具類を持っていないので若干楽そうだ。
昨日までは胸鎧に短めのロングソードを持っていたが、今日は王女のアイテムバッグに入れてあるので身軽になっている。これぐらいしないと、ヴァルの移動速度についてこれないので仕方ない。
それでも時間は掛かったが、昼過ぎには王都に到着した。息が上がっているが、昨日よりは距離も長いうえ倒れこんでもいない。この辺りは流石騎士と言えるのだろう。ヴァルは疲れてもいないが。
騎士達の体力がある程度回復した後、鎧と剣を身に着けさせて整えてから、騎士として王都へと戻る。
……暗殺騎士達? 引き摺られてますよ、全裸で。




