0094・盗賊のアジトと穴掘り猿
盗賊どもの頭をカチ割り、首を切り裂いて殺していると、クロスボウを射ってきた奴が逃げ出した。ミクはすぐにヴァルに命じて連れてこさせる。ヴァルは即座に追い掛けて足に噛み付くと、こちらに引き摺ってきた。
その間にもミクはカチ割りながら切り裂いていく。殺せと言っていた奴一人になるとボディブローを喰らわせ、悶絶している間に首に手を触れると、即座に麻痺毒を注入した。これで放置。
逃げた奴をヴァルが連れて来たのでソイツにも麻痺毒を注入。森の中へと連れて行き尋問を始めるのだった。尚、ヴァルは死体を別の方向の森の中へと持って行き、「バリ!ゴリ!ボリ!」と喰らっている。
先にリーダー格っぽい奴の頭の上に手を置き、脳を操って情報収集を開始した。
「お前達は何処の誰? 兵士だとは思うけど、一応ね」
「我々はソッドル町の兵士。そして私は第六部隊の隊長だ。我々の任務は西から来るワインの強奪を行い、それを領主様に届ける事だ。領主様が裏でどこかに販売しているらしいが、詳しい事は知らん」
「ふむ。となるとワインの生産地の貴族と、ここの領主である貴族には因縁でもあるって訳ね?」
「因縁などは聞いた事が無い。西のワインは生産量も多くて質も良い、持っていけば売れる所など幾らでもある」
「は? ……まさか、奪って金儲けをする為に盗賊をやらせてたの? ………いや、そいつ幾らなんでもバカ過ぎない? バレたら一発で首が飛ぶよねぇ!?」
「我々はやれと言われた事をやっているだけだ。それ以外は大して知らない。何より、領主様がどうなろうが構わない。我々は新たな領主に従うだけだ」
「それ以前に盗賊をやってるんだから、もう兵士じゃなくて唯の盗賊でしょうに。まだ兵士のつもりだったんだ。コイツも頭悪いなぁ……ヴァル、後は宜しく」
するとヴァルは無言で近付き、リーダー格だった男の首を噛み千切った。それを見ていた少年の顔は蒼白になる。この少年こそがクロスボウを射った本人なのだが、どうも様子が変だ。なので詳しく尋問する事にした。
「お前は何故そんなに怯えているの? 兵士なのに。もしかして殺し合いもした事が無い?」
「ボクは町で声を掛けられて連れてこられました。ここでクロスボウを持って敵を射れと。合図をしたら敵を撃てと命じられたんです。盗賊のフリをして犯罪者を殺す仕事だと」
「成る程。何があったか知らないけど、都合良く利用する駒として声を掛けたという訳ね。何となくだけど、この少年を何に使うかは分かる。おそらくは殺して盗賊の一味にするつもりだった筈」
その後も色々聞くものの大した情報は与えられておらず、アジトの場所も知らなかった。とはいえミクの【気配察知】では反応を捉えているので、アジトの場所を聞く必要は無い。残党が残っているらしいので場所は分かる。
この少年をどうするか困ったものの、流石に殺す訳にはいかず諦めた。この少年は今回が初めてであり、命じられただけで誰も殺していない。である以上は、殺して喰う訳にもいかないのだ。
少年は麻痺させたままヴァルの背に乗せ、そのままアジトの方へ進んで行く。非常に分かり難い形で洞窟があった。入り口の前に蔦などが大量に生えており、覆い隠すようになっている。ワザとそう生やしていると思える程だ。
中に入ってすぐ声が聞こえてきた。男達の声だが……オルドラスが夜に上げていた声に似ている。その声の方に進んで行くと、洞窟をくり貫いたような部屋の中で男達が犯されていた。……大量の猿に。
『アレは確か<穴掘り猿>とも呼ばれる猿の魔物じゃなかったか? 正式名称は……クレイジーモンキーだったと思う。とにかく人間種の男を襲ってはケツの穴を掘るという魔物だったと思うが……』
『何か男達の方も犯されて悦んでるみたいだから、このまま放っておこうか。邪魔するのも悪いしね。せっかくだから神謹製の精力剤を散布しておいてあげよう』
『またそうやって余計な事を………まあ犯罪兵士だし、どうでもいいか』
「「「「「「「「「「ウホゥッ!? ウゥホホーーーーッ!!!」」」」」」」」」」」
「「「「「「ウアッ!? アッ、アッーーーーーーー!!!」」」」」」
どうやら精力剤の御蔭でエンジン全開で燃料は満タンらしい。どうでもいいので、そっと離れるミクとヴァル。ヴァルの背で痴態を目にして混乱している少年。
別のルートの方へと進むと大きな部屋があり、そこには乱雑に物が置かれていた。ワイン樽や干し肉にチーズ。固まったパンや萎びた野菜など、生活感もある。どうやら盗賊兵士どもは、ここである程度の期間暮らしていたらしい。
適当にアイテムバッグに詰め込むと、ヴァルを前に歩かせて肉の中にアイテムバッグを入れて転送する。本体が食べ物やワインなどを取り出すと、分体へとアイテムバッグを戻した。
洞窟の外に出ると少年をどうするかで困ったのだが、仕方なく万能薬を注入して回復する。その後で詳しく話を聞くと、少年は身寄りが無いそうだ。そこも盗賊兵士達に狙われた理由らしく、仕方がないので王都へと戻る。
ヴァルが一気に駆けていき、その背の上で必死に耐える少年。すぐに王都に着いたので列に並び、昼を過ぎていたので何時もの酒場へと行く。遅い昼食を注文して待っていると、何故かフェルーシャがやって来た。
「急にミクが王都に戻ってきたって聞いたから慌てて来たけど、何かあったの? ……少年ね。いたって普通の人間族みたいだけど。スンスン………貴方、非常に精の匂いが濃いわね。歳は?」
「えっと……多分12です」
「そう……ところでミク、この子はいったいどうしたの?」
「それなんだけどね……」
ミクはソッドル町で何があったのか、盗賊兵士が何をしていたのかを語る。するとフェルーシャはブチギレた。王都でワインが高い理由がバカの所為だったとは思わなかったからだ。
自分が無駄に高値になった物を買わされていたとなれば怒るのも当然だろう。ついでに少年をフェルーシャに預けたい事を話すと、彼女は舌なめずりをしながら快諾した。何をヤる気か簡単に分かるが、興味の無いミクとヴァルはスルー。
少年と共に食事を終えると、フェルーシャに後を任せてミクとヴァルは再び出発する。何故か王都に戻る事になったが、本来ならば西に進んでいた筈なのだ。二人は改めて出発し、ソッドル町より西に進む。
デイテ村とグルミュ村を越えヒュルブ町へと到着。中に入って宿を探す。すぐに見つかり一人部屋を頼むと、宿の従業員に聞いて食堂に行く。夕食を注文して待っていると、周りから色々な噂が聞こえてきた。
「西のワインは今年も良い出来みたいだな。去年のが良い感じに熟成してるそうで、今年も楽しみだ。ここ近年はブドウの質が悪いって事もないからさ、毎年楽しみなんだけども」
「そうだなー。俺達はいいが、ここから東じゃ盗賊が出るらしいからな。王都に着く頃にゃ高くなってるが、盗賊の所為でここ近年は更に高くなってるみたいだ。王都の知り合いが手紙に書いてきてたよ」
「へぇー。王都なんて都会は大体高いもんだと思うが、盗賊の所為で値上がりねー。誰かが裏で糸を引いてそうな話だな」
「そうやって誰かが値段を吊り上げてるって? バカバカしい。創作話じゃねえんだ。現実にそんな事してたら殺されっちまうぞ?」
盗賊が出る事はこちらの方でも知られているらしい。それほど有名になっている割には簡単にミクの美貌に引っ掛かった奴等だった。闇の神が盗賊を潰せと言ったという事は、他にも沢山居るのかもしれない。
肉が喰える可能性が上がったので、町だけではなく村もキッチリ調べていこうと思うミクだった。




