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0092・その頃、他の者達は




 ミクとヴァルが鬱陶しい<闘鬼>に嘆息たんそくしながら宿に戻る頃、他の者達はというと……。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ここは魔導国との国境付近。ヴァルドラース達は一日に一つの村や町までしか進まず、ゆっくりとした旅を続けていた。これはヴァルドラース達が遅い訳ではなく、ミク達が早過ぎるだけである。


 本来なら馬は1時間半か2時間毎に休ませるのが当たり前だ。馬も生き物であるし、無理をすれば簡単に潰れてしまう。唯でさえ馬車自体が重いというのに、更にそこに人間種が乗るのだ。大変なんてものではない。


 ずっと牽き続けられるヴァルがオカシイのだし、疲れも無く休みもしないのもオカシイのだ。まあ、あれは通常の生物の枠にいないので当然とも言えるのだが。それでも<魔女ゼルダ>の使い魔アルガも似たような事は可能だ。


 そういう意味では<魔女の秘法>というのは凄い技術なのだと分かる。



 「そろそろ魔導国ですが、随分と時間が掛かってしまいました。ゆっくりと進んだのもありますが、やはり馬ではこの速度が限度でございましょう」


 「オルドラス。無理に急ぐ必要は無いよ、馬達が可哀想だからね。我々は魔導国とやらに入るとしても、それぞれの町に腐った者が居ないか確認しなきゃいけない。どのみち時間が掛かるんだ、急いでも仕方がない」


 「私どもが知る限りにおいては、魔導国も良くない研究などを色々しているそうです。王国は良くも悪くも古くから変わらない国ですが、だからこそ周りの国は強みを持ちたいのでしょう。魔導国は名前の通りでございます」


 「ええ。私達も昔、魔導国の辺りで生活をしていた事がありますが、あの国は良くも悪くも知識の国です。様々な実験も古くからしており、中には怖気おぞけの走るものもありました」


 「子供を利用したものですね。古い時代にカレン様達と叩き潰した事がございます。あまりにも悪逆非道であった為、看過する事は出来ませんでした。子供の頃から虐待的に鍛え、無理矢理に【スキル】を発現させるという実験です」


 「それは酷いな……。【スキル】は確かに子供の頃の方が発現しやすい。だが、子供に発現しても大体は振り回されて自滅する。偶に制御できる子供もいるが、それは狙ってやるべき事ではない。むしろ将来発現するかもしれない【スキル】を潰す事になる」


 「【スキル】の保有量は魂の容量と言われます。子供の頃に魂の容量の多くを満たしてしまうと、後天的に【スキル】が覚えられなくなってしまう。魂の容量も変化するとはいえ、それは【スキル】の無い状態の方が大きいですから……」



 魂の中に【スキル】などが入っていない程、魂は柔軟に変化する。その変化の良い方向が容量の増加、悪い方向が容量の減少になる。人間種の魂の容量は増減すると言っても、人生全てで見ればそれほど変わらない。


 大半の人はそうなのだが、稀に倍以上の容量になる者も居る。それは不幸な生い立ちであったり、逆境を乗り越えたりなど様々な事で増えるのだが、努力をして増えるというものではない。どちらかと言えば精神的な部分が大きいのだ。


 だからと言って無理矢理に苦境に置いても、むしろ魂の容量は減ってしまう。そも魂の容量など、人間種が手を出していい領域の事ではない。それを魔導国は古い時代にやったという事だ。


 当然、今はやっていないと楽観的に考える者はここには居ない。永きを生きる吸血鬼は、人間種の愚かさや傲慢さをよく知っている。そもそも自分達がそうだったのだ、よく分かって当然であろう。


 真祖であるヴァルドラースは別としても、それ以外は人間種が元である。ヴァルドラース達は、魔導国の方角に厳しい視線を向けるのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ところ変わってここは王国の王都。何故か必死になって旅をしてきて一日休んだガルディアスが居た。今はギルドマスターの執務室でロディアスに愚痴を言っている。



 「俺はこういう面倒臭いのが嫌でさっさと逃げたんだぜ? 何で俺がギルドマスターをする事になってんだ? 絶対にオカシイぞ!」


 「そんな事知らないよ。諦めなって、どうにもならないから。カレン殿やヴァルドラース殿に言うかい、戻ってきてくれって? きっと笑顔で殴り殺されるよ。カレン殿に」


 「あー……うん、そうだな。………はぁ、束の間の休みだったって事かー。ドラゴン倒して一生暮らしていける金を手に入れたから、ゆっくり田舎に引き篭もろう思ってたのになぁ。何処でどう俺の人生狂っちまったんだ」


 「案外さ、狂ったんじゃなくて元々こうだったのかもよ。そう思った方が良いんじゃない? それに慣れればこれぐらいは難しくないよ。サブマスターに色々任せたらいい。カレン殿がギルドマスターの時と変わってないんだろ?」


 「そのサブマスターはウチの常連さんなんだが? 何か急に容赦無くなってさ、物凄い勢いで色々詰め込まれたわ。何でだろうな、俺が宿を経営してる時には何もなかったのに……」


 「唯の宿のオーナーと新しい上司じゃ違うに決まってるでしょ。ガルディアスの事だから無頓着に神経逆撫でする事でも言ったんじゃないの? 貴方は昔から考えずに口を開くから……」


 「おいおい勘弁してくれ。ここでまで口煩くちうるさく言われたくねーよ。最近やたらにしつこいし、早く使えるようにするって言われて大変なんだぞ。俺の頭はそんなに良くねえっての!」


 「(これ。ギルドマスターを口実にガルディアスに近付いてるよね?)」


 「(私もそう思うわ。この不精髭のむさい奴にやっと良い人が現れそうね。これが駄目なら一生独身でしょう。コイツそういう奴だし)」


 「あん? 何かヒソヒソ話す事でもあったのか?」


 「「いや、別に」」


 「変な奴等だなぁ……」



 冒険者ギルド、ランク14の<閃光のガルディアス>。彼は基本的に何でも億劫おっくうに思うタイプで、動かなければならない時まで動く気にならない人物だ。


 その突きの速さは閃光とまで言われるにも関わらず、それ以外には亀のように鈍重なのである。つまりサブマスターの女性は彼の性格を熟知しているという事だ。だからこそガルディアスのケツを蹴っている。


 そして、そこまで出来る人物でないとガルディアスとは付き合えない。ロディアスが27歳、アドアが28歳なのだが、ガルディアスはもう31歳である。


 これ以上遅れると本当に結婚は無理だろうと、仲間内では心配されているが、当の本人は理解していない。サブマスターは彼にとって、どういう女性になっていくのだろうか……。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 更に変わって、ここは商国の王都。<淫蕩の宴>の息が掛かった娼館にて、フェルーシャは客の相手を終えて控え室に戻ってきていた。他の娼婦達と話しながらも最近の事を考える。



 (やっぱり力が増えない。精を搾り取っても力が増えないという事は何かが頭打ちだという事。しかし……いったい何が足りないのか分からない。知識も技術も体の使い方も熟知している。なのに何故女王を超えられない?)



 彼女には長年の悲願があった。それはサキュバスとしての頂点である女王を超える事。女王はサキュバスの中で唯一のアーククラスである。


 下位でしかないが、それでも長きに渡る魔界の歴史の中で、アーククラスまでのぼったサキュバスは女王しかいない。何故その女王を超えられないのか、フェルーシャは悩み続けるのだった……。


 ちなみに答えは簡単で、負けた経験が圧倒的に足りないからである。だから淫欲の女神は完敗させたのだが……どうやら先は長そうだ。


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