0091・商国のダンジョン攻略
ダンジョンに入りヴァルに乗ったミクはドンドンと進んで行く。今は10層のボス前だ。並んでいる者は居ないのでさっさと入り、突撃してくるオークを切り裂いたり突き刺したりしていく。バカは突撃して簡単に散っていった。
さっさとボス戦を終わらせたミクは、そのまま先へと進んで行く。前日からダンジョンに居ない限り、ミクより速く進むのは無理だろう。あっと言う間に20層のワイバーンも殺し、21層に到着した。
ここからは層の中心へと進む事になるのだが、まずは端を理解せねば進めない。そう思い、まずは木に登って辺りを確認する。層の端は白い霧で覆われているので、その向こう側は見えないし入れない。
少し遠くに霧が見えたのでそちらに進み、端にぶつかったら霧の壁に沿って走って行く。すると、すぐに脱出の魔法陣を発見した。そこから霧の壁を背にし、真っ直ぐ森の中を進んで行く。これで合っている筈。
そう思って進んで行くと赤色の魔法陣が見えた。どうやらミクとヴァルの予想は当たっていたらしく、この森の層は中央に魔法陣があるらしい。それが分かれば一気に進めるだろう。攻略法を考えつつ22層に進む。
22層からは二人ともヒッポグリフに変化し、空から魔法陣を探す事に。赤く光っているので空から見ると分かりやすく、簡単に見つける事が出来た。その調子で25層まで一気に進む二人。かなりの速度だ。
25層のボス戦前に女性形態に戻り、装備を整えるミク。ヴァルは男性形態だ。ミクはライダースーツにいつも通りの装備、ヴァルは竜鉄のプレートアーマーにバルディッシュ。とりあえず汎用的な装備で中に入っていく。
扉が閉まった後に出現したのは巨大な蛇だった。胴の直径は1メートル、長さは実に10メートルを超える巨大な蛇。それが鎌首をもたげた後、一気にミクに噛み付いてきた。慌てて右に回避するミク。巨大な癖に素早い蛇に驚くヴァル。
しかし、自分のするべき事を認識したヴァルは一気に走って行く。プレートアーマーではあるものの、素早い走りで蛇に接近する。当然蛇はヴァルの方を警戒するが、そうするとミクが反対側から蛇に接近していく。
蛇は一瞬悩むも、すぐにヴァルに噛み付こうとして避けられた。その少し後に激痛が走り暴れる。ミクがドラゴンの牙の鉈で攻撃したからだ。巨大な蛇は鱗も頑丈そうだが、流石にドラゴンの牙には勝てなかったらしく、簡単に切り裂かれた。
当然その隙を見逃すヴァルではなく、今度はバルディッシュを振り下ろす。それは完璧に直撃し、胴の半分を切り裂いて地面に叩きつけられる。今度は絶叫とも言える泣き声を上げる蛇。更にミクが追撃を行い、蛇は簡単に殺された。
素材が手に入らなかったものの、先ほどの蛇は毒も持ってなかったようなので興味もない二人だった。
26層に辿り着いたが、そこは一転して砂漠となっている。何故か凄まじい光が降り注ぎ、普通の人間種では耐えられない暑さだ。
二人にとっては大した温度ではなく、汗も出ない体なので何も問題は無い。ヴァルは再び狐形態に戻り、ミクを乗せて走って行く。デザートスコルピオンやクレイジーキャメルなどが居るものの、この層の奴等は売れないので喰らって進む。
デザートスコルピオンの毒は強くなかったが、種類としては麻痺毒だった。クレイジーキャメルは非常に体力のあるラクダで、どうやらいつもまでも追い掛け回してくるらしい。どのみち食べて終わりな訳だが。
『しかし……ここは普通の人間種では攻略不可だな。そもそも脱出すらさせる気が無いだろう。どこに魔法陣があるか知らないが、魔法陣に近い場所から始まらないと簡単に詰むぞ』
「あくまでも私達だから何の問題も無いだけで、普通ならこの暑さに耐えられないだろうね。それに耐えられても次は戦えるかどうか分からない。というか勝てても二回か三回が限度だと思う」
『だな。それだけでも一気に体力が奪われて、まともには無理だろう。そもそも大量の水を用意しないと突破は難しい。もしくは暑さに強い乗り物を連れてくるかだ。だがなー……』
「さっきのボスだった、巨大な蛇に喰われて終わりだね。そしたら結局、自分達の足でどうにかするしかない。本当に殺す気しか感じられないダンジョンだよ。神どもの殺意が見えるね」
そんな軽口を叩きつつ、二人は砂漠をウロウロしていく。森の層より簡単に魔法陣を見つける事ができ、さっさと先へと進む。ヴァルも途中からはヒッポグリフに変わり、ミクを乗せて上空から魔法陣を探す。
そんな方法で突破しながら30層のボス扉の前。急に空間の神が本体の所に来て、そこが最奥だと告げてくる。唐突だなと思いながらも、ヴァルドラースの事があったのでしっかり準備するミク。
中に入り少し待つと、青、黄、緑、ピンク、そして赤いオークが現れた。そのオークは五体でポーズを決めた後、ミクに襲い掛かってくる。意味が欠片も理解できないミクは、一番近いピンクのオークをメイスでカチ割った。
そのオークは珍しい雌のオークだったのだが、殺された事に他のオークはブチギレて激昂。そして空間の神は何故かケーキを片手に爆笑している。この神は何がしたいのだろうか?。
しかしながら襲ってきても所詮オーク。グレータークラス中位辺りの強さは感じるが、所詮暴れ回るだけの獣でしかない。あっさりとミクに頭をカチ割られ、ヴァルに噛み千切られて死んでいく。
最後まで残った赤色のオークは、ポーズを決めつつ赤紫のオーラを発揮して自身を強化したが、そのポーズのまま頭をカチ割られて死んだ。再び爆笑する空間の神。空気を読まないのは、そんなに楽しいのだろうか?。
「何だろうね、コイツらは? 何でいちいち妙な姿で固まるんだろう。そんな事してたら殺されるに決まってるのに……。本当に意味が全く分からない。何かを間違えてたのかな?」
『どうも違うみたいだぞ。空間の神が言うには、ああいう時には待ってやるのが<お約束>らしい。主はその<お約束>を守らなかったから、空間の神は大笑いしているみたいだ』
「………ゴメン、やっぱり意味が分からない。隙を晒したら攻撃されるのは当たり前なのに、何でいちいち待つの? まず、そこが分からないんだけど……」
『主は間違ってないんじゃないか? 俺も分からないしな』
どうやら二人には<お約束>は早かったらしい。もっと娯楽が発達した星なら分かったのかもしれないが、この星では早すぎたのだろう。
30層の中央にガラス瓶と魔法陣が現れる。王国とは違い、よく分からないまま終わった事に釈然としないミクとヴァル。空間の神が「それは聖霊水だよ」と言って説明をしてくれた。
その後、転移して何処かへ行ったが、説明は簡単なものであった。どうやら呪いや契約の呪縛を解除し、死者を綺麗に清める事が出来る水らしい。つまりアンデッドを死体に戻すという効果だ。
そしてミクが飲めば生成出来るとの事。相変わらず肉塊は反則的な存在だと言える。
ミクはさっさと本体に送り、本体は飲み干して聖霊水を入れた後で分体に返す。分体はそれをアイテムバッグに仕舞い、魔法陣に乗って脱出。ちなみに万能薬も手に入れたガラス瓶に入れてある。
外に戻ったミクはダンジョンから王都に戻るものの、未だに昼と夕方の中間くらいの時間でしかない。夕食までゆっくりしようと宿に向かって歩いている途中で、偶然<闘鬼>と出くわした。
「何処に居るのかと思いながら、今日一日中探し回ったぞ。今度は最初から本気だ! 昨日のは負けでは無いっ!!!」
道のド真ん中で【鬼精暴虐】を使う馬鹿に遠慮はいらんと、ミクは最速で近付いて鳩尾を突き上げた。その一撃で悶絶する<闘鬼>。
コイツは戦闘狂かと、嘆息しながら宿に戻るミクとヴァルだった。




