0086・買い物と用心棒
冒険者ギルドでの用事は終わり建物を後にしたミクは、宿の前の酒場に行き夕食を注文する。今日は山髭族との相席ではないので騒音は無い。ちょっと離れた所から聞こえるが、近くでは無いので助かる。
相席ではあるが正面に座っているのは白耳族なので五月蝿くは無い。何故か黒耳族の男性と一緒に居るが……。ちなみにこの星では白耳族と黒耳族が敵対しているという事は無い。
ただ、本来なら関わらない筈なのだ。どちらも別の神の子が祖先である為、お互いに祖先である光半神族と闇半神族への遠慮がある。ちなみに創半神族に対しては何も無い。
目の前の二種族は仕方なく相席している……という訳ではなかったりする。何故なら誰がどう見ても、完全に恋人同士だからだ。白耳族の目にはハートマークすら見えそうである。
しかも黒耳族の男性は、目の前に美の化身たるミクが居るにも関わらず一切反応していない。正に「お前しか目に入らない」状態である。
普通なら「イラッ」とする光景なのだろうが、恋愛を理解出来ない肉塊にとっては微笑ましい光景でしかなかった。周囲の者はラブラブ空間を作る二人よりも、ガン無視で食事を楽しむミクに注目するのは当然であろう。
食事を終えて余裕の態度で去っていくミクを「おぉーっ」という声で見送る客たち。何故かそこだけは一体化している酒場の一時であった。
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次の日。朝起きて宿の玄関で部屋の延長をし、目の前の酒場に行く。朝食の注文をして待っていると、昨日の恋人同士が酒場にやってきた。黒耳族の男性はゲッソリしており、白耳族の女性は艶々だった。
昨夜なにがあったかはミクでも分かるし、光の神が「うんうん」と頷き、闇の神はスルーしている。光の神と闇の神はどちらも男性の姿の神だが、神にとって姿など幾らでも変えられるものでしかない。つまり男性にも女性にもなれるのだ。
光の神は急に光輝くと女性の姿になり、闇の神を引っ張って何処かへと行ってしまう。やっと休憩できるローネはその場で倒れた。神々は本体の空間をどうしたいのだろうか? 疑問しかないミクだった。
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本日は王都をウロウロすると決めていたミク。その為に昨日は狩りをして稼いでおいたのだ。お金が無い訳ではなく、単なる言い訳用に狩りをしただけでしかないが……。
ミクは色々な店を巡りながら様々な品を買っていく。何故か料理の神が来ていて買い物を頼まれたり、鍛冶の神が来ていてナイフや包丁を調べたりなどしている。どうやら下界の物の質に興味があるらしい。
神である以上はもっと良い物が作れて当たり前だが、下界の者がどれだけ努力したかなどは実際に触れてみないと分からない。見る事は幾らでも出来るが、触れるのは貴重な機会なんだそうだ。
そんな神からの頼まれ物を購入していくが、一番は色々な物を見るのとローネが欲しがった酒と食べ物だ。今や当たり前に暮らしているローネだが、自身のアイテムバッグに入れていた酒が無くなったらしく頼まれている。
チーズや燻製魚に燻製肉。他にも豆類などを買い込み、その後は酒屋へ。大樽のワインや小樽のブランデーも購入して帰る。
宿の部屋に戻ったミクはアイテムバッグを本体に転送し、本体空間で必要な物を出してもらう。そしてアイテムバッグを戻した直後、部屋がノックされて誰かが入ってきた。
入室の許可を出していないにも関わらず勝手に入ってきたのはフェルーシャだ。しかし、何処か緊張した表情をしている。そんなフェルーシャは開口一番こう言った。
「ミク。貴女ウチで働いている子を殺した?」
「………う~ん。多分殺してないと思う。王国で<死壊のグード>に殺された娼婦は見たし食べたけど、アレは<死壊のグード>がやったんで私じゃないし。それに<踊り子の家>で殺したのは<堕落のオーセス>だけだよ?」
「王国じゃないわ、ここ商国でよ」
「じゃあ、ないね。<怪力>が犯していた女を喰ったけど、そいつは個人で売っている奴だったし、薬漬けで狂った女だったから違うし。それ以外に殺した女って居たっけ?」
「………どうやら違うみたいね。何故かここ最近、ウチのシマを荒らす奴が居るのよ。しかも死体が出てこないの。まあ、ミクの場合は血痕も残さないから違うと思ってたけど……」
「商国に来て私が殺したのって……ああ! 森で神聖国に関わる裏組織の奴を殺したよ。黒ずくめのビルスを追いかけていた連中だったけど、そいつらがフェルーシャ達に手を出すかな?」
「んー……ミクがやった事を私達がやったと勘違いした? ……それもおかしな話だし。困ったわね、犯人が見つからないのよ」
「なら私が警備についてあげようか? 別に寝る必要も無いし、夜はこの分体を停止して、本体に戻って暇潰ししてるだけだしね。ついでに男の姿なら私だってバレないでしょ」
「あー、うん。私達悪魔だって、性別やら何やらを自在に変えられる訳じゃないんだけど? あくまでも体の大きさとか胸の大きさを変えられるだけで、性別そのものを変えるとか……反則もいいところよねえ」
「ヴァルにお留守番してもらって、私が男の姿で行こう。ついでに神が監修した奴じゃなくて、すっごい地味な奴にしようっと」
「まあ、好きにして……」
ミクは中肉中背で、髪で目が隠れたモブの姿に変わる。おっそろしく地味な見た目に変わったミクを、化け物を見る目で見ているフェルーシャ。顔や姿を変えられるなら幾らでも逃げられる。それを考えると戦慄するのだった。
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ここは<淫蕩の宴>の息が掛かった娼館の一つ。次に狙われるならここだろうとフェルーシャが読んだ店だ。その店の一階、入り口にミクは居た。腕を組んで仁王立ちしながら客を一人一人確認している。
もちろん五種の感知系スキルを使って、隠れた者も逃さないように徹底的に手を尽くす。そんな中、気になる男が来店した。何故か煌びやかな衣装を纏った軽薄そうな男だが、そいつが来るのと同時に建物近くに三人現れた。
誰も分かってないのか確認にも行かない。仕方なく移動して確認に行こうとすると、途端に軽薄そうな男が話し掛けてきた。
「ちょっといいかな、君。店を案内してほしいんだが?」
「俺は店員ではない、唯の用心棒だ。案内なら店員に聞け」
そう言ってミクは男の前を去っていく。何とかミクを止めようとする男は、店員に捕まり話を聞かれていた。実は店の店員には、モブ男は今回限りの用心棒だとフェルーシャから伝えられている。
つまりミクが動こうとし、それを邪魔するという事は犯人の一味である可能性が高いのだ。なので四人の店員で軽薄そうな男を囲む。見事な連携プレーであった。
ミクは建物近くに居た三人が無断で娼館の敷地に侵入した事を確認すると、一気に走って捕まえに行く。三人は固まって動いており楽に見つける事が出来たが、何故コイツらは固まって動いているのだろうか?。
疑問が湧いたものの、即座に戦闘を開始するミク。既にバレていると理解した黒ずくめの三人は、小さな針を投げつけてきた。先端に毒でも塗ってあるのだろうが、両腕で防御しながら気にせず突っ込む。
流石に止まらないとは思っていなかった黒ずくめは慌ててしまい、その一瞬の隙で接近されてラリアットを喰らった。首から上に直撃をもらった一人はその一発でダウン。意識を失った。
慌ててナイフを取り出した黒ずくめ。しかしその行動は隙にしかならず、トゥーキックを股間に喰らう。見事に潰れた感触がしたが気にせず最後の一人へ。
足を戻している最中のミクにナイフを突き出してきたが、地面に倒れこむ事で回避。そのまま倒れ、地面に手を付いた状態で脛を蹴る。脛当てをしていたようだが押し込むように蹴った為、痛みで飛び上がった。
その瞬間、相手を腕で押し倒してヒールホールドへ。相手を裏返しにして足をロックしたら、そのままアキレス腱をねじ切った。相手は絶叫を上げるものの、既に店の警備の連中は到着している。
これから尋問だが、連中に逃げ場は無い。




