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0083・<怪力>の生い立ちと黒ずくめの男




 竜鉄の武器を作っていくのだが、炉が無くても【錬金術】で作り出せるそうなので素早く作製していく。出来た竜鉄をインゴットにして武器を作ってみるのだが、どうにも切れ味はドラゴンの牙より落ちる。


 替わりに切れ味だけでなく、鉄特有の粘り強さも強化されており非常に耐久力が高い。しかも純鉄に混ぜてミクは作っている為、非常に錆び難いのも特徴となっている。これはこれで使えるなと思いながら武器を作成していく。


 ヴァルの持つバルディッシュとウォーハンマーを竜鉄製に変え、更に竜鉄製のプレートアーマーも作製した。非常に堅牢な装備になりヴァルも喜んでいる。ミクも幾つか作ってみたが、使えるのはメイスだけだった。


 後の武器は耐久力より切れ味が欲しかったので、変更は無しとなる。後はローネの短剣とナイフで終わりだ。なかなか良い装備になって喜ぶが、これを使うに足る敵は居るんだろうか? そんな疑問も出てくるが、気長に待つ事に決めたミク。


 真正面から戦う事が少ないのだから仕方がないが、ダンジョンに期待するミクだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 宿の一室。既にミクはそこにはおらず、部屋の窓から百足の姿で出て行った。どこに行ったかと言えばスラム街の一角、<怪力>が寝泊りしている場所に居た。ミクは小さな百足の姿なので見つかってはいない。


 いや、それは正確ではない。ある男には既に見つかっている。どうやら素の能力でミクを見つけたらしい。とはいえ、百足姿のミクを百足としか思っておらず警戒はしていない。なのでミクも時折動いては止まるという事を繰り返している。


 部屋の中なので麻痺毒を散布してもいいのだが、何かしら引っかかるものがあり、未だに麻痺毒は使っていない。無味無臭で無色の麻痺毒だが、それでも目の前の男には看破される可能性があった。それ故に迂闊な事はしないミク。


 一旦移動してドアの下の隙間から部屋の外に出る。そして、目立たないようにしながら部屋の中へ麻痺毒を散布していく。ゆっくりとではあるが散布していき、ドサッと倒れる音がしたので触手を部屋の中に入れて確認する。


 すると黒ずくめの男が倒れていたので、ゆっくりと近寄っていく。麻痺していない可能性を考慮して、天井などに移動しながら百足のフリを続けていくと、男の近くに行った時に突然ナイフを突き立てられた。やはり麻痺していなかったらしい。



 「この百足は先ほども来ていたが、誰かが操っているのか? いきなり体が麻痺したが、薬を口の中に常備していなければ危なかった。無味無臭の上に色が無いとはやってくれる」



 男はどうやら口の中に麻痺を回復する薬を隠していたらしい。用意周到だが、そこまでしないと対象を守れないのだろう。裏稼業も厄介なものである。


 百足を手に持った男は気付いていなかった。既に掌を刺され、麻痺毒が直接注入されている事を。男はいとも簡単に倒れ、呼吸しか出来なくなってしまう。一瞬パニックになるも、すぐに冷静になり周囲を確認する。


 だが誰かが居るような気配はしない。男はこの段になってようやく目の前の百足が犯人だと気付いた。しかし既に遅く、百足は男を無視して次の部屋へと入って行く。


 中の部屋では男が女性を相手に暴行を働いていた。いや、凌辱しながら暴力を振るっているのが正しい。ミクは即座に麻痺毒を散布し麻痺させると、男の脳に触手を突き刺し喋らせていく。


 部屋の中に居た女も訳が分からず混乱しているが、ミクは興味も無いので無視する。おそらく暴行をしていたこの男が<怪力>だろう。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 <怪力>。この男の生い立ちは不幸であったのだろう。母は娼婦、父はスラムの住人。そして両方共にジャンキーである。この男は他者を殺して奪う事でしか生きられなかった幼少期を過ごす。


 母は四つの時に客の男に殺され、父は薬物を買う金を要求してきた時に殺している。<怪力>ことゼプンテが五歳の時にだ。また、【怪力】のスキルはこの時に手に入れたようだ。


 それ以降は冒険者になり活躍。殺し合いだけは得意な為、ゼプンテから奪おうとする者は自慢の怪力で殺してきた。そんな男である。


 女性を凌辱しながら暴行を加えるのも、母がそうされていたかららしく、この男はそれに対する罪悪感も何も無かった。そんな男でしかなく生かす価値も無い為、さっさと脳を喰らい転送する。


 犯されていた女の脳に触手を刺して話を聞くと、この女は個人で体を売っている娼婦で唯のジャンキーだった。よって脳を喰った後に転送。


 殺し終わったので部屋の外に出ると、黒ずくめの男は動いていた。なかなか優秀な男だが部屋の真ん中ぐらいまでしか行けておらず、そこが限界だったようだ。ミクは内心評価しながらも、さっさと脳を操って支配する。


 この男の名はビルス。かつて裏の世界では名が轟いていたらしいが、神聖国の秘密を知ってしまった時から命を狙われ続けており、その為に顔を隠さざるを得なかった。


 その秘密とは<幸福薬>の栽培場所と、使用している対象である。神聖国は一応国ではあるのだが、その頂点に国王が居て王族が居る。もちろん貴族も居るのだが、彼らは土地を治めているだけの地主でしかない。


 政治の殆どは<神聖教>なる宗教のトップ達が決めており、王族や貴族でさえ<幸福薬>が投与されている。そもそも歴代の王妃も側妃も全て、神聖教の慰み物として使われているそうだ。


 そこまで腐っている事を突き止めてしまったが故に、神聖国から命を狙われ続けているビルス。闇を暴こうとしたら、生涯に渡って闇に追われるとは思っていなかった。そんな事を話すも「ふーん」としか思わないミク。


 粗方聞くべき話も聞いたので脳を喰らい、コイツも転送して宿に帰る。色々聞けたものの、神聖国がクソだという情報くらいしか有用なものは無かった。


 しかし神聖国は聞けば聞くほどクズの要件を満たしている。そう思い、沢山肉が喰えそうなのを密かに喜ぶミクであった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 <怪力>どもを殺して喰った次の日、何処から調べてきたのか朝早くにフェルーシャが宿の部屋に来た。男達は連れてきていないようだが、王都なら問題無いのだろう。そんなフェルーシャは部屋に入ってくると、開口一番聞いてくる。



 「昨日の夜。<怪力>と黒ずくめの男が急に居なくなったそうなんだけど、知ってるわよね? というか、ミクしか居ないでしょう?」


 「まあ、昨日の夜に喰ったけど……妙に早いね? 昨日の今日で、しかもまだ朝だよ」


 「<怪力>の取り巻きが騒いでいるのよ。奴が好き勝手してたのもあるけど、おこぼれを貰っていた連中が復讐されて殺されているからね。大騒ぎになって多くの者が悲鳴を聞いたわ。私は「ざまぁ」としか思わないけど」


 「黒ずくめの奴はビルスという奴だった。神聖国で<幸福薬>が貴族や王族にも使われている事を知ったらしく、神聖国から命を狙われ続けてたみたい。それで黒ずくめだったらしいよ」


 「………本当に碌な事をしない国ね。私達サキュバスからしても困るのよ。薬を使って頭を狂わせる様な事をされると、搾り取れる精の質も悪くなるし、その力も大幅に減る。正直に言ってミクに潰してほしいくらい」


 「えっ、潰すよ? だって一番肉が喰えそうじゃない。私は<喰らう者>。肉だろうが魔力だろうが、精神だろうが魂だろうが喰らう。その私がクズばかりな国を見逃すとか、あり得ないし」


 「………アンノウンって滅茶苦茶よね。何と言うか、反則過ぎて何とも言えないわよ。まあ、聞きたい事も聞けたから帰るわ。ミクの不利にならないように上手く誤魔化しておくから」



 そう言ってフェルーシャは帰って行った。ミクもまた宿の部屋を更新してから、真正面の酒場へと歩いて行く。今日は何をしようかと思いながら……。


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