0076・権力者との話し合い
教職員の常駐する部屋に入ったミク達は、何故かそこに居るダンディーな髭のオッサンと、頭を剃っているムキムキのオッサンと、皺のある歳のいった男性に迎えられた。ちなみに周囲に騎士っぽいのが何人も居る。
「あら、王と宰相じゃないの。となると、そっちに居る歳のいった見た目なのがマルヴェントとかいう侯爵ね。貴方達が何故こんなところに居るのかしら?」
そうカレンが言った途端殺気をぶつけてくる騎士っぽい連中。しかし即座に王と呼ばれた人物が手を挙げて制する。途端に霧散する殺気。とはいえ、ミク達にしてみればショボイものでしかないのだが。
「どうやらお前達が殺気を放っても小揺るぎもされぬらしい。しかも周りの者達もだ。こちらから敵対する気など無いのだから、これ以降は下らぬ事は止めよ」
「「「「「ハッ!」」」」」
何となくパフォーマンスっぽく見えたミクは周りをキョロキョロと見回し、暇潰しを探し始めた。それに対し殺気は放たずともジッと見てくる騎士達。そんな中、カレンが爆弾を放り投げる。
「あっ! 私が居る理由だけど、侯爵家相当とかいうアレ、返上するから。私これから旅に出なきゃならないし、それでギルドマスターも返上してきたっていうか失効したのよ。別の奴を立ててきてるから安心していいわ」
「「「は?」」
王と宰相と侯爵がマヌケな声を出すものの、いきなり自分達の所から離れるというのだ、平静で居るのは難しいだろう。そんな中、驚きから逸早く復帰したのはイスティアだった。
「カレン様が何故ギルドマスターをお辞めになるのですか!? 旅に出られるというのはどういう事です!?」
「どうもこうも言葉通りの意味よ。ここにおられるヴァルドラース様に隷属したし、神命を与えられている以上は全うせねばならないわ。神は下界のゴミどもを喰らい、殺せと仰られたのよ」
「「「「「………」」」」」
「そもそも人間種がどれほど勝手を行い、どれほど下らぬ事をしてきたかは、貴様らの方がよく知っているだろうが。それに対し、神がお怒りにならぬ筈がなかろう? 穢れた者を始末しろと仰られるのは簡単に予想のつく事だ」
「しかし……そのような事を言われ………まさか!?」
スキンヘッドでムキムキの”宰相”がミクを見て愕然とした表情になる。そしてその表情の宰相を見た瞬間、王も侯爵も子爵も意味を理解した。何故ミクが現れたのか、何故そこから裏組織の壊滅などが起きたのか。
「どうやら理解したみたいだな。一応言っておくと、争う気を起こしても無駄だとだけ言っておいてやる。一国の軍隊であろうが須らく皆殺しにされるぞ。ヴァルドラースですら無理だろう」
「ヴァルドラース様はアーククラス中位。そしてミクは、そのヴァルドラース様にすら勝っている。人間種如きがどうにか出来る領域になど、既にいないのよ」
「災害だと言っても良かろうな。そも、ミクはアンノウンなのだ。アーククラスでさえ歯が立たぬアンノウンであり、神々に鍛えられしアンノウンなのだからな。下界の者がどうにかするなど不可能だ」
「えっと……誰かは知らないが、それを勝手に言うのは良くないと思うのだが……?」
「問題無い。後、私は闇半神族だ。黒耳族如きと間違えるなよ?」
「えっ!? ………闇半神族? ……すまない。私は聞いた事が無い」
「あらら。簡単に言うと闇の神に生み出された寿命の無い存在で、黒耳族の祖先だね。闇半神族からは黒耳族しか産まれないらしいよ」
「うむ。だからこそ我々闇半神族は、全て神より生み出された神の子と言えるのだよ。まあ、代わりにあれこれと命令も受けるのだがな……」
そんな話の後、ミク達とカレン達が他国にゴミを潰しに行く旅に出ると聞いて、納得する権力者達。迂闊に関わらない事と邪魔をしない事を宣言し、教職員の部屋から去って行った。忙しいだろうが実りはあったろう。
頭を抱えること請け合いな情報の洪水だったが、一国のトップや高位貴族であれば受け止めるしかない。ある意味で厄介な立場である。
部屋に残ったメンバーは本物の教職員より仕事内容の説明をされる。今年の内容は戦闘訓練の相手だそうだ。ここ近年は国を守ろうという気運が高まっており、それに対して戦闘訓練という形で外部の者を招いている学院。
今年も同じ内容らしく、既にイスティアは昨日に続き今日もらしい。ならイスティアに教えてもらえばいいかと考えた。教職員も同じ考えだったらしく、イスティアに頼むとさっさと仕事に戻って行く。
イスティアは呆れた溜息を吐きながらも、ミク達を訓練場に案内した。訓練場と言っても適当に看板があるだけで、明確にここからと決まっている訳ではない。冒険者ギルドと同じであり、訓練場とは大体こんなものだ。
その場で何度か木剣の素振りをするイスティア。面白がって短剣型の木剣を持ってイスティアと相対するローネ。どちらともなく始めた戦いは一瞬で終わった。
イスティアの攻撃を回避した後、スルリと懐に入ったローネが首に短剣を突きつけたからだ。あまりにもあっさりと終わった事に諦め切れないイスティアは、ローネに挑みあっさりと負け続ける。
途中から集まってきていた生徒はそれを見て驚いていた。そんな中、両手剣の大きさの木剣を持った、体の大きい生徒がミクを指名してくる。ニヤニヤしているところを見るに、ミクの美貌にやられたか、勝てると思っているのだろう。
「おい! 何を勝手な事を言ぐっ!?」
「余計な事を言うな。面白そうだからやらせろ。死ななければ問題無いし、ミクは【治癒魔法】を使える」
イスティアもミクが怪我をするとかは思っていない。生徒の事も考えておらず、勝手な事をしたので叱ろうとしただけだ。何故か服を掴まれて襟で首が絞まったが……。
カレンが前に出て試合の開始を宣言する。二人の間に立ち、「始め!!」の言葉で試合は始まった。両手剣の生徒は走りこみ、袈裟に振るうも当たる筈が無い。今度は素早く手首を切り返して水平に振る。
ミクは前に出てもいないので当たらないが、何故かニヤリと格好をつける生徒。その一瞬で接近したミクは顔面にジャブを放ち、そのままバックステップで戻る。相手の生徒は反応出来ず、ジャブを受けて鼻血を出した。
それを他の生徒に見られ「クスクス」笑われると、怒りで顔が真っ赤に染まる。
「キ、キッサマーーーッ!! よくも俺に恥を掻かせたな!! 俺はトゥェントル伯爵家の嫡男だぞ!!」
「いや、知らないし興味もない。後、本当の戦闘でもそんな事を言うつもり? なんとか伯爵家だと言えば相手が手加減してくれるとでも思ってる?」
それを聞いて激怒したらしい生徒は、滅茶苦茶に両手剣を振り回すが当たらない。しかも一回外れる毎にジャブが顔面に飛んでくる。ミクは欠片も容赦しないらしい。意図的に威力を落としてすらいる。
おちょくられ続けた生徒は、最終的に殴られ過ぎて気絶するまで試合を終わらせてはもらえなかった。途中で棄権かギブアップを宣言しようとしたものの、ミクが顔を殴って無理矢理止めていたのだ。
ギブアップ宣言が無い限り試合を止めてもらえないが、それすら許されない事もあるのだと理解できたろう。
「あー……お前たち。戦いを舐めているとこうなるからな。気をつけておけよ?」
そのローネの言葉に「コクコク」と必死に頷く生徒達がそこにいた。




