0075・話し合いの続きと王立貴族学院
「ヴァルドラース様がミクに殺されたとかいう衝撃的な話は横に置いておくわ。それよりも話を進めましょう。私達はゼルダに依頼があると聞いたから来たの。それとギルドマスターは辞めたから」
「え、ああ。バルクスの町に居ませんからね。……あれ? わざわざ離れる必要ありませんよね? 何でギルドマスターを辞めるんです。ヴァルドラース殿と一緒にバルクスの町に住めば良いのでは?」
「私はね、神より下界の穢れた者や腐った者を殺し、喰らってこいという神命を与えられたんだよ。だからこそ色々な所を巡らなくちゃいけないんだ。ミク殿とは別に巡れと命じられてね。その旅に出なきゃいけないのさ」
「つまり<黄昏>殿も一緒に行く事になったのでバルクスの町を出たと。それはいいんですが、じゃあギルドマスターはいったい誰が……!! もしかしてガルディアス!?」
「よく分かったな。その通りだロディアス。<黄昏>はガルディアスに一方的に押し付けたうえ、即日で屋敷を引き払い王都に来ている。愛に狂った吸血鬼は始末に負えん」
「五月蝿いわね! 貴女だって他人の事を言えないじゃないの。1000年以上を掛けてようやく満たされたからって、性欲に溺れてユルユルじゃない!!!」
「そんな訳あるか!! 私は満たされなかったが、相手をしてやった男どもは簡単に果てたわ! 私の締まりが良く、名器だった所為でな!! お前とは違うのだ!!」
「そんなの貴女が勝手に言っているだけで、証明なんて出来ないでしょう!! それと私の体をヴァルドラース様は褒めて下さったわ!! 貴女みたいに性欲を押し付ける様な獣とは違うのよ!!」
何を口走っているのだろうか、この阿呆二人は……。周りの連中が全員呆れているのが見えないのだろうか。仕方なくヴァルがローネの頭を叩き、ミクがカレンの頭を叩いた。それでやっと冷静になる二人。
周りを見てようやく理解したのかゆっくりと座り、何事も無かったかのようにし始めた。
「ゴホンッ! で、依頼だって聞いたけど、もしかして貴族学院の依頼の事? だったら助かるんだけど、間違いなく向こうも動くだろうね。面倒な事を嫌うミクはいいのかい?」
「特に問題無いよ。この国でする事の最後だと思えば、面倒があってもそれで終わりだし。私達は<ロキド山>を経由して商国に行くつもりだから、何かあっても別にいい」
「えっ!? 王国を出るのかい? 何か引き止められそうな気もするけど、それは考えるだけ無駄だね。どうやってでも出て行ける相手を止める手段なんて無いわけだし。<黄昏>殿は分からないけど……」
『それも無理ではないか? ヴァルドラースを止めるのは不可能だろう。そもそもヴァルドラースの強さはアーククラス中位だ。そのうえ今は【浄化魔法】でも弱体化しない訳だしな』
「おぉう……アーククラス中位って……。そんなの討伐不可能じゃないか。まあ、暴れる方じゃないからいいけどさぁ。そう考えると、普通の人間種って弱いんだな。はははは……」
「それでもロディアスは、ハイクラス中位から高位程度の実力はあるだろうに。ガルディアスの奴はグレータークラスの下位ギリギリぐらいか。クラスが上がる毎に強さの指標も上がるからな」
「??? ……どういう事?」
「ミクは知らなかったか。例えばだがアーククラスの下位から中位に上がる実力というのは、レッサークラス下位からグレータークラス上位までより大きいのだ。それほど実力の差があるという事になる」
「そうそう。そしてアンノウンというのは計測不能で理解不能の強さを持つからアンノウンなの。アンノウンが沢山居れば分かるけど、私達でさえミク以外に知らないしね。大昔には居たそうだけど……?」
「居たな。我等では討伐どころか、逃げ惑う事しか出来なかったのが。それらは神代の時代、神が降臨されて消し飛ばされたよ。アレを見て以降、神には絶対に逆らうまいと思ったな。町よりも巨大な宙に浮く魚が、一瞬で消し飛んだのだ」
「「「「「「「………」」」」」」」
「驚いていないのはミクとヴァルだけか……。やはり知っていると特に驚きも何も無いな。神は神でしかないと、あの時ハッキリ理解した。話しかけられようが命じられようが、こちらから触れるべきではない」
「そもそも私は今のような知能を持つ前、何度も神どもに襲い掛かっては消し飛ばされてるしね。まあ、触手だけなんだけど。それでも、どうにもならない事は知ってる。アイツら私を滅ぼせるし」
もはや意味不明な領域の話をされているので理解出来ない一同だった。ロディアスと話し、依頼を請ける事にしたら明日から行ってくれとの事。実はこの依頼自体は既に始まっているらしく、今日も冒険者が貴族学院に行っているようだ。
その中には<迅雷のイスティア>も居るらしい。何でクレベス子爵家のイスティアが居るのかと思ったら、アルヴェント侯爵家に呼び出されたそうだ。
「俺も色々な情報を収集したりしているからね。どうも子爵領で何かを解決したのがミクだって知った侯爵が呼んだみたい。<迅雷>が何故王都に来ているのかは知らないけどね」
「妹が貴族学校? 学院? に通ってるとは聞いたけど、それじゃないかな。子爵は脳を支配して情報収集に協力したりしただけだよ。それに子爵もイスティアも喋らせるというだけで、私が脳を操ってる事は知らない」
「ああ、そこまでは知らないんだね。なら、何とか誤魔化せるか……。冒険者の【スキル】は明かせませんとか言っておけば大丈夫でしょ。もし何か言われたら、冒険者ギルドの本部に言ってくれって事で」
それで話は終わり、ミク達はゼルダの屋敷に引き上げる。後は各々ゆっくりと過ごしたが、ローネは再び神からの命令で特訓だった。それも少しの間は集中して特訓させる為に本体空間に毎夜引き篭もりらしい。御愁傷様。
ミクとしては束の間の平穏みたいなものだが、無いよりは有った方が良い。喜んでいると、本体がヴァルと共に演技指導を受ける事になった。淫欲の女神の演技指導だから、何の演技かは分かってもらえると思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日、依頼を請けていたミク達は貴族学院へと向かう。従者三人は昨日冒険者ギルドで登録している為、今日は朝から狩りに出かけた。慣れた者が居ては練習にならないので、三人だけでの挑戦だ。
それを見送った後、貴族街への門に来たミク達。通行証が発行されている為それを見せて通っていく。貴族学院は当然貴族しか通わないので貴族街に作られている。それも王城に近い場所だ。王太子など王族も通うんだから当たり前だが。
そんな貴族学院の門番に通行証と依頼を請けてきた事を話す。少し待つと門が開き中に入らせてもらえた為、まずは教職員の居る部屋へと向かう。そこで何をするかの説明があるらしい。
大抵は戦闘方法を子供達に教えたり、旅をする者であれば色々な場所の事を伝えたりする。これは外部から招いた者による視点を、学生に理解させる為に古くからある授業らしい。
教職員の居る部屋の前に辿り着いたのでノックすると、中から誰何する声があったので答えると開いた。中から出てきた女性はミクとカレンを見て驚く。
「何故ここにミクとカレン様が?」
「あら? やっぱりイスティアもここに来ていたのね」
久しぶりに会うイスティアが居たが、何故かその向こうにクレベス子爵も居るようで驚いている。そんな二人をスルーするかのように教職員の部屋に入っていくミク達。
妙に物々しい雰囲気の部屋へと一同は入っていく。




