0074・カレン一行も含めて王都へ
カレンは早急に従者三人と共に荷物を整理していく。そもそもアイテムバッグは大型の物が一つ、中型の物が二つ、小型の物も一つ持っていた。それらに必要な物を詰め込んでいき、不要な物は屋敷で雇っていた者達に好きに持っていって良い事を告げる。
更には雇っていた者達一人につき金貨10枚を支払い、今日辞める事になってしまった事を謝罪していく。この星の文化水準ではいきなり解雇など当たり前であるが、カレンはきちんと手当てをした上で謝罪までした。本来ならあり得ない事である。
それらを行った事に関してはヴァルドラースも高い評価をしていた。そして出発となったのだが、一つある馬車をどうするかで悩み、ヴァルが牽いていく事に決まる。巨大化すれば簡単に牽いていても怪しまれないだろう。
そう決まり、ヴァルが馬車を牽いていく形でバルクスの町を出発した。未だ立ち直れないであろうガルディアスに有無を言わせない為に、さっさと出発したカレン。流石に色ボケしているだけでは無かったようだ。
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ヴァルが牽く事で速く、夕方前にはクベリオの町に到着。馬車を預けられる大型の宿に行き、そこで部屋をとって休むヴァルドラース達。ミク達は馬車内で寝る事になったので、馬車の守りも完璧だ。
ちなみにこうなったのには理由がある。それはローネに対して闇の神が、ミクの本体空間に行く事を認めたからだ。これは神々の決定でもあるので闇の神の独断ではない。むしろ闇の神は嫌がっていた。
何故なら他の神々にとっては、新しい玩具に等しいからだ。自分が作った種族が他の神の玩具にされるのだから、闇の神が嫌がり渋るのは当たり前である。とはいえ決定事項は揺るがないので闇の神も諦めたのだが……。
そして夕食が終わっての馬車内、突如として肉に飲み込まれたローネは本体空間へと転送され、闇の神と戦いの神に扱かれている。どうにも戦闘力が低い事が気掛かりだった二神は、今の内に扱いておく事にしたのだ。
ミクとの逢瀬だと思っていたローネにとっては寝耳に水であり、絶対の方々より強制的に特訓をさせられる羽目になった。本体は物作りをしており、ヴァルは大元で休んでいる。
「思っていたのと違う!」と心の中で叫びながらも必死に熟すローネ。偶にはいいだろうと思うミクとヴァルであった。
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翌日、再び馬車を牽いて進むヴァル。ボロボロの姿で寝るローネ。何があったのか顔を引き攣らせながらも聞くヴァルドラースに、ミクはありのままの事実を説明した。その事で納得したものの、ローネを視界に入れない吸血鬼主従。
自分達も同じ事をやらされたら堪ったものではない。そう思っているのだろうが、カレンより酷い色ボケをしているローネに対する御仕置きでもあるので、実際に吸血鬼主従がやらされる事は無い。今のところは……。
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クベリオの町から四日目。ようやく王都に帰ってきた四人と、王都にやって来た四人。門で入都税を払い、そのままゼルダの屋敷まで馬車で進んで行く。屋敷の門前で守衛に話し、出てきたメイドに事情を説明し通して貰う。
屋敷に入った一行は早速ゼルダに出迎えられた後、応接室で奇妙な事を言われる。
「実はね。ミクに指名依頼が来ているの。当然だけど、どんな依頼であっても断る権利が冒険者にはあるわ。でもねー……この依頼、裏にアルヴェント侯爵と宰相に王が居るのよ。請けないと面倒事になるかもしれない」
「この国はアンノウンに対して喧嘩を売るという事か? 事と次第によっては王国は滅びるぞ」
「向こうはそもそもミクの事を知らないでしょ? アンノウンだなんて考えてもいないわ。それに、ミク。貴方クレベス子爵に口を割らせる方法を微妙に知らせてるわね。それを指摘されたのよ。その御蔭で私も多少匂わせざるを得なかったの」
「まあ、確かに言ったけどさ。それと今回のがどう繋がるの? 誰かの口を割らせろって事?」
「そうじゃなくて、事実ならかなりの問題になるって事よ。どんな相手の口も割らせるというのは、政治に携わる者なら必ず危機感を抱くわ。ついでにミクが裏組織や貴族を潰したのも予想されてる。ほぼ確信しているでしょうね、証拠が無いだけで」
「結局お前は何が言いたいのだ。ハッキリ言えばよかろう」
「学園で冒険者を招いた授業が毎年あるの。それの臨時講師に出てほしいって依頼よ。まあ、十中八九で変装した王や宰相に侯爵が来るんでしょう。そこで話せる事は話してほしいそうよ。神聖国から返却命令が来てるんですって、あの魔剣の」
「ああ、<ブレインホワイト>? あの剣は大して役に立たないって聞いたけど、取り戻す事はしたいんだね。私は商国に行くし、面倒な事は早く終わらせたいからいいよ。適当に出て行けば済むしね」
「私も行って話をつけてこようっと。侯爵家相当の身分なんて要らないし、さっさと捨てて自由にならなきゃね。無駄な柵なんて価値も無いし、もはや損でしかないもの」
その話の後、全員纏めて冒険者ギルドへと移動する。中に入り受付嬢に話すも、返事を待たず二階に上がっていくゼルダとローネ。独特のノックの後に中に入り、さっさとソファーに座る。ミクとヴァルは適当に椅子に座った。
「何か団体様で来たけど何かあったかい? 緊急を要するものは特に無かったと思うけど……」
「緊急じゃないけどあったのよ。とりあえず先に紹介しておくわ。そっちに居る女吸血鬼がカレン。カレン・ヴァルドラース・エスティオルよ。<黄昏>と言えば分かるでしょう?」
「まあね。極めて有名なきゅ……。冒険者ギルドの特例じゃ、バルクスの町に居る間だけギルドマスターだったような?」
「そうらしいわね? で、そのカレンの横に居るのがヴァルドラース。本名はヴァルドラース・ルスティウム・ドラクルというそうよ。<青の鮮血>といえば分かるかしら?」
「………いやいやいやいや。<青の鮮血>と言えば、伝説の真祖の吸血鬼じゃないか。領地を持ち統治者としても優秀で、貴公子として多くの女性を魅了したっていう……あの?」
「そう。そのヴァルドラースよ。何故か王都近郊のダンジョンの最奥に居たらしいわ。知らなかったけど、神聖国の聖都がある辺りが伝説の領地だったらしいのよ。そして神の使徒を名乗るクズどもに襲われたらしいわ」
「ああ、彼女のいう通りでね。その時に【浄化魔法】で弱体化され、<呪具>で狂わされてしまった私は暴走してしまったんだ。辺りに居た者を皆殺しにしても暴れる私を、神がダンジョンの最奥に転移させたという訳さ」
「そんな事が……。しかし、という事はミク達はダンジョンを完全制覇したって事か。偉業なんだけど、公表しない方がいいね。碌なのが絡んでこないよ」
「だろうな。それでヴァルドラースを倒したのだが、神はミクの血肉をヴァルドラースに与える事を命じられたのだ。いや、元々そのつもりだったらしい。それで殺されたヴァルドラースは復活。【浄化魔法】で弱体化せず、<呪い>の効かない吸血鬼が誕生した」
「「「「「「は?」」」」」」
吸血鬼に対抗する唯一の手段といえる【浄化魔法】が効かないとなると、呆然とするのだろう。カレン達主従とゼルダにロディアスは目が点になっているが、驚こうが何をしようが事実は変わらない。
諦めてさっさと受け入れればいいのに。これじゃあ話が進まないと思うミクとヴァルであった。尚、ヴァルドラースは優雅に紅茶を飲んでいる。




