0073・次のギルドマスターは?
ここはカレンの屋敷の食堂。今は夕食中ではあるものの、話の内容は次のギルドマスターをどうするかだ。それと、本当に屋敷を手放すかである。
マリロット、フェルメテ、オルドラスは従者としてついて行くから良いとして、それ以外の雇っている者達はどうするのか? その辺りが決まらない。何だかんだと言って100年以上居る訳で、簡単には辞められない立場である。
「とはいえ続ける何て無理。ヴァルドラース様に御会いした事が全てよ。私はやっと自身の仕えるべき方に巡り会ったんだもの、離れるなんてあり得ないわ。今の中央に居るギルドマスターに押し付ければ終わるでしょ?」
「流石にそれはどうかと思うがな? 吸血鬼が色ボケするなど今に始まった事ではないが、ヴァルドラースの言い分ではこの女、思っている以上に重いぞ? 大丈夫か?」
「貴女、誰だか知らないけど随分と偉そうね? ちゃっかり食事もしてるけどさ。あんまり調子に乗ってると喰うわよ?」
「ほう? 出来るならやってみるがいい。流石にアーククラスにまで上ったヴァルドラースは無理でも、グレータークラス程度は私の相手にはならんぞ」
「「………」」
激しく睨み合うカレンとローネ。従者三人はミクの連れて来た客なので我関せずを貫いている。片方はヴァルドラースだったのだ、もう片方もとんでもない人物の可能性がある事には気付いていた。
気付いていないのは色ボケしているカレンだけである。いつものカレンなら気付いていただろうが、今は舞い上がっているので無理だった。
『一応言っておくが、ローネの種族は闇半神族だからな。黒耳族と勘違いすると激怒するから気をつけた方がいいぞ』
「は? 闇半神族? それって神に作られた、神の使徒でしょう。私だって流石に……えっ!? ホントに?」
「事実だよ。闇の神の使徒なんだけど、闇の神が私についていけって言ったんだってさ。それで一緒に行く事になったんだよ。あんまりにも決まらないならさ、宿のオッサンに丸投げしたら?」
「ガルディアス!! そうよ、<閃光のガルディアス>にやらせればいいじゃない。あいつランク14だし、高ランクなら誰も文句を言わないでしょう。それに<閃光>は他人を見捨てられないお人よしだもの、丁度いいわ」
哀れ、常識人はいつも損をする。しかも今回は何の前触れも無い、完全な我儘のとばっちりだ。シャレにならないが、彼にはきっと<女難の相>が現れており、死ぬまで消えないのだろう。合掌。
「それはいいとして、前に言った通り別の国に行くのなら魔導国の方をお願い。私達は商国の方に行くから。<ロキド山>に秘密のルートを作ってた商国の裏組織が居たんだけど、そいつらから話は聞いてるからさ。こっちから侵入しようと思って」
「まあ私はどっちでも良いんだけどね。少しゆっくり目に進むよ。長い間ダンジョンの最奥に居たし、今の世界情勢をそこまで理解していない。自分が田舎者のようになるとは思わなかったけど、これはこれで面白いと思って楽しむつもりさ」
「御心配無く、我が君。分からぬ事が有りましたら、全て僕たるカレンにお任せを」
あまりの変わりようにローネは白い目を向けているが、ミクとヴァルは興味無しとばかりに食事を終えた。マリロットに使ってもいい寝室を聞くと、さっさとその部屋へと移動する。ローネもそれに続き食堂を後にした。
ミクは本体でライダースーツを作ろうと思い、後の事をヴァルに任せて分体を停止する。ヴァルは「仕方ないな」と言い、ローネを満足させてから大元に戻るのだった。
その日の夜。ヴァルドラースに散々啼かされた<狂愛の僕>は、およそ560年も鬱積した物に、ようやく終止符を打つ事が出来た。本人も知らずに溜め込んでいた物を理解して綺麗に解消した手腕に、従者三人は畏敬の念を覚えるのだった。
尚、マリロット、フェルメテ、オルドラスもその夜に散々抱かれ、更に畏敬の念を深めるのだった。
………その方、とある肉塊に搾り尽くされましたよ?。
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明けて翌日。朝の食堂に現れた新しい主従は、何だか色々大変だった。ヴァルドラースは普通なのだが、後ろに付き従う三人はヴァルドラースに恭しく仕え、狂愛の吸血鬼はヴァルドラースしか見ていない。
流石にそれでは駄目なのでヴァルドラースが声を掛けると、渋々といった感じでミクやローネの方を向く。それが客人に対する態度か? と怒られそうだが、二人は特に気にしていない。
「あれ? 使い魔はどうしたんだい? 私の名をとった彼に何かあったのかな……」
「いや? 単に私の本体の空間に神が来ていて、ヴァルが相手をしているだけ。というか、ヴァルに色々教えてる? 来ているのは淫欲の女神だね。何か本体も色々聞いてるみたいだけど、指導されてる感じ」
「指導か……いや、素晴らしくなって帰ってくるなら良い事だ。どんな事でも努力しないと上達しないしな!」
何を考えているのか分かりやす過ぎてジト目になるローネ以外。そして、いつも通り気にしないローネ。そんな中、ふと気付いたローネが口を開く。
「<黄昏>と言ったか……そもそもだが、お前は私をそんな目で見られる立場か? 冒険者ギルドで何をやったか忘れた訳ではあるまい。昨夜、散々に啼かされる女の嬌声が聞こえてきたが、それは幻聴だとでも言う気か?」
「//////」
「まあ、永く鬱屈していたのですよ。その思いを解消するには仕方ない、そう言えると思います。大凡560年ほど溜めこんでいたそうですから」
「高がその程度ではないか、下らん。私など1000年を遥かに超える期間、全く満たされなんだのだぞ。高々560年程度でガタガタ言うな」
「「「「「………」」」」」
流石に想像したのか黙り込んでしまった。その面倒な空気を変えたのはミクだった。
「それは横に置いといてよ。それよりも何時オッサンをギルドマスターにするの? 私としては早い方が良いんだけど、決めてくれないと困るのもあってさ。変なタイミングで商国に行くと、色々やった事がおかしく出る可能性があるし」
「今日これからガルディアスに話して、無理矢理引き受けさせたら王都に向かって出発かな? どうせここの冒険者を人質にして交渉すれば、あの男ならすぐに折れるわ。申し訳ないんだけど、呼んできて頂戴」
「かしこまりました」
そう言ってマリロットが食堂を出る。しかし食事を終えた為、応接室に移動してガルディアスを待つ事に。バルクスの町を離れてからの話をしていると、応接室の扉がノックされマリロットとガルディアスが入ってきた。
「呼ばれたから参上しましたが……いったい何の御用で?」
「貴方、明日からギルドマスター代理ね」
「はい?」
いきなり訳の分からない事を言われ、思考が停止するガルディアス。当然の反応でもあるが、停止してしまう事こそが、彼が常識人である証拠だ。故に、何とか言われた事を理解しようとする。
そして理解した結果、やはり意味が分からないガルディアスだった。
「いや、訳が分からないんですが。急に何なんです?」
「私はここにおられるヴァルドラース様と共に旅に出る事になったから、この町で一番ランクの高い貴方が次のギルドマスターね。という話よ。分かった?」
「………ええと、何とか。……えっ!? それは俺じゃなくちゃ駄目なんで? 流石にやりたくないんですがね」
「そんな事は知らないわ、貴方の元同僚に言いなさい。私は辞めるというだけよ。<不慮の事案があった際、ランクの一番高い者が臨時にギルドマスターを勤める>。ちゃんとギルドでも決まっている事だから諦めなさいな」
「いやいやいやいや、おかしいでしょうよ!? 別に事案も何も無いでしょう! 正式にギル……しまった、そういう事か……」
「そうよ、ようやく気付いたのね。私は吸血鬼。バルクスの町に居る間は特例で認められていただけ。本来は討伐される側の吸血鬼をギルドマスターになんて出来ない。だから特例を作ったのよ」
「だがバルクスの町を出ちまったら、自動的にギルドマスターから外れる。そして先ほどのルールが適用されて、俺が臨時のギルドマスターになっちまうと……。マジかよー」
常識人とはこうやって丸め込まれるという見本である。強引だがルール上は違法ではない。違法ではないのだが……やはり、こうするしかあるまい。合掌。




