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0070・VS<青の鮮血>




 戦いが始まるとなれば当然だが問答無用である。充実している魔力と闘気を使い、一気に接近してきて腕を振るう。それだけで敵は爆散するほどの威力がある。吸血鬼の強みを存分に活かした攻撃だ。


 しかし、ミクはそれを左腕一本で受け止める。それが当然のように、それ以外あり得ないかのように平然と。それを見たヴァルドラースの口角も上がる。


 この孤独の場所で、次は失敗しない様に鍛えに鍛えたというのに、その自分と殴り合える人物が居る。それは驚愕であり喜びであった。貴族然としている貴公子であっても吸血鬼である。やはり闘争に飢えていたのだ。


 自分を弱体化させる【浄化魔法】や、狂わせた<呪具>など使われず全力で戦える。その事に喜んでいたら、強烈な右のミドルキックを叩き込まれた。体の内側にも凄まじい威力が伝わり、慌ててバックステップで退くヴァルドラース。


 目の前の女性が異常な程の強者であると知り、更に口角が吊り上がる。今、まさしく自分がしているのは闘争なのだ。どちらかしか生き残れない闘争。そして、今まで永きに渡り生きてきた人生の中で、圧倒的に最強の存在だ。



 「お嬢さんは怖ろしいですね。かつての私であれば戦う事すら出来なかったでしょう。アーククラス下位であった私が、中位にのぼるほど鍛えたのですがね。まさかその先に在る方が居ようとは……」


 「私はそこまでの強さすら持っていないが、お前は形振り構わず全力で闘え。お前の目の前に居る女性は、アンノウンだ。アーククラス如きではない、アンノウンなのだ」


 「………何という事だ。私の目の前に正真正銘の怪物が居たとは……。ならば是非も無し、全力で行きましょう!! 【血潮ノ闘争】!!」


 「本気になったって訳かな? そうこなくちゃ。どこまでやってくれるか楽しみだよ!」



 ヴァルドラースが【血潮ノ闘争】というスキルを使用してからの速度とパワーは、異常と言っても良かった。人間種とは違う吸血鬼だからこその速度と、そこから繰り出される破壊力。攻撃がミクの体に当たる度に爆発音がして衝撃が周囲にはしる。


 それでもなお、アンノウンは崩れない。全ての攻撃を守り防いでしまう。吸血鬼をも超える、圧倒的な耐久力がそこにはあった。ヴァルドラースが、<青の鮮血>が全力を使っても敗れない壁。いつしかヴァルドラースは笑いながら殴っていた。


 ここまで自分がやっても小揺るぎもしない圧倒的な存在、それこそが目の前に居るアンノウン。自らよりも圧倒的に格上の存在が目の前に在ると、こういう気分なのだなと嬉しくなってしまったのだ。それ故に彼は解禁する。



 「ここまでアンノウンという方がバケモノだとは思いもしませんでした! ですので全力を受け止めて下さい!! 【鮮血の涙】!!」



 ヴァルドラースは自らの血を掌から散弾のように飛ばしてくる。それは回避不能といえる速さで飛翔し、ミクの体を穿っていく。まさかミクの肉体を穿つほどの威力があるとは思わず、流石のローネも狼狽ろうばいした。


 が、所詮は穿つ程度である。傷は一瞬で塞がり何も無かったかの様に元通りになった。とはいえライダースーツはボロボロだ。またもやダメになってしまった御礼に、一つだけ専用スキルを解禁する事にしたミク。



 「凄いスキルだった。まさに吸血鬼らしいスキルだったよ。だから私も一つだけ見せてあげる。戦いの神と共に編み出した、私専用のスキルをね!」



 そう言ってミクはヴァルドラースが回避できない速さで接近し、左のボディブローを喰らわせる。顔が上がったヴァルドラースの顎を蹴り上げ、意識を飛ばした瞬間、ミクは右腕の手首から先を真っ白なドリル状に変化させた。


 そのドリルが「キュィィィィィィィ」と甲高かんだかい音を上げ、凄まじい回転を始める。



 「それじゃ、いくよ!! 【螺旋崩壊撃スパイラルクラッシュ】!!」



 ミクの右腕のドリルは本体の牙の色。つまりアンノウンの牙である。それを使われて耐えられる物などあろう筈も無く、ヴァルドラースの心臓はミクの右腕に貫かれた。辺りに心臓や筋肉だった物が飛び散る。


 貫かれた衝撃で「ビクッ」と体が動いた後、ヴァルドラースは仰向けに倒れた。気は取り戻したものの、最早死ぬしかない一撃だ。吸血鬼とはいえ心臓を潰されてはどうにもならない。伝説のように幾らでも復活するという事は不可能である。



 「ゴブッ……と、とんでもない、方だ。…です、が、闘えた事、ありがたく……。お、お見事で、ござ……た………」



 そう言ってヴァルドラースは息を引き取った。部屋の中央の地面に青い魔法陣が出現し、その手前に紅い液体の小瓶が現れる。あれが報酬だろうかと近付くが、本体の所に血の神が訪れ、ある事をミクに命じていく。


 ミクは仕方なくヴァルドラースの死体に近寄り、右腕を肉塊にしてヴァルドラースの胸の穴を埋める。その肉塊を失った内臓と筋肉に変えていき、蘇生を始めた。


 更に必要な肉と血を補充してやって切り離すと、ヴァルドラースの顔色が回復し、血を吐きながら意識を取り戻す。



 「ゴホッ、ゴホッ。いったい、何が………。貴女はアンノウン……そしてローネレリア様? これはどういうコホッ、でしょうか?」


 「血の神が貴方を助けろってさ。それと私の肉と血を渡すのも決めてたんだって。というより、その為にダンジョン攻略を遊興の神が命じてきたらしい。貴方に私の血と肉を分け与えて、【浄化魔法】と<呪具>に負けないようにさせる為」


 「という事は、今のヴァルドラースには【浄化魔法】も<呪具>も効かないという事か?」


 「正しくは【浄化魔法】を受けても弱体化せず、<呪い>を無効化するぐらいかな。流石に私みたいに呪いを食べたりは出来ないよ」


 『それは主しか出来ないと思うぞ? そもそも主は<喰らう者>なのだしな。それにしても、俺の名前の元が死ななくて良かった。主に貫かれて死んだ者の名というのは、流石にちょっとな……』


 「??? それは、いったい……」


 「この使い魔? はヴァルという。お前の名であるヴァルドラースからとったらしい。<黄昏>とも呼ばれる高位吸血鬼、カレンがお前の名を付けさせようとしたのだ」


 「成る程、そうでしたか。それは光栄なこ………」


 「急に黙ったって事は、神から何か言われてるみたいだね。少し待つしかないか」


 『主はそろそろ服を着た方がいい。いつまで裸で居るつもりだ。ライダースーツは無くなったが、予備がまだあったろう?』


 「あるけどさ、やたらに破かれるのは気のせいかな? 普通の服の方が破られてないよ」



 文句を言いながらも予備のライダースーツを着ていくミク。丁度着終わったタイミングでヴァルドラースが正気に戻る。どうやら神からの話は終わったらしい。



 「どうやら私にも? 神命が下ったようです。地上の愚か者を喰らい、殺せとの事。それと同胞の中にも命を受けている者が居るので、その者と共に地上を綺麗にせよと。ミク殿とは別との事です」


 「私達とは別か……同胞っていうのはカレンの事だろうね。一旦カレンの所へ帰ろうか? ヴァルドラースを連れて行くのもあるし、私達もこの国を出ようと思ってたし」


 「………成る程。この国の王都のゴミどもも、殆どミクが喰ってしまったしな。綺麗になったなら次の国へと行かねばならん。次は魔導国か?」


 「そう思ってたんだけど、カレンとヴァルドラースが魔導国へ行くなら、私達はあそこを通って商国に行こうよ。ヴァルなら飛んでいけるし」


 『ロキド山のデスホーネット地帯か……まあ、あそこだけなら見られないだろう』



 とりあえず適当なシャツとズボンをヴァルドラースに渡して着させる。流石に胸に大きな穴が空いているままはダメだろう。後、出てきた小瓶は万能薬らしい。これをミクが飲めば生成出来る様になるとの事。


 相変わらず、何がしたいのかよく分からないが、最下層で出現するアイテムはランダムらしい。しかも確定でアイテムが出るのも最下層だけだそうだ。意外にケチだと思うミクだった。


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