0069・ダンジョン最深部へ
ローネに媚薬を注入して撃沈した後、本体空間に意識の大半を戻したミクの下に遊興の神が来た。神は王都のダンジョンが全40層である事と、攻略してから移動するように言って去っていく。
意味は分からないものの神からの命令だ。ミクには受けないという選択肢は無い。仕方なく、移動前にダンジョン攻略を終わらせようと予定を変える。とはいえ特に決まったスケジュールも無いので、特に問題は無いようだが……。
ミクとしては、わざわざ神が言いに来た時点で何かあると思っている。というより何かがないと言いに来たりなんてしない。という事は、ダンジョンの最奥に何かがあるという事だ。それが光景なのか物なのかは知らないが、行くしかないだろう。
そう思いながらミクは準備を整える。といっても、やる事など殆ど無いのだが。
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翌日の朝食時。ミクは昨夜のタイミングで遊興の神にダンジョンを攻略してこいと言われた事を伝え、ダンジョン攻略をしてくると宣言した。ミク的には言っただけだが、聞いていたゼルダとローネからすれば前人未到の宣言に等しい。
ダンジョンの30層から先は魔法陣の位置がバラバラである事は判明している。実は34層までミク達は既に進んでいるのだ。ドラゴン討伐の際にちょこちょこ進んだりしていたからだが、それ故に規則性がない事も知っている。
20層以降は脱出の魔法陣から真っ直ぐ山側へと行けばいいのだが、30層以降は完全にランダム配置だ。脱出の魔法陣も、次の層への転移の魔法陣も位置は変わらない。だが、何処にあるかが分からず彷徨う羽目になる。
更にはランダム転移である為、前回と今回では開始位置が違う。だから目印のような物を見つけても、その目印に辿り着けるか分からない。結局はウロウロするしかないのだが、30層以降はウロウロするのすら難しい程に敵が厄介だ。
そんな話をした後に、攻略してくる事をもう一度言う。ゼルダとローネは呆れたように溜息を吐き、ローネは一緒に行くと言った。ミクは危険なので連れて行く気は無かったのだが、ローネは行く事を譲らない。最後にはミクの方が折れた。
ドラゴンの時は折れたものの、本来ローネはミクについて行かなければいけない立場だ。ゼルダの屋敷で留守番をしている訳にはいかない。という事で、意地でもついて行くようだ。
その話も終わり、寝室に戻って装備などを整えた三人はゼルダの屋敷を出発。ダンジョンへ向かう。移動中も声を掛けられるが、適当に応じながら鬱陶しいのはスルーしていく。そうしてダンジョンに突入すると、ヴァルに乗って一気に走って行く。
10層のボスを倒し、20層のボスも倒す。20層からも速度を殆ど落とす事無く進み、30層のドラゴンもあっさり撃破。倒す事だけを考えるなら、開始早々ドラゴンバスターで首を落とせば終わる。何も手に入らないが……。
30層。ここから転移の魔法陣探しが始まる。とはいえ何度も来たのだ、何となく東にあるのは分かっていた。そちらの方角に進みつつ進路上の魔物を食べていく。ハイレイスが面倒なので優先して食べ、出てきたヴァンパイアも食べる。
そのまま進んで行き魔法陣を発見したので31層へ。その調子で進んで行き、34層の魔法陣前で昼食を食べる。グランドベアの肉を細かくして炒め、炒り卵と野菜をパンで挟んだ物だ。パンは食パンに近い物で挟んである。
まだこの星では全粒粉が基本なので、パンも全粒粉で作った。健康の神いわく、小麦のみのパンは体に良くないらしい。なので全粒粉でパンを作るようにと言っていた。ミクは人間種と味覚が違うので、そもそも小麦のままでも食べられる。
なので分からないのだが、美味しくないが体に良い方を選んだ。そうミクは言ったものの、ローネは普通に美味しいと言っている。ダンジョン内の食事など冷めた物が当たり前で美味しくはないのだ。そもそも保存食を齧るくらいでしかない。
そう力説するローネに「ふーん」としか言えないミクと、何も言わないヴァル。理解されずにどうやら諦めたようだ。
ちなみにだが、アイテムバッグに時間停止機能など存在しない。当たり前ではあるが、一応、念の為。
軽い昼食後、ローネが用を足してから出発する。ミクとヴァルはトイレに行かない以前に、生理現象が存在しない。そういう意味でも反則的な生物である。それは横に置いておくとして、気分がリフレッシュした一行は更に先へと進んで行く。
そして36層に踏み込んだが、やはり墓場の地形は変わらないらしい。今までとの違いはヴァンパイアが普通に出るようになった事ぐらいである。それもミクに食われるか、ヴァルに食われるだけだ。ローネは二人に任せている。
ヴァンパイアは耐久力も筋力も高く、まともには相手をしていられない。だからこそ喰らって終わらせるのは最適解の一つと言える。後は【浄化魔法】で一気に弱らせるか、それとも【光魔法】で倒すかだ。
とはいえ【光魔法】で倒せるヴァンパイアなど高が知れている。グレータークラスまで上がると日光を無効化するので、【光魔法】も弱点ではなくなってしまうのだ。なので常に効くのは【浄化魔法】だけとなる。
日光を無効化できない程度のヴァンパイアを喰らいつつ先へと進み、ようやく40層へと辿り着く。そこは石の壁に囲まれた場所で、縦横が20メートル、高さが5メートルくらいの場所だった。
そんな一室にポツンと立つ一人の男性。その目は真っ赤に染まっており、尋常でないほどの魔力が噴き上がっている。間違いなくアーククラスと言えるヴァンパイアがそこに居た。
「ようこそ、お嬢さん。まさか私が閉じ込められたここに来る者が居るとは思わなかったよ。私の名はヴァルドラース・ルスティウム・ドラクル。<青の鮮血>と呼ばれる事も多い吸血鬼さ」
「ヴァルドラース……! かつてのお前より随分と力を増しているな。このような所に囚われて力を増やすなど、修行でもしていたか?」
「………!! これはこれは、あまりにも永く閉じ込められた所為で忘れていましたよ。半分とはいえ神たる方を忘れるとは、孤独の中で私も狂っていたのでしょう。ローネレリア様、お久しぶりでございます」
「ああ。それよりも、何故こんな所に閉じ込められているのだ? お前が滅びたという話もあったが、ここに居るお前は記憶を正しく持っているようだ。ならばおかしい。何故、忽然と居なくなった?」
「自らを神の使徒とかホザく、頭のおかしい狂人どもに攻められましてね。私は最後まで戦ったのですが、奴等の【浄化魔法】と<呪具>の所為でおかしな事になってしまったのですよ。その所為で暴走しましてね、ここに閉じ込められました」
「暴走? いや、神の使徒だと言ったのか……!? そう言えばヴァルドラースが持っていた領地は、今は神聖国がある場所だ。……成る程、そういう事か」
「よく分かりませんが、おそらく私の元に居た者達は散り散りになったでしょう。それはもういいのです。私をここに閉じ込めた神の御蔭で暴走からは救われましたが、代わりに出られなくなってしまいましてね。困っていたのです」
「そうか。ここはロンダ王国にあるダンジョンの40層だ。そして何故かお前はダンジョン最奥のボスになっている。すまないのだが、お前を倒さない限り私達も脱出できん。お互い覚悟を決めねばな」
「………成る程。ローネレリア様が嘘を吐く筈もありませんし、どうやら事実のようです。何故私がボスにされているのかは知りませんが、それが私の為すべき事であるならば、容赦は致しませんよ?」
魔力だけではなく、今度は闘気までが噴き上がる。アーククラス中位と言ってもいい存在がそこに居た。ネメアル以来の強者の出現に、口角が自然と上がるミク。
果たして彼は闘うに足る存在なのであろうか?。




