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0068・最高権力者が困惑する夜




 「ふむ。つまりこの者に関しては何も分からぬという事か。そして裏の情報屋どもに聞いても分からぬ……と。困ったものよな、よく分からぬ者がおるのは。<黄昏>殿のように、国から爵位を渡さねばならぬか?」


 「分かりませぬ。<魔女>殿の屋敷に厄介になっておる頃から調べておりますが、皆目かいもく分からず終い。下からの調べも、裏の者の調べも、バルクスの町でプツリと無くなるのでございます。それ以前は完全に不明としか申せませぬ」


 「ぬう……。ここまで意味の分からぬ者も珍しい。そして、野放しにするには問題が多そうだ。この者が掲げた剣の事もある。非公式ながら、神聖国からの返却”願い”もあるしの」


 「返却”願い”とはまた……お優しい表現ですな。まるで返して当たり前、命令を聞いて当たり前。そう言わんばかりに居丈高いたけだかでしたぞ? ま、あの国は変わりませんがな。外交のがの字も理解せぬ者ばかりで嫌になります」


 「ふふふふ……。まあ、こちらが聞いてやる義理など無いしな。向こうからカードの内容を明かしてくれたのだ、こちらは精々有効に使うだけよ。とはいっても、冒険者の持ち物を勝手に取り上げる訳にもいかんしな? 我が国は野蛮国家ではないゆえ」


 「まあ、当然でございましょう。そもそもくだんの者は魔剣だと言うておりますからな。確か……魔剣<ブレインホワイト>でしたかな? よう皮肉が効いておる名だと思いますぞ。最初聞いた時には、年甲斐もなく大笑い致しましたな」


 「余もだ。盛大な皮肉としか言えん。我が国でもほんの一部の者は知っておるがな、あの国はあまりにも醜すぎる。人を薬で操ろうなど常軌を逸しておるとしか思えんし、胸糞悪くなるわ」


 「どうやらそれも、昨今は上手くいっておらぬ様ではありますがな。どうも国民にも薬の存在がバレておるようで、相当怪しまれております。流石に噂に信憑性が有り過ぎますからなぁ……」


 「我が国もそうだが、魔導国も商国も帝国も流しておる。そのうえ帰ってきた者の頭が狂っておるならば、怪しむのは当然よ。そして事が明るみに出るや、何者かに暗殺されるのだ。怪し過ぎて仕方があるまい」


 「それは何処かの阿呆な国の事ですので、横に置いておきましょう。それよりも、この者を如何にするべきなのか……。本音を言えば、敵に居ても味方に居ても困る人材ですな。しかし、手を出すのはマズそうです」


 「やはり宰相もそう思うか……。正直に言えば<黄昏>殿よりも嫌な予感がするのだ。まあ、<黄昏>殿に爵位を与えたのは先々代ではあるのだが、その頃の王都よりも騒動が多い。貴族の当主が複数居なくなるなどな」


 「そのうえ居なくなった者どもは、もれなく他国と関わりあると噂された者達。更には王都の裏組織がことごとく壊滅。にも関わらず、目撃者は無しですからな。これを一人でやったのなら、バケモノという他ありませぬな」



 怪物である。バケモノと言ってもいいだろう。怪物だろうがバケモノだろうが、所詮は同じ仲間に過ぎない。どちらも理解不能である事に変わりは無いのだから。


 そんな話し合いをしている最中に、執務室の扉をノックする音が響き、王は誰何する事も無く部屋に入れた。宰相は部屋の主ではない為、一切口を挟まない。



 「失礼致します。昨日の裏組織と男爵家の当主の行方不明ですが、此度も目撃者無しのうえ、張り込んでいた近衛も何も見ておらぬとの事です。争う様な声も音もしなかったと申しておりました。以上でございます」


 「御苦労。下がってよい」


 「ハッ」



 そう言って敬礼した後に部屋を出る騎士姿の男。彼は特殊な近衛の一人である。何処の国にもある闇。その闇を遂行する近衛騎士団の一人だ。普段は普通の近衛騎士として働いている。



 「さて……何も見ておらぬし、何も聞いておらぬそうだ。読みは当たっておるのに突入するキッカケさえ掴めん。その事実からすれば、隠密に相当特化した【スキル】を持っておるぞ」


 「でしょうな。近衛の感知系スキルすら凌駕するとなれば暗殺も可能でしょう。しかし、ならば何故目立つ事をするのか。それも<ドラゴン討伐>などの一員を……。隠密特化であれば、戦闘の役には立たぬ筈です」


 「……確かにな。そのうえ冒険者ギルドは、ドラゴンの首を切り落としたのはミクという女性冒険者だと発表しておる。あまりにも目立ち過ぎるし、他の者達とて、かつての<竜の討伐者>だ。目立つ者ばかりでしかない」


 「このミクという冒険者が王都に来てから、立て続けに様々な事が起きておるのも事実。果たして何がなにやら……」



 国家の最高権力者となれば様々な事を想定せねばならないのだが、情報不足という最初の状況でつまづいてしまい、二進にっち三進さっちもいかない王と宰相だった。


 そもそも幾ら張り込んだところで、百足や蛾に姿を変えるなど想像もつかないのだから、根本的に考えるだけ無駄なのである。ちなみに<黄昏>ことカレンだが、彼女の種族である吸血鬼ヴァンパイアは人間の姿だけだ。


 蝙蝠に変身したり、狼に変身したりなどはしないし出来ない。出来る種族は存在するが、吸血鬼ヴァンパイアは不可能だ。そして世の殆どの種族が不可能であり、可能なのは悪魔や使い魔など一部の者だけである。


 ならばミクは悪魔なのかとなるのだが、何をもって悪魔とするのかで幾らでも変わる為、この主張に意味は無い。なので王の頭にも宰相の頭にも<悪魔>という可能性自体は浮かんでいるが、それを彼らは一蹴している。


 悪魔を悪魔と立証するのは不可能だからだ。悪魔が自らを悪魔だと言ったところで、それを立証しなければ悪魔だとは言えない。そんな事は不可能なのだ。強要して無理矢理にやらせる? そんな事は人間種には不可能である。


 つまりは悪魔かどうかの思考をしても議論をしても、意味など何処にも無いのだ。だからと言って、起こっている事は事実として色々考えなければならない。


 王も宰相も慌てていないが、これは貴族家は継がせれば済み、裏組織は無くなってスッキリしたという程度でしかない為だ。彼らにとって焦るような事は何も起きていない。その為、楽観的であった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ところ変わって、こちらはミク。最近立て続けに裏組織の連中を食べて御満悦ではあるが、そろそろ終わりに近付いているという予感もしている。この国の腐った奴等の大半を喰ったと思われるので、そろそろ次に行くかとも思案中だ。


 ダンジョンの奥地を攻略したいという気持ちもあるのだが、それも絶対にしなければいけない訳でもない。まあ、ローネを連れて行くだけならば可能ではある。最近は食べる物も買ってアイテムバッグに入れているし、料理道具も充実した。


 料理の神の指導が入った手作りだが、殺した奴等が持っていた鉄を流用して作成済みだ。二日~三日潜っていたとして、誰も文句などは言わないだろう。朝早く出かけてダンジョンに入ってしまえばこっちのものだ。


 それに、バカ騒ぎも下火になりつつある。それでも多いが、最初の熱狂に比べれば遥かにマシであり、今なら普通に出歩けるレベルだ。最初はあっと言う間に囲まれて、身動きがとれなくなる程だった。


 この国は東に魔導国があるのだから、次はそっちかな? と考えていたら急に体がまさぐられる。さっき寝たと思っていたローネが情欲の篭もった目で、ミクの体を触りながら見てきた。


 カチンときたミクは、初めて神謹製の媚薬を注入してから盛大に触手を使う。泡を吹いて痙攣しているが、後悔も反省もしないミクはさっさと肉体を停止した。


 余計に悦ばせる結果になってませんか?。


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