0067・神聖国系の裏組織壊滅
ようやく裏組織の連中も眠り始めた頃、ミクもまた動き出す。寝ている連中の近くに近付き、部屋中に麻痺毒を散布。一斉に麻痺させた後で脳を支配し尋問をしていく。知っている情報が多いが、聞き出し終わると脳を食べて本体に転送する。
部屋の中に漂う麻痺毒を全て吸い込んで回収し、次の部屋へと移動をしていく。そうやって繰り返し情報を得たら、神聖国が関わる次の裏組織のアジトへ。夜の内に全てのアジトを潰す気で動き回るミク。
最終的には三つのアジトと一つの男爵家に侵入する事になったが、その甲斐もあって全ての神聖国系の裏組織は潰せた筈である。意気揚々とゼルダの屋敷に帰るミク、そして無人になったアジトと当主の居なくなった屋敷。
凄まじい対比だと思えるが、怪物の敵に回ったのだから当然の結果とも言える。この日の夜、神聖国は王国の王都への足掛かりを完全に失った。
三十数年かけてやってきた事が、<聖剣>も<ソルシャイル>も含めて全て失われたのだ。知った者達はどれほど怒り狂うか分からないが、今はまだバレてはいない。だが何時かバレる時がくるだろう。
その時はミクと神聖国の全面戦争だろうか? それとも王国と神聖国の全面戦争だろうか? それはまだ誰にも分からない。
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翌日。朝食時に質問されたミクは素直に神聖国のアジトと、唆された男爵を殺してきた事を説明。多少は呆れられたものの納得はされた。そもそも文句を言ってきたバカが居たので、報復の理由は既にある。
なので何も問題は無いのだが、男爵は多少問題になる可能性があった。とはいえ黙っていれば問題無い程度の話であるし、そもそも神聖国に買収されている時点で売国奴である。容赦をする必要は欠片も無い。
そんな話をしているとメイドが、冒険者ギルドから連絡があった事を告げる。何でも朝も早くから貴族の使いが押し掛けていて、あの部位を売れ、この部位を売れと五月蝿いらしい。なので近付かないようにとの事だ。
「どうやらロディアスが気を利かせてくれたようね。私達が攻撃して手に入れた部位も多いけど、一番は文句無くミクが切り落とした頭でしょうね。アレには幾らの値がつくか分からないほどよ」
「確かにな。かつての時は、とてもじゃないが余裕など無かった。そもそもあんなに太い首を綺麗に切り落とすのは無理だ。ロディアスの魔剣でも、ガルディアスの魔槍でも無理なのだからな」
「あれらも何とかダメージを与えられるだけなのよね。どちらかと言うと切りつけたり刺したりした後に、専用スキルで攻撃する感じだもの。内部には効くでしょうけど、切れるかと言えば……」
「魔剣の中でも良い物というのは、専用スキルがあるものだからな。無い物に関してはそこまで評価されん。それでも優秀ではあるが、ドラゴンの素材ほどの切れ味や耐久力は無い。仕方がない事だがな」
「そもそも頭って後二個ぐらい余ってるんだよね。目玉とかって何に使えるのかも分からないし。舌はそれなりに美味しかったけど、焼いたらもっと美味しくなったね。それまでに色々下処理が必要だけど」
『アレか……確かに主の言う通り美味しかったが、尻尾の肉も美味しかったぞ。あそこは肉の量も多いし、なかなか食い応えがあった。後は適当に集めた端材で作ったハンバーグも良かったな』
本体の空間には空気もあるし、綺麗にして循環されているのだが……この主従は何をやっているのだろうか。肉塊が専用の空間でやっている事が、料理というのも妙な感じである。
料理の神は今も本体の所に居るようだが、何がしたいのかサッパリ分からない。何故か料理指導も含めて色々しているようだが、暇なのだろうか? 肉塊が料理まで覚える意味はいったい何処に……。
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ミク達はゼルダの屋敷の食堂で夕食を食べていた。冒険者ギルドに来ない方が良いと言われてから十日ほど経っているが、未だに冒険者ギルドは混雑しているらしい。ついでに言うとミクにコンタクトを取ろうとする者は増える一方のようだ。
やはりドラゴンの頭部を持ち帰ったというのは大きいのだろう。自分の分も持ち帰らせようと依頼をしてくる者が訪れている。厄介な貴族の使いや大商人、更には他国の商人まで来る始末。
しかもミクが一番人気というだけで、他のメンバーも依頼をされそうになっている為、最近はゼルダの屋敷に篭もりっぱなしだ。手合わせは屋敷の庭で行っているので、ローネの腕はむしろ上がっていたりする。
とはいえ、この辟易する人気状態もそろそろ終わってほしいものだ。それと不気味なほど動かない裏組織。王都の兵士達も警戒していたにも関わらず肩透かしを喰らっている。
その理由は、潰していい組織はミクが全て潰したからである。御蔭でこの十日間、ミクは暇でもなかったし肉が喰えたので満足していた。特に肉が喰えた影響は大きく、頗る機嫌がいいミクだった。
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裏組織のアジトが蛻の殻になっている事、更にはそういう組織と懇意にしていた貴族が居なくなっている事。勘の良い者なら結びつけて考えるだろう。
様々な者が蠢く。それが一国の首都である。
この屋敷の主たるアルヴェント侯爵も、その程度の事が分からない貴族ではない。だが、アルヴェント侯爵の諜報網を駆使しても、犯人を見つけ出す事は不可能だった。侯爵は部下の報告に渋面を隠さない。
「やはり誰がやったかは分からぬか。まあ、おそらくはドラゴン討伐の立役者なのだろうがな。その事で多少の揺さぶりを掛けたが、あの男も頑として口を割らぬ。余程の実力者なのか、それとも恩があるのか……」
「申し訳ありません、その辺りの繋がりは……。しかし、件の冒険者が奇妙な事は分かっています。あの者はバルクスの町に来る以前に何処に居たのか、一切判明しておりません。突然現れたという話も……」
「バルクスの町と言えば<黄昏>卿と<閃光>の居る町であり、そもそも<魔境>の入り口ではないか。そこに突然現れたと……?」
「ハッ。何でも周囲には当初、何処からか転移させられたと言っておったようであります。その後は特に言わなくなったようですが、<閃光>の宿に泊まっていた者が複数聞いておりました。知識も戦闘も、そこで習ったとも」
「ふーむ……。何処かの国の実験施設か? 魔導国も表では友好を崩しておらぬが、裏ではキナ臭い事をやっておると聞く。それに子供の頃から優秀な兵士に洗脳するなど、古くからの書に残っておるほどよ。胸糞悪いがな」
「………仮に実験施設に居たとして、周囲には「行ってこい」と言われ森に飛ばされたと言っていたそうです。転移の魔道具を使って、わざわざ我が国の<魔境>に近い森に転移させる……。意味が分かりません」
「確かにな。我が国の破壊を考えるなら、飛ばすのは王都近くの森であろう。しかし、現れたのは<魔境>に一番近いバルクスの町。……他に何か情報は?」
「<魔境>の<大地の裂け目>と<天を貫く山>に行き、帰ってきたという事は聞いたそうです。その割には持って帰ってきた獲物の量が少ないとも。そしてクベリオの町で、クレベス子爵から何かの依頼を請けていたと」
「ほう。クレベスから依頼をな……ヤツめ、報告には無かったぞ。まあ、冒険者への依頼は個人的な依頼だと言ってしまえば隠蔽出来るからな。ワシがドラゴン討伐を依頼したのも同じだしの。ただ、話を聞かねばな?」
「では、クレベス子爵への手紙を出しておきます。一報を命じますか? それとも王都に来るまでお待ちになりますか?」
「言えぬ可能性があるものを認めろと言うてもな。ワシへの心証が悪うなるだけよ。ま、急いではおらぬ。ゆっくりと待てばよい」
武官の家を元に成り上がったとは思えない、老獪な手腕を持つアルヴェント侯爵。彼の判断は吉と出るのか凶と出るのか……。




