0066・魔剣<ブレインホワイト>
外に出た六人は待ち構えていた人達にドラゴン討伐を宣言した。周りの人達は沸き立つものの半信半疑な者も居たので、ミクがドラゴンの頭部を取り出す。それを見た観衆は大いに驚き、ドラゴン討伐が事実だと大歓声をもって讃えた。
そんな中、ミクはアイテムバッグから剣を取り出して掲げる。これはダンジョンから発見した魔剣で、<ブレインホワイト>と名付けたと。そうしたところ一部の観衆から言い掛かりがつけられた。
「それは神聖国の<聖剣>が持っている剣<ソルシャイル>じゃないか!! お前が盗んだんだろう!! それを返せ!!!」
「何を言ってるのコイツは? そもそも<聖剣>とかいうのに私は会った事は無いんだけどね。後さ、仮に神聖国の<聖剣>とかいう奴の剣だとして、何でお前に返さなきゃならないの?」
「い、いや……それは……。お、俺じゃなくても、神聖国には返さなきゃいけないだろう!!」
「そもそもさー、コレはダンジョンで手に入れた魔剣<ブレインホワイト>だって言ってるじゃん。違うって言い張ってんのはアンタだけなんだけど? 周りを見てみなよ」
男が周りを見渡すと、自分の仲間以外は敵意の篭もった視線で見てきていた。男は内心「しまった!」と思うも既に遅く、神聖国のスパイ認定された可能性は高い。そして男をニヤニヤしながら見る六人。
この時、男はようやく自分が嵌められた事を悟ったのだった。慌ててその場から逃げる男。とはいえ、神聖国のスパイだとバラすような事をした男に待っているのは、いったいどんな結末なのか……。
それとは違い、ドラゴンの頭部と魔剣<ブレインホワイト>をアイテムバッグに仕舞ったミクは、他の五人と共に王都へと凱旋していくのだった。尚、ゼルダの使い魔であるアルガは出てきていない。
それはアルガの実力では難しいのと、弱い者が居ると敵の誘導に失敗する可能性があるからだ。元々アルガはゼルダの護衛であって、ヴァルのようにドラゴンと平気で戦えるような強さは持っていない。
六人は悠々と王都へと歩いて戻り、王都民の歓声を受けながら冒険者ギルドへと戻った。ギルドマスターの執務室に戻った六人は爆笑の渦に包まれる。
「あはははは……まさか、あそこまで上手く嵌まってくれるとは思わなかったよ! あまりにもバカ過ぎて笑うしか出来ないね! それにしても神聖国の連中、ターゲットをミクに決めただろうけど何時かな?」
「タイミングとしては今日中か、それとも二~三日空けてからですかね? どちらにしてもゼルダさんの屋敷は狙われるかもしれませんが、あそこは……」
「ウチの屋敷は元々結構なトラップ塗れなのよねー。隠してもいないから知られているけども。ウチに突っ込んで来る根性は無いだろうけど、ウチに突っ込んで来る駒は居そうねえ」
「特に問題無いだろう。突っ込んで来る阿呆が一人でも居れば、それを理由に殲滅だ。裏組織など、適当な理由を付けて皆殺しにしても誰も咎めん。奴等は所詮、犯罪組織に過ぎんのだからな」
「そうだね。一応アルヴェント侯爵に情報を上げておかなきゃいけないんだけど、その情報が届く前に動き出しそうかな? 聖なる剣らしいから取り返さないとマズイだろうし、本国から圧力が掛けられるのは明らかだ」
「それをどうにかする為には取り返すしかないと……。流石に危険な薬物を使っている国に同情なんて出来ません。……? そういえば私と一緒に居た時に出会った神聖国の者達。あの者達は脳におかしな所が無かったのですか?」
「無かったね。多分だけど、おかしな洗脳に成功している奴は薬なんて使わないんじゃない? 逆に洗脳や暗示の効かないまともな奴は、薬漬けでおかしくされるんだと思うよ」
『主の推測で当たっているとは思うが、胸糞悪い話だ。あの狂い方は神聖国の上層部の狂い方を表している訳か。頭のおかしい国には、狂っている奴と被害者しかいないとはな……』
「だろうね。そう考えると王国生まれで良かったと思うよ。たとえ生まれが村でもね。俺の生まれは北のサブ村だし、アドアの生まれはその北のトト村だし。裕福じゃない村でも、頭が狂わされるよりはマシさ」
「ですね。私は村にあまり良い思い出がありませんが、ロディアスは違うでしょう。ちゃんと故郷に帰っていますか?」
「ないない。故郷の奴等が掌を返すのはアドアと同じだよ。散々悪童だと言われて育ったんだぜ? にも関わらず、冒険者として名が売れたら掌を返す。嫌になるよ全く。そのうえ故郷に便宜を図れとか言って来るしさ」
男二人がそんな愚痴を始めたので、ミクはドラゴンの素材をどうするか聞く。すると二人は謝罪し、下の解体所に出しておいてくれと頼まれた。なので四人はさっさと執務室を出て解体所へと行く。
解体所には「やっと来た」という表情の職人達が待ち構えており、ミクがドラゴンの素材を出すと喜び勇んで解体を始める。素材を長期保存する為にも、新鮮な内に捌いておかなければいけない。なので大急ぎで解体していく職人達。
ドラゴン素材となると何処にどう売れるか分からない為、今すぐにお金が支払われる訳ではない。なので出すべき物を出したら、さっさと屋敷へ帰る四人。屋敷の門前で予想通りに襲われたが、そいつは聖剣の事で騒いでいた奴だった。
捕縛した後で強制的に屋敷に連れて入る四人。遠くから見ていた人にはそう映っただろう。実際には縄で捕縛する前に、ミクが触手で麻痺毒を打ち込んでいる。掌で触れながらなので誰にも見えていない。
屋敷での尋問の結果、王都の裏組織の構成員で確定。夜にミクが襲いに行く事も確定した。ミクは肉が喰えると喜びながら、脳を喰った死体を肉に入れて転送する。終えたタイミングで夕食を告げにメイドが来たので、四人は移動していく。
夕食後、部屋に戻った四人は少しの雑談後、いつも通りに始めた。ミクとヴァルは付き合っているだけなのだが、ローネはともかくゼルダは何故なのだろうか? そちらの方が疑問である。
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現在ミクは裏組織のアジトに潜入している。王都のスラムにあるのかと思いきや、実は平民街の真ん中にある普通の家だった。こんな所に居るならば、確かに怪しまれはしないだろう。
特に目立たない場所に入り口があり、夜中にコソッと入ると近所でも分からない可能性は高い。そんな家の中にミクは百足姿で侵入している。尚、この家に来るまでは蛾の姿で飛んできた。
いまだ中の連中が寝ないので、適当にうろつきながら話を聞いて回っている。主な話は、やはり聖剣の持っていた<ソルシャイル>をどうやって取り戻すかだった。その時初めて<ソルシャイル>の特性を知ったミク。
実は<ソルシャイル>の専用スキルである【白光陽熱衝】は、非常に多くの魔力を使うらしく連発出来ないらしい。なので、奪われてもそこまで危険ではないそうだ。
ミクは本体空間で連発していたが……?。
まあ、普通の人間種ではそんなものなのだろう。それに、ドラゴンのブレスですら防げるライダースーツをボロボロにしたのだ。それぐらいの魔力消費が無ければ、威力との釣り合いがとれないだろう。
そんな話を聞きながらも、大半は無意味な神聖国への賛美を聞かされ辟易としているミク。洗脳されていようが薬漬けであろうが、碌でもない連中だと心の中で毒付くのだった。




