0061・ドラゴン密漁中の知り合い達は……
ミクとヴァルがドラゴン密漁を開始した頃、屋敷ではゼルダがある者から報告を受けていた。それは裏組織の者であったが、ゼルダが懇意にしている情報売買型の組織である。
この組織もゼルダを敵に回す意味は理解しているので、良好な関係を築いているようだ。
「現在、王都の裏組織で確保に動いているのは三つですね。それ以外は様子見というところでしょうか。御本人が裏組織を挑発されているのでしたら、ゼルダ様がしておられる事はマイナスにしかなっていませんね」
「的確な意見をありがとう。私としてはそこまで動いたと思っていないのだけれど、流石に自分の名前の大きさまでは理解してなかったわね。これ、ミクに怒られたりしないかしら?」
「何故裏組織の連中を挑発しておられるのかは聞きませんが、怪しまれると奴等は逃げますので派手にすると損ですよ。まあ、件の方は捉まらない事で有名になってますが……」
「ミクはねぇ……面倒な事はスルーしてしまうから、裏組織の連中が接触しようとしてもさっさと逃げるでしょうね。私と同じように使い魔も持ってるし」
「アレに乗って逃げられるなら簡単には捉まらないでしょうが、却って強引な手段に出かねませんが……そのあたりは大丈夫なのでしょうか?」
「貴方達が護衛に付くって事? それは大丈夫。むしろ貴方達が居ると全力が出せなくて困るでしょうから近付かない方がいいわ。巻き込まれて死んでも責任とれないわよ?」
「成る程、それほどの方だったのですね。その事は上に報告しても?」
「ええ、構わないわ。というより貴方の前で喋っている以上は、それも織り込み済み。今までの情報と何も変わらない。それ以上を知りたければミクに接触するしかないわね。ただ、何かあっても責任は持てないから気をつけなさい」
そう言って、ゼルダは相手に情報料を渡す。それを受け取った相手は一礼して去って行った。お互いに気は抜けないが、裏組織というのはそういうものである。自分の情報が悪意を持って売られていない時点で良好な関係だろう。
しかし……とゼルダは思う。あの組織の連中は、誰かの何かを暴こうとする者が多い。好奇心は自らを危険に晒すというのに、彼らはそれを止めないだろう。行き着く先は破滅か、それとも怪物の肉の一部か……。
(どちらであっても、私にとってはどうでもいい事ね。あの組織に入って他人の事を暴く。その事に快楽を感じる者が居る限り、あの組織は”使える”組織であり続ける。ならば中の者が誰であろうと興味も無いわ)
古今東西、裏の組織との付き合い方など、こんなものである。命の軽い界隈は組織の移り変わりも激しい。もちろん人の移り変わりも……。
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ところ変わってこちらは森の中。鬱蒼と生い茂る木々の中にあって、音も無く移動している人物が一人。褐色肌のその人物はローネだった。
素早くゴブリンの背後に回ったローネは、左手で持っているナイフをゴブリンの延髄に突き刺して捻る。あっさりとゴブリンを殺すと、それに気付いていない前の三体も殺していくのだった。
素早く突き刺していき、最後の一体は首を圧し折る。そうやって殺した後で短剣とナイフを回収する。予備の武器はあるので突き刺したままでも問題は無い。
ゴブリン相手に暗殺をしているのは、己の勘を鈍らせない為である。最初は神に命じられて渋々だったが、今は実力を引き上げないとマズイと理解していた。神の命ならば仕方ないし、自身の旺盛な性欲に至っては十二分に満足している。
だからこそ、ついて行けなくなると満たされなくなってしまう。彼女はここにきて、まさか自分の実力が”足りない”という危機に直面するとは思ってもみなかったのだ。
(今さらミクの居ない生活に耐えられるとは思えんし、私が他の者より遥かに強い性欲をしているのは自覚している。かつて私を満足させる事も出来ず、罵倒してきた男どもなど興味も無いが、ミクに置いて行かれるのだけは困る。彼女に不要と判断されたくない!)
だったら旺盛な性欲を少しは制御しろと言われるだろうが、それは彼女自身とも言えるので駄目なのだろう。それにしても、自分の実力を磨く理由が性欲の為なのか、それとも……。その辺りの自覚は無いローネだった。
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ここは随分と距離の空いた場所の屋敷。正しくは<黄昏>と呼ばれる人物の屋敷である。偶にある休みを自分の屋敷で満喫しているカレンだが、ふとミクの事を思い出していた。
彼女の長い生からすれば僅かな時間しか居なかった相手だが、アンノウンである事と自分の体に刻まれた事は忘れていない。そして刻み込んだ相手の事を思うのは普通だと、何故か心の中で言い訳をしていた。
(それにしても王都に行ったっきり帰って来ないわねえ。とはいえ、今すぐに会いたいって訳でもないし、あの子達も色々新しい事に目覚めたみたいで刺激的だからいいんだけど……)
そんな下らない事をソファーで寝そべりながら考えている高位吸血鬼。そんな彼女の傍に立ち、何を考えているのか理解している最古参の従者。今日の夜はもっと色々……などと考えているのだから、変わらない主従である。
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「おーい、こっち3名分ねー」 「こっち4名ー」
「はいはい、ちょっと待ってくれよ。そんなに一度に注文出されても、すぐに料理が出来る訳じゃねえからなー」
「こっち2名ねー」 「こっちは追加ー」
「だから書いとくけど、すぐには出せねえからな。後でやっぱ要らねえとか言うんじゃねえぞー」
どうやら<閃光>の店は繁盛しているようである。彼だけはミクが居なくなって良かったと思っていた。それは嫌っている訳ではなく、とばっちりが自分の方に来るのが分かっているからだ。
彼は自分が常識人であり、今までもパーティーで色々尻拭いさせられてきたのを覚えている。そしてミクが暴れれば、結局自分は尻拭いをする事になるだろうと。
困っている者を見捨てられない性格である以上、そのポジションは確定している。ならば危険が遠ざかってくれないと自分の平穏は無いのだ。だからこそ安堵しているガルディアスだった。
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ここは王都のギルドマスター執務室。この部屋の主であるロディアスは現在、とある人物と話し合いの真っ最中だ。まさか一般人の格好をして来るとは思っておらず、驚いている。
「マルヴェント侯爵閣下。幾らなんでも戯れが過ぎると思うのですが……? 私達のような冒険者は基本的に荒くれですよ? 何かあったらどうするのですか」
「ふふふふ、どうにもなっておらんのだから良いではないか。それより件の冒険者の力を借りたいのだが、大丈夫かな?」
「事と次第によるとしか言えません。我々はあくまでも冒険者です。暗殺や諜報などは本来裏組織の者がする事であって、我々は魔物を倒したり素材を持ち帰るのが仕事ですので……」
「それは分かっておる。金さえ払えば……などというスカボロー侯爵と同じ様な事はせんよ。我等にも矜持がある故にな。今回頼もうと思っている事は、冒険者の本分ともいうべき仕事だ」
「それなら問題はありませんが、マルヴェント侯爵閣下が依頼する様な事などありましたか?」
「あるではないか。ドラゴン討伐再び……という依頼がな」
「ドラゴン討伐をですか……! (急に何だ? 何処かからミクの情報が漏れたのか?)」
「うむ。ギルドマスターの君を含めれば、<閃光>が居なくとも何とかなるのではないか? 今回商国が随分と手を出してくれているのでな、冒険者の実力を大々的に示しておきたいのだよ」
「そういう事ですか……畏まりました、検討してみます」
「すまんが、頼む。前回と同じように派手に買い取るのでな、そこは期待しておいてくれ」
そう言ってマルヴェント侯爵は帰って行ったが、ロディアスは割と暢気に考えていた。久しぶりに暴れられるし、何といってもガルディアスの代わりはミクだ。
彼女が居れば他のパーティーは足手纏いだし必要ない。ついでにお金があると助かるアドアも呼ぼうと思うロディアス。
まだミクは受けるとは言っていないのだが……後で引っ繰り返されたらどうするつもりなのやら?。




