0059・冒険者ギルドへ納品
王都に戻ってきたミクは冒険者ギルドへ納品に行く。中に入ると真っ直ぐ受付へ行き、ロディアスから依頼を受けた事を告げると、受付嬢が二階へ上がって行った。少し待つかと思って立っていると、早速絡んでくるバカが現れる。
「おいおいおいおい、お前みたいな弱そうな奴が何しに来たんだ? このランク6のゲーンズ様が弱っちいテメェを特別に買ってや……何だテメェ?」
「この”鉄”のプレートが見えない豚は、さっさと豚小屋に帰った方がいいよ。飼育してる農家さんに怒られるからね」
「「「「「「「「「「ぷっ………」」」」」」」」」」
この世界の豚は農家が育てている。現代地球の豚とは違い、品種改良も進んでいない猪に近い豚だといえるが、そのぶん繁殖力と雑食性はこちらの方が遥かに上だ。
それに不味い肉だろうが関係なく食べるので、食えない魔物の肉を食わせている農家も多い。
「テ、テメェ………!! どうせ、テメェ如きが持ってる鉄のプレーどぅぉっ!?!!?」
面倒になったミクは豚が反応できない速さで鳩尾を突き上げた。豚はその一撃で悶絶し、その場に蹲って震えている。相当にキツイらしいが、ミクは体に後遺症の残らないギリギリで殴っているのでツライのは当たり前だ。
そんな豚を尻目に待っていると、二階から受付嬢が下りてきてミクを呼ぶ。そのまま受付嬢に案内されていくミクと、苦しみに耐える豚。正に強者と弱者を表した構図であった。
ギルドマスターの執務室に入ったミクは甲羅をその場に出して、受付嬢を驚かせてしまう。謝罪した後でコレで良いのかロディアスに問うと、ロディアスは書いていた書類から顔を上げた。
「ん~~~……大丈夫そうだね。傷も付いてないようだし、これなら工芸協会の会長もOK出してくれると思うよ。それにしても流石だね。こんなに簡単に獲ってくるとは思わなかった」
「そんなに簡単じゃなかったね。ある【スキル】を使ったら簡単かと思ったら甲羅が壊れちゃってさ。どうやら威力が高すぎたみたい。御蔭でもう一度倒す羽目になったよ」
「……うん、流石としか言い様が無いね。あの硬い甲羅を破壊できる事にビックリだよ。アイツは基本的に回避するっていうか、近付かなければ戦わずに済むからさ。ゴーレムもそうだけど、普通は逃げる相手なんだよ……硬いから」
「まあ、依頼じゃなければ戦わないくらい普通なら面倒なんだろうね。私にとっては倒しても倒さなくても、どっちでもいいってぐらいだけど」
その時、紅茶とお菓子を持ってきた受付嬢がミクの前に置いていき、一礼してから部屋を出た。少し飲みながら受付嬢の気配が一階に下りるまで待つ。
その後、本題を話していくのだが、その前に金貨1枚を渡すロディアス。意外に報酬は良かったらしい。
「ドラゴンを倒して先に進んだんだけどさ。31層に吸血鬼が出て襲われたよ。おそらくハイクラス中位ぐらいだと思うけど、ロディアス達の時には出た?」
「えっ!? 吸血鬼がかい!? ……いや、確か居なかったと思う。もし居たなら誰かしらが死んでないとおかしいけど、あの時は誰も死なずに帰れたからね。もちろん偶々かもしれないけど」
「あの層の魔物をかなり食べたから出てきたのかな? 例えば一定以上の魔物を倒すと強力な種族が出てくるトラップとか?」
「……どうなんだろうね? そういう観点からは考えた事なかったよ。いきなり強い魔物が出てきて壊滅したなんて話は聞くけど、もしかしたらそういう事なのかもしれない」
「まあ、私も思いついた適当な事を言っているだけだしね。そういう事だから、ドラゴンを倒せる事は伏せててほしい。明日から密漁してくる」
「いや、密漁って……」
言いたい事を言ったからかミクは帰って行った。しかし<ドラゴン密漁>というパワーワードを聞かされた方は堪ったものではない。呆然としたままロディアスはミクを見送るのだった。
ゼルダの屋敷に戻ったミクは、すぐに寝室に行き肉体を停止させる。ちょっと面倒な事になっている為だ。
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ここはミクの本体の空間。現在<創造の神>と<戦いの神>と<闘いの神>と<狩猟の神>と<竜の神>が来て、侃侃諤諤の議論をしている真っ最中だ。
大きな体躯の敵に対して有効な武器は何か? 竜に対して有効な武器は何かで激しく言い合いをしている。何故か狩られる側の神である竜の神まで来ているが、その理由は分からない。
いつまでも決着は付かず喧喧囂囂の議論を繰り返す神々。先ほどは進んでいたと思った議論がまた停滞した。どうにも神々の主張が激しく、簡単には纏まらない。
<創造の神>は切れ味鋭い武器にするべきだと主張。ドラゴンの素材を用いれば十分に可能なのも理由である。
<戦いの神>は形には拘っていない。倒すべき敵を倒す為の威力こそが肝要であり、そこを中心に持ってくるべきだと言う。
<闘いの神>はとにかく頑丈にするべきであり、戦いの途中で使えなくなるような物では駄目だと言っている。
<狩猟の神>はなるべく相手を傷つけずに上手く捌ける武器にするべきだと言う。素材を手に入れる事を考えるべきだと譲らない。
<竜の神>は他の神とは違い、竜が倒されるに相応しい武器にするべきだと言っている。倒される竜が納得出来る武器であれば何でもいいらしい。
様々な神の下らない話し合いの結果、出来たのは無骨な剣だった。<それはまさしく鉄塊であった……>とか言わんばかりの物である。ドラゴンの骨を圧縮し、表面に圧縮した鱗を融合して作られた剣。
これが神々の妥協したドラゴンスレイヤーであり、ドラゴンバスターである。五柱の神々はスッキリした顔で去って行ったが、使わされるミクからしたら堪ったものではない。
自分が使いたい武器でもないのに、重さだけで300キロを越えるバカみたいな剣だ。全長は2メートル50センチ程あり、身幅は60センチもある。こんなバケモノみたいな剣、ミクかヴァルにしか使えない。
確かにこれならドラゴンでも切れるし頑丈だろう。だが、少しは使う側の事を考えるべきである。こんな物は人前で振るえないし、見せる事さえ出来ない。そもそも剣として振る事さえ無理である。
怪物専用の剣でしかないが、よく考えれば神々はミクが使う事しか考えていなかった。となると、これで正しいのか……? もはや分からなくなってしまったミクだった。
頭がおかしくなりそうなので、ミクはヴァルの武器と長柄の矛を製作する。バルディッシュを作り、ウォーハンマーを作り、そして初めて矛を作る。先ほどの頭のおかしい武器とは違ってスタンダードな武器を作る事で、やっと冷静になったようだ。
ヴァルも本体空間に出てきて試しに振ってみる。なかなかしっくりくるらしく喜んでいるが、ドラゴンバスターを視界に入れる事は無い。仕方なくミクは持ち上げるものの、重量があって強靭なのが持っただけで分かる。
試しに7割で振ってみたが、これでも怪物の全力には耐えられないらしい。一転してミクが期待外れの顔をするも、隣に居るヴァルが慰める。おそらくアーククラス、またはアンノウンであれば全力で使える武器が作れるだろう。
それが分かったのは良い事だが、結局自分の牙で作るしかないとなる。しかしそれは神々に禁止されているので、今のところは耐えられる武器が作れない。
仕方なく気持ちを切り替えて、夕食の為に分体を起動したのだった。




