0058・ドラゴン戦とアンデッド層
「グギャァァァーーーーッ!!!!」
大扉の中に入るとドラゴンの咆哮で歓迎された。人間種なら身が竦むのかもしれないが、ミク達からすれば五月蝿いだけである。そんなドラゴンは色々な作品に登場する西洋ドラゴンの姿で緑色をしていた。
いわゆる極々普通のドラゴンだろう。そんなドラゴンに早速襲い掛かる二人。ヴァルがワイバーンの素材で作った弓で、ワイバーンの素材の矢を放つも弾かれる。やはりドラゴンの鱗は伊達ではないらしい。
ミクは素早く近寄って左足をメイスで打ち据えるも、碌に効いていないのか即座に反撃してくるドラゴン。ヴァルは効かない武器を持っていても仕方ないので、アイテムバッグに収納しウォーハンマーを取り出す。
先端が円錐形になっているウォーハンマーの方がダメージが高いだろう、そう思いながら走って叩きつける。ミクを攻撃していたドラゴンは即座にヴァルにターゲットを移し、右手を大きく振って反撃。
体高5メートルはあろうかという大きさにも関わらず、動きは俊敏であり流石はドラゴンとしか思えない強さである。流石に鉈もメイスも碌に効かないとは思っていなかったので、仕方なくナイフとスティレットを持つミク。
これが効かなければ体を変化させるかと思いながら攻撃すると、スルっとナイフが入りドラゴンは切り裂かれた。流石はアーククラスの肉体を持っていたネメアルの爪と牙である。
ここまで容易くドラゴンの鱗や皮を切り裂く武器は、この星でも貴重な物なのだが、二人ともその事には全く気付いていない。ミクは攻撃武器をナイフに決め、ドラゴンの爪や鱗を剥がしていく。
その度に痛みで喚くドラゴン。最早ドラゴンを倒しているのか、生きたまま解体しているのか分からない状況だ。下に落ちた素材はヴァルが回収しアイテムバッグに入れていく。
すると本気で激怒したのか、ドラゴンはミクとヴァルに向けて広範囲のブレスを吐いてきた。ドラゴンならば殆ど持っているのではないかと思われるブレスの能力。ここのドラゴンも持っていたようだが二人には効かない。
そもそも肉塊にとっては、この程度の温度など微温湯と変わらない程度だ。ヴァルは受けないように素早く大元に帰り、ミクは服や武器などをすべて転送。持っているのはナイフ一本で、後は裸である。
魔界の村で戦っている者より酷い有様だ。きっと某騎士も二度見するだろう。
「流石にブレスとやらを吐かれると面倒だね。御蔭で服なんかをいちいち転送しなくちゃならなかったじゃない! 面倒くさい事をさせた覚悟は出来てるんでしょうね!!」
『主。大丈夫だとは思っていたが、焦げるどころか焼けてもいないとはな。とりあえず回収するんで派手にやってくれ』
「りょーかい! なるべく多くの素材を剥ぎ取ってやる!!」
もはやドラゴンではなく素材にしか見えていないらしい。ドラゴンはダンジョンに作られた存在にも関わらず恐怖し、右手を全力で振るう。すると自らの爪が綺麗に無くなった。その爪は地面に落ちているのが見える。
あまりの恐怖に叫ぼうとすると、一気に跳躍してきたミクが背に乗って後ろへと走って行く。そしてナイフを持っている右腕を触手のように伸ばすと、翼を根元から切り裂いていった。大きな翼が地面に落ちると再び痛みで絶叫する。
もはやドラゴンが哀れにしか思えないが、グレータークラス中位~上位ではアンノウンには勝てないし、程度の違いはあれどこんなものである。最後はミクとヴァルが協力し、首を落とすと同時に頭部を収納した。
地面に着地すると同時に魔法陣が地面で輝き、二人は31層へと転移する。見た目は墓場のような場所で、陰鬱とした雰囲気と湿気が感じられる場所だった。
ここからは地図も魔法陣の場所も判明していない層である。ミク達といえど慎重に攻略していかなければ足を掬われかねない。にも関わらず、とりあえず最初にするべき事は服を着る事だ。何とも締まらない話である。
服を着て装備を整えたら出発だ。服を着る前にヴァルの入手したドラゴンの素材は、肉塊状態になって転送してある。実はアイテムバッグ三つ分もあって驚いたミクだった。それは本体が現在喜んで弄っている。
それは横に置いておくとして、今は31層だ。ここはロディアス達ですら撤退をあっさり決めた層であり、その理由が近付いてきた。この層はスケルトンやゾンビのハイクラスだけでなく、レイスのハイクラスも出現する。
このハイレイスが曲者で、結構強力な攻撃魔法か浄化魔法でないと倒せない。レイスはハイクラスになると抗魔力が跳ね上がるらしく、その所為でどう倒すにしても苦戦する。
<魔女>や<聖人>の居るパーティーであれば問題無く捌けるだろう……数が少なければ。そう、この層にはハイレイスが群れているのだ。それ故に幾ら魔力があっても足りないと言える程、攻略には大量の魔力を必要とするだろう。
魔力を回復する薬を持ち込んだとしても、今度は赤字である。成る程、ロディアス達が撤退を決めたのは正しい。普通なら。
「ここから進むんだけど、あまりに遅いと文句言われそうだし、適当に見たら帰ろうか。本格的に攻略するなら言い訳用の物を揃えてからだね」
『そうだな。主や俺が無理に記録を塗り替える必要も無いし、面倒な事に巻き込まれかねないしな。ドラゴンの密漁が出来るのが分かったんだから、それで十分だろう』
<ドラゴンの密漁>とはまた凄いパワーワードだが、特に間違っていないところが何とも言えない。そんな会話を暢気にしながら、ミクはレイスを含めて喰らい、ヴァルは爪でスケルトンを叩き潰す。
現在ヴァルはグランドベアの姿になり、スケルトンやゾンビを潰している。ここでアンデッドの姿を手に入れたのは大きいと思うミクとヴァル。人間種を襲う際もアンデッドの姿ならば怪しまれない。
そんな利用方法も考えつつウロウロしていると、青く光る魔法陣を発見した。これは脱出用の魔法陣で、先へ進む魔法陣は赤く光る物だ。ヴァルと顔を見合わせ、どうしようか迷っていると、真っ赤な目をした人間が走ってきた。
間違いなく吸血鬼だが、ダンジョンでは魔物としても出るらしい。まあ外でも半分魔物と変わらないとも言える種族であり、割と討伐されていたりする。
そんな吸血鬼が襲ってきたが、あっさりと喰らったミク。右腕が熊になって咀嚼しているが、首から上が無くなったら即死だったようだ。存外に脆いなと感じたようだが、カレンと比べているからである。
ここに出てくる吸血鬼はあくまでもハイクラス中位程度であり、カレンはグレータークラス上位である。実はカレンはアーククラスも近いという、かなりの強さを持つ人物なのだ。
アンノウンにとっては然したる違いの無いザコでしかないのだが、流石に一緒にするのは可哀想である。分かっていないのだから仕方がないとはいえ、扱いが雑に感じるのは気のせいではないだろう。
結局、面倒になったミクは喰い終わったのを機に帰る事にした。これからドラゴンの密漁をするにしても、まずはドラゴンの素材で武器を作り直す必要がある。本体は急いでいるものの、ドラゴンを倒す為の武器に困っているようだ。
言わばドラゴンスレイヤー、もしくはドラゴンバスターと呼べる武器を作りたいという事なのだが……剣にするのか槍にするのか、それとも斧にするのか。その判断がつかないらしく、作製まで進んでいない。
ドラゴンが大きいからなのだが、巨大な敵に対する武器というのは考えるだけでも大変だ。




