0056・ダンジョンでの出来事と依頼の報酬
ゼルダの屋敷に帰ってきたミクは適当に休んでいた。それは「自分も聞くから話すのは食事の時!」とゼルダが言い出した為だ。その為、ミクは応接室のソファーで肉体を停止させて、現在は本体で手に入れた物を選別している。
そうやって過ごしているとゼルダとメイドが来て、夕食に呼ばれた。ローネは寝室で仮眠をとっていたが、今は食堂に移動しているようだ。ミクも起動しヴァルも出てきたので、一緒になって食堂に移動する。
食堂に着き、椅子に座って運ばれてくるのを待つ。全ての準備が整い食事を開始すると、すぐに二人とも聞いてきた。
「それで。いったい何があったんだ? アドアが勿体つけた言い方をするくらいだ、結構大きな事があったんだろう?」
「へえ……あの冷静でハッキリ物を言うアドアがね。わざわざそういう言い方をするって事は、相当の何かがあったのかしら?」
「特に何もなかったと思うけど……二人が驚くような事ってあったっけ? 馬鹿どもを麻痺させて情報を手に入れたり、ボスを倒したりとかしたぐらいだけど……」
ミクの言葉を信用していない二人はヴァルに顔を向けた。ヴァルは一つ頷くと、食事をしつつ話していく。
『最初から話そう、その方が早いだろうからな。まず10層のボス部屋に乱入してきた奴等が居た。コイツらは帝国の諜報部隊の一つだったが、俺がボスを倒している間に主が一人を残して喰い荒らした』
「帝国の諜報部隊? 何で諜報なのにそんな訳の分からない事をしているのよ。そもそも10層じゃ目立ち過ぎるし、そんな事をしたら賞金首になるじゃない。意味が分からないわ」
『簡単に言うと、そいつらは主の美貌に目が眩んだ連中だった。まあ、流石の美しさと言えば終わる話だな。ついでに迷賊の知り合い含めて色々と聞き出せたので、むしろ良かったと言えるだろう』
「ふむ、成る程な。それはいいとして続きを頼む」
『その後は13層か。罠の向こう側で待ち伏せをしている連中が居たので、主が麻痺毒をバラ撒いて麻痺させた。全て動けなくなった後で聞き出したら商国の連中だと判明。コイツらは女冒険者を奴隷にしていた奴等だったよ』
「ゴミだな……」 「ゴミね……」
『そして19層か、今度の連中は神聖国の奴等だ。こいつらは頭のオカシイ連中で、自分達は犯罪者の癖に何故か全て許されるとかホザいていたな。神の信徒だから、楽園を作る為なら、そういう言い訳で許されるとか意味が分からん』
「アレらの事など考える必要は無い。言っている事はいつも同じで、自分達は特別だから何をやっても許される。そう言いながら悪事を重ね続ける外道ども……それが神聖国のクソどもだ」
『まあ、その果ては主に喰われて終わりだがな。その後でグランドベアを普通に倒して帰ってきた。主は【深衝強撃】というスキルを使っていたな』
「それって打撃力を体の内側に貫通させる奴じゃないの。<ゴーレム殺し>と呼ばれる技で、使える者は非常に少ないんだけど? 後、どんな相手にもダメージが与えられるから、使える者は引き抜き合戦が凄くて大変だと聞くわね」
「ゴーレムは核が体の内側にある所為で、そこまで体を削らねば攻撃出来ないんだ。だからこそ厄介で強力な魔物だが、主に生息しているのはダンジョンとなる。それ故そこまで怖れられてはいないが、ゴーレムコアは高く売れるからな。面倒な連中が絡んでくるのは間違い無い」
ミクは面倒くさそうな顔になったが、知らなかった事はしょうがないと諦めた。アドアが報告しているかは分からないが、無闇に【スキル】をバラしたりはしないと言っていたので信じよう。そう思い、後は放り投げるミクだった。
夕食も終わり寝室へ移動するとゼルダもついてくる。この二人は本当に……と思っていると、流石にマズいと思っていたのか謝罪と反省を述べるゼルダとローネ。流石にここ最近、ミクに迷惑を掛けていたと自覚したようだ。
とりあえずミクは許しながらも観察を続行する事に決めた。とはいえ、ヤる事はヤってから寝る二人。この程度ならセーフかな? と判定するミクとヴァル。………貴女達、騙されてませんか?。
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次の日。ゼルダの屋敷でダラダラしていると、冒険者ギルドから呼び出しが来た。昨日の試験結果かと思いつつミクがギルドに行くと、ギルドマスターの部屋に案内されてロディアスが話し始める。
どうやら試験結果と同時に、スカボロー侯爵家の事の報酬をくれるらしい。そういえばそんな事もあったねと、すっかり他人事のミクは忘れていたようだ。
「まあ、色々な証拠が沢山あったし、これでも最速で向こうは精査したみたいだよ。その結果、金貨100枚がこちらに送られてきた。どうやらスカボロー侯爵だけじゃなく、その一派の幹部まで潰せそうなんだってさ」
ロディアスは上位貴族に恩が売れたからか喜んでいるが、ミクはどうでもいいので金貨をアイテムバッグに収納していく。
「ふーん。私は取ってこいって言われた物を取ってきただけだし、何とも言えないかな。そもそも役に立つ物かどうかも分からずに取ってきてるから、役に立ったなら良かったんじゃない? ってところ」
「君にとったらそうだろうね。その話はそれで終わりだけど、試験結果に関しては合格だよ。ま、最初から分かってた事だけど、乱戦試験でバカが大量に出た事だけは想定外だったかなぁ。もうちょっと真面目にすると思ってたんだけど……」
流石にオークに対して囮に出た女性を、誰も助けようとしないとは思わなかったんだろう。アレでは失格にする以外に道は無い。オークに対して女性を犠牲にするギルドと言われかねない以上は、厳しく判断を下すしかないのだ。
逆に言えば、あの連中はそういう判定が下される事を想像すらしない、出来ない奴等だという事になる。それでは上にあげる事は出来ないし、ランク10以上なら想定出来て当たり前なのだ。ランクが低い者は、やはり何処か足りないという事であろう。
ミクはギルドマスターの部屋を出て、合格の証書を受付嬢に出す。受付嬢はミクの青銅の登録証を受け取ると、裏に鉄の登録証を発行するように頼みに行った。ここから先のランクは上げるのに難しいらしく、ミクも上げる気は無い。
ランク10でも十分に裏組織やバカは寄ってくるらしいので、ミクにとっては上げる意味も無いのだ。あまり上げすぎると、今度は恐れられて避けられる。ゼルダやローネはだからこそ上げたらしいが、ミクが上げる理由は無い。
鉄の登録証が出来るまでギルド一階の椅子に座って待ち、出来たら受けとってゼルダの屋敷へ帰る。寝室に行って寝転がると、ミクは分体を停止した。
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夕食になりミクとヴァルは食堂に行く。すると何故かロディアスが来ており、ミクに対して頼んできた。どうやら仕事の依頼らしいのだが、その目標はダンジョン25層以降のアーマートータスの甲羅らしい。
「アレはとんでもない硬さをしてるんだけど、ミクなら倒せるだろう? それに同じ階層にはゴーレムも出てくる。昔、俺達が苦労して突破した時と違ってミクなら楽勝だと思う。俺達のメンバーに鈍器使いは居なかったからね」
「一緒に連れて行ったパーティーには居たけど、他はねぇ……。アレも30層のドラゴンに到達する為に連れて行っただけだし。そういえばミクならドラゴンも楽に倒せるんでしょうね。持って帰ってこれるか分からないけど」
「私達の時は切り落としながら回収していたからな。片目、大量の鱗、血、肉、爪、牙、尻尾。取れなかったのは角と翼と舌くらいか?」
「確かそんなものだったと思う。31層に入った途端、満場一致で撤退したのは良い思い出……じゃないね。スケルトンとかゾンビとかだったうえ、動きが異常に速いしでシャレになってなかったから」
「流石にリッチは出ないでしょうけど、十分にシャレにならない層よ。碌なお金にならないし、腐臭塗れの場所なんて最悪だもの。誰だってさっさと帰るに決まってるじゃない」
「話が逸れたけど、アーマートータスの甲羅を頼むよ。ちなみに依頼者は王都工芸協会からだね。何でも磨いて櫛とかに加工してみたいらしい。遠い国では亀の甲羅で櫛とか作るらしくて、それを聞いた会長が試すんだってさ」
ミクは了承し、アーマートータスを狩りに行く事にする。もちろんコッソリとドラゴンを狩ってこようと思ったりしているが、どう持ち帰るかで頭を悩ませるのだった。




