0051・乱戦試験を終えて
ミクはさっさとゼルダの屋敷に帰ってきたが、どうやらゼルダは店に行っていて居ないようだ。ローネも居ない為、応接室のソファーを借りて肉体を停止させるミク。本体の空間へと意識を集中させる。
ヴァルも停止させて戻った為、一人と一匹は人形のように動かないままだった。特に危険でもなければ、分体を放置しても構わないのでしているが、普通は結構危険な事である。まあ、最低限の監視はしているのだが。
少し時間が経過した後、ゼルダもローネも戻ってきたようで応接室に案内されてきた。ミクとヴァルも起動したが、すぐに夕食だったので食堂に向かう。
そこで食前酒を飲みながら会話をする二人。お酒を飲まないミクとヴァルは水を飲んでいる。
「最近、ウチの店の売り上げが落ちてたんだけど、どうやらクズどもの嫌がらせの所為だったわ。トレモロ子爵が居なくなった途端に売り上げが回復したんじゃねえ……」
「ゼルダの事だ、当然報復はするのだろう? ならばいいではないか。そいつらは敵となったのだから、潰すか追い込んでやればいい。戦いである以上、敵対者に容赦する者などいないしな」
「まあ、ローネの言う通りに報復は既に指示してあるけどね。あいつらも売国奴に尻尾を振っていたとなれば、慌てふためくでしょう。あれだけ私の手を煩わせてくれたんだから、謝罪も無いなら潰すわ」
「それでいい。愚か者は自分が傷付くまで理解せんからな、徹底的にやれ。ミクの方はどうだったのだ? オークの集落を殲滅に行った筈だが……」
「特に何も……強いて言うなら、移動が面倒くさかったぐらいかな? オークなんて大した強さでもないし」
「………ヴァル? 本当にミクが言う通り何も無かったの? 明らかにあやしいというか、ミクが動いて何も無かったとは思えないんだけど……」
『一人だけ突出して周りに捨て駒扱いされたり、主が強いとみるや面倒な女に絡まれたり。そういう事が大した事でないのなら、特に何も無かったんじゃないか? 主は話すのが面倒なだけだろうがな』
「「!?」」
「大した事でもないでしょ。最初から鬱陶しい女なんてどうでもいいし、私だけ合格だから他の奴等が居なくなってやりやすくなったし。私としては願ったり叶ったりな状況だけど?」
「ほうほう……。最初から話して貰おうか、ミク。いったい何があったのだ? 事と次第によってはゴミどもめ、容赦をせんぞ」
「えー………しょうがないか。まずは<護女兵団>っていう奴等のリーダーに絡まれたね。さっさとギブアップするか、犯されろって言われたっけ? オークを倒すのに受験者は邪魔だって」
「………ゴミが随分調子に乗っているようだなぁ? ロディアスはいったい何をしているのか知らんが、とりあえず首を狩りに行くか」
「ちょいちょい、幾らなんでもそれはやり過ぎよ。私もカチンと来たけど、首を落とすのは駄目。<護女兵団>はオークの被害に遭った女性が多いから仕方ない部分はあるわよ。どうせ下っ端でしょ?」
「レーシャとかいう女だったよ」
「あの腐れ生ゴミは何を言ってんのよ! 私の手で灰にしてやるわ!!」
「ふふふふふ、成る程。<オークジェノサイダー>とか言われて調子に乗っている汚物か。首を落とすとロディアスが五月蝿いだろうから、顔だけを狙って腫れ上がらせてやろう。オークそっくりの見た目になあ」
「それはいいわね。私も明日は冒険者ギルドに行くわ。ちょーっとお灸を据えなきゃ理解しないようだしねえ? それで分からなければ消えるだけよ」
『その後は森まで行って集落の三方から攻める事になった。主が先に出るのは決まってたんだが、他の女冒険者は出てこなかったな。主がそれなりのオークを倒してマズいと思ったのか、慌てて出てきたが……』
「ミクはアンノウンだから心配はしてないけど、そいつらアホね。ミクを捨て駒にして有利に戦おうとしたんだろうけど、その時点で失格よ。見捨てる場面と助け合う場面。それが正しく理解出来ていない奴は上がれないのよ」
「しかし他の女どもも全員か……。おそらくはミクの美貌に嫉妬したのだろうが、下らん事をする。オークの被害者がどうなるか分かっていて捨て駒にしたのなら、文句無く失格だ。話にもならん」
「その後だね、レーシャとかいうのが私を勧誘してきたのは。スッゴイ面倒だったけど、全部無視しておいたよ。いちいち聞く気も無かったけど、酷いくらいに粘着された」
『主がオークの死体を片付けている間も、何もせずに主の後をついてくるだけだったしな。そしてずっと勧誘し続けていた。何を考えているのか知らないが、帰る際には敵意と悪意を向けてきていたぞ』
「ほう……」 「へぇ……」
二人の怒りメーターが上限を突破しそうな勢いで上がっている。余程にレーシャは二人のヘイトを集めてしまったらしい。まあ、人間種など大抵は第一印象で決まる。最初が悪ければ尾を引くのだ。自業自得である。
夕食後、ゼルダは昨日と同じように宛がわれている寝室に来た。「またか……」と思いつつも顔には出さない二人。今日はローネとミク、ゼルダとヴァルらしい。何故か昨日のゼルダと同じく女性の姿を指定してくるローネ。
ミクが女性の姿であっても、咲き誇るのは百合の花……ではなく、触手の花である。
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明けて翌日。今日はゆっくりと休もうかと思ったのだが、昨日の報酬の事を思い出したミクは、朝食の時にゼルダとローネに話しておいた。それを聞き、<護女兵団>のレーシャが来る事を知った二人はついてくると言い出す。
ミクとしては二人が何かやったところで、ロディアスが何とかするだろうと思っている。なので好きにしたら? という感じだった。これがいけなかったのだろう。冒険者ギルドに着くなり、二人はレーシャをボコり始めた。
それはもう意図的に顔が腫れあがるように叩いているのだ。ビンタをしていると言えば分かりやすいだろうか? そうして叩いている最中に昨日のまとめ役の男性が来たが、二人の顔を見た途端スルーして売却額を話していく。
どうやらゼルダの事もローネの事も知っているらしく、絶対に絡みたくないというオーラを出している。他の受験生だった連中も最初は驚いていたが、二人が<魔女>と<首狩>だと知ると顔も向けなくなった。
「昨日のオークの集落での死体は全部で83体。ウチ82体がオークで、1体がハイオークだ。しめて銀貨194枚と金貨2枚となる。銀貨に換算すると394枚。そのうちギルドの取り分はいつもと同じ3割。後はお前達だが……」
「だがって言われなくても分かってるよ。大半は俺達じゃねえって言いてえんだろ!」
「その通りだ。というより7割から8割をミク一人で倒している以上、お前達に口を挟む権利は無い。それに揉め事が面倒なんで我々が決めた。残っている売却金の7割はミクの物だ。つまり銀貨193枚となる」
袋に大量に入った銀貨を受け取ったミクは、リュックの中に貨幣の袋を仕舞う。それに対して敵意と悪意を向ける元受験生。
最後まで碌でもない連中だ。まとめ役がそう思っていたら、レーシャがぶっ飛ばされてきた。
「お前達、何て顔をミクに向けてるんだ? そんな顔を向けていたら、ついつい首を狩りたくなるじゃないか……」
「あら? 先に私に焼かせなさいよ。ランク10の試験まで登ってきてこの程度のゴミなんだもの。生きている価値なんて無いでしょ?」
右手に魔法陣を出し、炎を噴出させながらゼルダが語ると、ローネはどこからか黒い刀身の短剣を取り出した。そのタイミングで上の階からロディアスが下りてくる。
「報告を受けてたから、こうなるんじゃないかと思ってたけどさ。予想通りの事をやるのは止めてくれないかな? <護女兵団>の彼女は仕方ないけど、他は止めとこうか。どのみち合格できない奴はその程度だから、放っておいて問題無いよ」
ロディアスが来た為に、仕方なく折れた二人である。仕方なく……だ。




