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0050・乱戦試験とオークの集落




 他の連中は馬車に乗ってゆっくり進んでいるが、ミクだけはヴァルに乗って移動する。ミクとしては早く行きたいのだが、抜け駆けとか言われて失格扱いも業腹なので、馬車と同じ速度で進んで行く。


 それでもオークの殲滅だからか無理して馬車を走らせているらしい。ミクには遅すぎるが、馬車の速度としては速い方である。そもそもヴァルが速すぎるという事を理解していないのだが、ミクにとってはどうでもいい事だった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ヴァルの背で寝そべり分体を停止していたミクだが、そろそろ目的地に着くという事で起動する。体を起こして周りを見ると、馬車の中から敵意や悪意の目で睨まれていた。ミクにとっては下らないものでしかないが。


 馬車は何の変哲も無い森の前で停止し、そこで試験官の纏め役が降りてきて早速説明していく。



 「ここから森に入って真っ直ぐ行った所にオークの集落がある。そこに居るオークを殲滅するのだが、最初に突入するのは女性に頼みたい。誰か立候補者は居るか?」



 そう言われて即座に手を上げるミク。他にも二人居た女冒険者が手を上げている。女性が全員手を上げているので、三方から一斉に女性が攻める事になった。


 なるべく周りの者がフォローする事。これは試験でもある事を忘れないように。そんな言葉の後、各々が森の中へと進んで行く。南側、西側、東側から攻めるのだが、最初に攻めるのはミクの居る南側だ。


 タイミングを合わせる為、ミクは最後に出発する事になったので地面に座っていると、レーシャが話し掛けてきた。



 「貴女がオークに手篭めにされても助けないからそのつもりでね。私は試験官だから、貴女が手篭めにされたら失敗としてオークの殲滅を始める。出来る限りさっさとヤられてくれる事を祈るよ」



 コイツは本当に試験官か? そう言いたくなる程の人物である。正直に言えば人選を間違っているとしか思えない。


 オークへの怨みと憎しみで周りが見えていないし、クランでは同種の者達で固まっているので、それが先鋭化しているのだろう。


 戦いの前に無用なプレッシャーを味方に与えるのは唯の馬鹿である。いや、むしろ仲間の足を引っ張る害悪でしかない。そんな基本的な事でさえ怨みと憎しみで見えない人物が、試験官として適当だと思う者はいないだろう。


 ミクが森に入る事になったので進む。ミクにとっては散歩する気分で進んで行くが、試験官のレーシャは苦労しているようだ。森歩きに慣れていないのか知らないが、ミクは興味が無かった。


 所定の位置に来たものの、試験官が来ないので仕方なく待つミク。後ろから「ハァハァ」という声と共にやって来たレーシャに一瞥いちべつを呉れる事も無く、ミクは両手に武器を握ったまま飛び出し、オークどもに突撃する。


 ミクを見たオークは色めき立ち、一斉に襲おうと攻めてくる。その数は大凡おおよそ30ほど。まだまだ集落には居るので増えるだろう。攻めてくるオークに対し、右手のメイスで頭をカチ割り、左手の鉈で首を裂く。


 まるで踊るように優雅に、それでいて烈火の如く振り下ろされる武器。ミクが回る度にオークの頭と首から血のシャワーが噴出し、周りを赤く染めていく。ある程度経って、ようやく西側と東側から他の者達が攻め始めた。


 出来る限りミクに攻めさせて囮にしていたのだろうが、このままだとミク一人に殲滅されかねない。だからこそ慌てて戦闘を始めたのだろう。味方を已む無く見捨てねばならない状況と、味方を囮に使うのは同じではない。


 既に他の受験者は結構なマイナスポイントが付いてしまっているのだが、彼らは採点基準を知らないので気付いていないようだ。戦って必死にアピールしている。


 とはいえミクの殲滅速度は圧倒的な速さなので、彼ら彼女らのアピールはそこまで効果が無い。何合か打ち合って勝っている受験者に対し、一撃でオークを絶命させていくミク。当然その差は時間が経つほど広がる。


 ミクの倒したオークが50を越えた頃、集落の奥の森からハイオークと取り巻きが出てきた。狩りに行っていたのか、獲物とおぼしき猪を抱えている。



 「グゥオオオオーーーーーーッ!!!!」



 集落のオークが虐殺されている事に怒っているのだろう。咆哮を上げて叫ぶものの、その目の前には怪物が接近していた。ハイオークは右手で持っていた長剣を強い力で振るが、急に止まったミクの前を通り過ぎただけに終わる。


 そしてハイオークが切り返す前に懐に潜り込んだミクは、ハイオークの頭をメイスでカチ割り素早く離脱。<大森林>のハイオークと同じく、頭から血を噴出して失神するハイオーク。ミクはそれを無視して取り巻きに襲い掛かる。


 慌てて動き出す取り巻きだが、そんな連中を嘲笑うかのように殺していく怪物。結局、集落のオークの3分の2はミクが殺したのだった。そのミクは血塗れなのだが、その血を飲めないか思案している。


 思わず何やってんだと言いたくなるが、周りからは戦闘が終わってクールダウンしているようにしか見えないのだった。美人な容姿はこういう時に得だね。


 ミクに散々言っていたレーシャは立っているミクに話しかけるも、今度はミクからスルーされる。最終的に歩きながら【清潔】を何度も使って落とすという方法に決めたらしい。


 そうやって血を落としていると、試験官を纏めている人物が現れて死体を集める事になった。流石にギルドとしても儲けは出しておきたいらしい。ちゃんと受験者にも配当されるそうなので、ミクも手伝う事にした。


 というより、ミクの場合は早く帰りたいだけだ。なので積極的に手伝うも、いちいちレーシャが話し掛けてくる。その度にイライラするミクだった。しかもその内容が<護女兵団>への勧誘なのだから、ミクは聞く気が無い。


 ギルドの職員がアイテムバッグに死体を入れ、全て片付け終わったので帰る事になった。流石に途中からレーシャは話し掛けて来なくなり、ようやくミクは一息吐く。


 帰りもヴァルの背に揺られながら、面倒な奴に目を着けられたかな? と思うミクだった。そんなミクに「大変だったが、お疲れ様だ」とねぎらいの言葉を掛けるヴァル。


 オークの集落で戦っている際に昼だったのだが、他の連中にとっては激戦だったらしく、昼食を食べていなくても気にならないほどテンションが高い。それに便乗し、昼食を忘れてましたで乗り切ろうと思うミク。


 何を考えているのだろうか、この肉塊は……。相変わらず常人とは違い、ズレているミクだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 王都に帰ってきたミクは、門番に登録証を見せて中に入る。そのまま冒険者ギルドへ行き、中に入ると少し待った。他の受験生と試験官も入ってきたのでミクも近付く。全員居るか確認した後、話を始める試験官のまとめ役。



 「今日のオーク集落の殲滅、御苦労だった。既に分かっているだろうが、結果を発表する。合格者はミク! 彼女一人だけだ。以上!!」


 「は? ……ちょっと待てよ! 俺達だって戦ったじゃねえか!!」


 「お前達は長い間、彼女だけを戦わせていた。他の二方向から攻める筈の女達も攻めていない。他の冒険者を已む無く見捨てねばならない事と、他の冒険者を捨て駒に使うのは同じではない!!」


 「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


 「他の冒険者を捨て駒扱いした時点で、お前達は失格なんだよ! それを理解しろ!! ………以上だ! 反論のある奴は居るか!!」


 「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


 「では、解散。ミクは次の試験があるが、いつ始まるかは分からん。お前一人だけなら、ギルドマスターが結構な難題を用意しそうな気はするがな」


 「別に何でもいい。私は淡々と熟すだけ」


 「ま、本物の強者はそんなもんだろうな。ギルドマスターのパーティーも似た様なものだったらしいし。おっと、これ以上どうでもいい雑談をする訳にはいかんな。じゃあ、俺はこれで失礼する。お前達への報酬は明日だ、取りに来いよ」



 そう言って試験官のまとめ役をしていた男は去って行った。ミクもまた用は無いと、ゼルダの屋敷へ移動する為ギルドを出る。その背に様々な連中の敵意と悪意を受けながら……。


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