0489・アティと村のクズども
次の日。ミクは朝から軽食を出し、それを起きてきたアトルコと共に食べる。アトルコと呼ぶのも何なので、アティと呼ぶ事になった。アティは既に昨日の夜に、思い出の物や持って出る物を選んでアイテムバッグに入れている。
軽食を食べてお腹を満たした後は、皆で外に出て思い出の家に別れを告げさせる。アティは家を見ながら泣いているものの、意を決したのか、ミクから受け取った松明で家に火を着けていく。
木で出来た支柱に火が着き、土で出来た壁が熱されて焦げていく。木で出来た屋根にまで火が届いて燃え出すと、周囲の家の連中が近付いてきた。
「ANTATATIITTAINSANIWOYATTEIRUNNDANE」
(何言ってるか分かんないんだけど? これで分かるように話せるから、心で念じてよ。そっちの言葉は分からないんだからさ)
(これは!? ……心で念じればいいのか。それより、何でアトルコが松明を持って家に火を着けてるんだい? あんた達が良からぬ事を吹き込んだんだろ!! 何て事をするんだい!!)
(まあ村人にとっちゃ困るよねえ、せっかくアトルコを追い出して家と畑を手に入れようとしてるんだからさ。燃やされたら使えないから怒るのも分かるよ、うん)
(な、何を言って……)
(ん? ありもしない呪いだと嘘を吹き込んで、アトルコを追い出して乗っ取る。卑劣だね、ゴミだね、この村にはクズしかいないんだねえ。アトルコは私達が連れて行くから、いかにこの村がクズの集まりかは町に伝わるよ。よかったねー)
(まあ、そんな事を考えてたの? この村の連中。あまりにもクズ過ぎない? ドドコース村の人達とは違いすぎるわねー、ここの連中って汚物そのものじゃない。アトルコだけが唯一のまともな村人だったのねえ)
(な……な、な)
(いや、事実でしょ。ありもしない呪いなんて事を言い出して、まだ小さい子に村人が集団イジメ。それも理由は乗っ取る為ときてる。最悪のゴミ集団でしょ? 他に表現する言葉ある?)
(………)
(((((((………)))))))
アトルコの視線を理解したのだろう、誰も口を開けなくなっている。まだ10歳の、それも両親を流行り病で亡くした子の家と畑を奪おうとしたのだ。最低最悪の連中である。
この連中のやった事は、時代や民族や国によって変わる事はない。どこでもいつでも不変のクズっぷりだ。まさしく汚物と言われても仕方のない所業であり、村の外の者からの意見である。つまり第三者から見てクズなのだ。
自分達でどれだけ言い訳しても意味は無い。第三者から見てクズであるなら、噂を撒かれたらクズだという事実が広がるという事である。村の中で閉じ篭もっているならいいのだが、一歩世間へ出ればクズ呼ばわりされる事をした。
それが偽らざる事実であり、それを理解したからこそ集まった連中も黙ったという事だ。燃えている家を背に立ち去ろうとすると、必死に砂や土を掛けて消そうとし始める村人。家が燃えては困るのか、それとも自分達の罪を消したいのか。
そんな醜い姿を見て溜息を吐いたミクは、【火災嵐】の魔法を使い一気に火の渦に落とし込む。周りで砂や土を掛けていた村人が巻き込まれたが、ミク達の知った事ではない。
東に向かって歩いて行き、碌でもない所であったデッコルド村を後にする。ある程度ゆっくりと歩いた後で、ミクはネタばらしをしていく。昨日の夜の事と村長宅でやった事と、アティの家の畑にやった事をだ。
(実はね、昨日の入り口が壊れたの、アレ案内させた狼族のヤツがやったんだよ。私達はそれを知ってて黙ってたの、ゴメンね)
(いえ、おそらくそうだろうと思ってました。村長の息子からは早く出て行けとか、村のお荷物だとか散々言われましたので……)
(マジでクズだったんだねー。まあ、夜の内に村長の家に忍び込んで全て吐かせて、最後にデスホーネットの毒を注入してやったからさ。体がドス黒くなって死んでるよ)
(主はデスホーネットの毒を使う事はあまり無いんだけど、褐色肌の事を呪いとか言う奴だから、ドス黒くなって死ぬデスホーネットの毒を使ったんでしょうね)
(そうそう。それに村長の方もデスホーネットの毒で殺しておいたよ。こいつが元凶だったし。で、その後アティの家の畑に行って、デスホーネットの毒を撒いて耕してから十分に押し固めておいたんだ。あの畑、二度と誰も使えないようになってるから安心していいよ)
(………)
(主……やり過ぎでアティが放心してるわ。というかデスホーネットの毒を撒いて耕すとか、作物どころか虫も近付かないわよ。触ったら即死じゃないの)
(触ったら即死の土。怖ろしい事実ね。それでも時間を置いたら薄れていくでしょうけど)
(雨が降ったら地中に滲みこむね。その水が何処に行くのか知らないけど、井戸から出てきたりして。私なら無毒化できるけど、あの村の連中の為にしてやる気は無いよ)
(………)
(主、どうにもならないくらいに放心してるわ。どうするの?)
(仕方ないね、私が背負って行くよ。それにしてもアティって顔が美猫だからさ、そういう意味でもあんな村を出て良かったよ。慰み者にされる可能性すらあったから)
(そういえば猫獣人っぽいのも居たわねえ。確かに可能性としてはゼロじゃないし、猫としては美形なのよアティは)
獣人というか獣よりの種族であるアティは、毛が多く生えているし尻尾もある。多くの星の猫獣人は、あくまで人間種であり猫耳が生えている人間といった見た目である。髭が生えていたり、尻尾が生えていたりはしない。
ところがアティは毛深いし顔が猫なうえ尻尾が生えている。気をつけないと、おかしな輩に誘拐されかねない。この星なら大丈夫かもしれないが、これから連れて行く以上は守ってやる必要がある。
まあ、肉塊が守るなら問題は全くないだろう。むしろ周囲に来るであろう腐った奴等が喰われるだけだ。そう考えたミクは、アティがいた方が都合が良い事を理解する。
嫌な予感がしないでもないが、腐ったゴミどもが喰われるだけと考えればいつもの事だ。ならば全て纏めて問題はない。納得したゼルはそれ以上考えるのを止め、黙々と歩いて行くのだった。
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景色も変わらず面倒になったので身体強化で走り、大きな町っぽい感じの所に辿り着いた。周囲に畑があるものの、町は堀や柵で囲まれている。今までの村も堀はあったが、それは家の周りだけだった。
それも申し訳程度にあるだけで、幅も1~2メートルの物だ。この町の堀は5メートルほどあり、更に向こう岸に柵が建ててある。あくまでも2メートル程度の柵だし、堀の深さも2メートル程と浅い。
とはいえ町を囲むように堀を掘るのだから、それなりの苦労を含め色々あったのだろうし、それだけのマンパワーがあるという証拠でもある。そんな事を思いながら、入り口へと行くと門番が居た。
ミク達はここの言葉が話せないので、相変わらず【想念思話】で話しかける。
(私達はこっちの言葉が話せないからこうやって会話するんだけど、ここを通るのにお金か何か要るの?)
(ぬあっ!? ……あー、ビックリした。ここを通るのに必要なのは牙貨1本だよ)
(は? 牙貨ってなに? 私達は西から旅してきたけど、聞いた事が一度も無いよ)
(牙貨っていうのはデッブーの牙の事だよ。何でも領主様が言うには、交換する物だと重いから牙で交換するんだってさ。そういうお達しが出たから、オレ達はそうするだけだしね。という事で牙貨1本ないと通れないよ)
(ちょっと待ってくれる? 今引っこ抜くから)
そう言って、ミクは小型恐竜ことデッブーの死体を取り出したら、門番の目の前で牙を1本引き抜く。それを渡したら驚かれた。
とはいえアイテムバッグに対してであり、更にはミク達に対して悪意が洩れているが……。




