0488・猫獣人のアトルコ
とりあえずアトルコの家に上がらせてもらった一行。10歳ぐらいの女の子だが、忌み子とはいったいどういう事だろうか? よく分からないので、その辺りを詳しく聞いてみるミク。すると、ポツポツと話し始めた。
(実は……私の肌は呪われていて、こんな色なんです。両親は普通の肌の色だったのに私はこんな色ですし、私が生まれてから村では不幸が「それ嘘」あって……)
(そもそも私は今まで呪いを喰らってきたけど、アトルコの体から呪いは一切感じないよ。そもそも私にとっては呪いでさえ食い物でしかない。にも関わらず呪いが感じられない以上、アトルコは呪われてなんていないね)
(おおかた自分達の不幸をアトルコに擦り付けようとしたんでしょうね。誰かの所為、何かの所為にして逃げるなんて、世の中ではよくある事よ。こんな閉鎖的な村なら当たり前にあるでしょう)
(その肌の色は隔世遺伝なんでしょうね。おそらく遠い祖先に褐色肌の人が居たんでしょ。たったそれだけの事よ。何代も過ぎてから、突然祖先と同じになるって事はあるからね)
(えっと、私は呪われていないんですか? ………なら何でお父さんとお母さんは死んじゃったの?)
「いや、私達は何故かなんて知らないよ。両親が亡くなった当時、何があったかも知らないしさ。もし病気なら、普通に流行り病なんじゃないの? 病気は蔓延するからね」
(………)
(どうやら主の言っている事で当たりみたいね。単なる流行り病なのに、肌の色だけでアトルコの所為にされたってところでしょう。そういうクズって居なくならないし、この程度の文明レベルなら普通に居るわよ)
(じゃあ、私の肌は関係なくて、お父さんもお母さんも病気で……。私の所為じゃなかった……)
(まあねえ。むしろ当たり前すぎるんだけど……アトルコさ、よかったら一緒に行く? この村に居たって都合よく利用され続けるだけだよ。悔しいでしょうけど、アトルコにやり返すだけの力も無いし)
(………でも、家があります。両親と暮らしてき「ドガァッ!!」……)
(入り口近くが崩れたわね。もしかしたら両親が家を出ろと言ってるのかもしれないわよ? ここに居ても不幸になるだけだって、早く出ろと言っているのかも)
(少なくともアトルコ一人では家の建て直しは出来ないわ。ならば一緒に行くべきよ。このままこの村の連中に利用され続けても、貴女が不幸になり続けるだけ。結局、村のクズどもの不満の捌け口にされるだけになるわ)
アトルコは崩れた入り口を見ながら考え、そして結論を出した。
(あの、お願いします。皆さんの事はよく分かりませんけど、それでも村に居るよりはマシだと思いましたので……連れて行って下さい)
(うん。そういう飾らずハッキリ言うところがいいね。それじゃあ、明日はこの家を燃やしてから出発しようか、はいコレ)
ミクはいきなり訳の分からない事を言いながら、アイテムバッグから食事を出して食べさせる。レイラやゼルにティムも食べ、ロックは母乳を飲んだ後でウトウトと舟を漕いでいる。
美味しい食事に何と言っていいのか困りつつも、アトルコも食事をしていく。まずはお腹をいっぱいにしてからでないと落ち着けないと思い、話を食事の後にしたミク。何故、家を燃やすなどと言い出したのであろうか?。
食事後、ゆっくりしながらミクは全員に話していく。
(この家を置いていっても、村の誰かが利用するだけ。それじゃあ、アトルコの思い出の家を利用されるだけになる。だったら村を出る前に燃やしていくべきだよ、アトルコの手でね。言うなれば、お別れをするって事)
(ああ。アトルコみたいな小さな子に不満をぶつけて利用するような連中だものね。居なくなったら自分達の物にして利用するに決まってるわ。アトルコの思い出の家を利用されるくらいなら、出発前に燃やしていくべきよ)
(そうね。連中に思い出の家を穢されるくらいなら、最後はアトルコの手で終わらせてしまうべきよ。その方がいいわ。今すぐ決めなくてもいいけど、明日の朝までには決めなさい)
(……分かりました)
(一応言っておくけど、家を燃やしたところで思い出は無くならないし壊れたりしないよ。むしろ家を残しておく方が駄目。穢される可能性を考えると、残さない方がいい。それと、コレを渡しておくから、思い出の品物は全て入れておきなさい)
(あの……これはいったい何ですか?)
(それはアイテムバッグといってね、物が沢山入る鞄よ。家の中の物は全部それに入れなさいって事ね)
(えっ!? 燃やすんじゃないんですか?)
(違う違う。燃やすのは家だけ、中の物は全部それに入れればいいんだよ。そしたら持って行けるから。まあ、要らない物は残して燃やしていく方がいいとは思うけどね。思い出の品物はそこに全部詰めればいいよ)
(はあ……えっと、分かりました。入れてきます)
そう言うと、アトルコは立ち上がって奥の部屋へと行った。ミク達は入ってすぐの竈がある場所の近くにいるが、板間などはなくて土が剥き出しの床しかない。文明レベルはこの辺りなのか、それとも木材を手に入れるのが大変なんだろうか?。
板間を作る余裕が無いとなれば、床が土オンリーの家も分からなくはない。そんな事を考えていると何やらアトルコが叫んでいる。多分「凄い」と言っているのだろう、ハシャぐ様子の声だ。
ある程度騒いだら急に静かになったが、思い出の品を色々詰めているのだろう。ミクは【土崩】を使って土を柔らかくし、そこに寝そべって寝る事にした。皆も今日は仕方ないと納得して横になる。
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アトルコも自分の部屋のベッドで寝始めたので、ミクは起動した。家の入り口が壊れた際、咄嗟にゼルが家を出るように両親が言っていると言ってくれたが、実際には誰かが大きめの石を投げつけて破壊したのだ。
そして、それが誰なのかミクは知っている。何故ならこの家まで案内させたのだから。
起動したミクはムカデの姿になりアトルコの家を出ると、記憶している精神と魂のある家に行く。すると、そこは村で一番大きな家であった。
更には村長のように会話をしていた男も居る。どうやらこいつらは親子だったらしい。なんでもいいが、家を壊すなんて暴挙をやった以上は覚悟が出来ていると見做す。ミクは早速頭に張り付き脳を操って聞き出していく。
その結果、呪いなど無い事も知っていたし、追い出そうとしていた事も判明した。どうやらアトルコの家が持っている畑と家を、ここ村長一家が奪おうとしていたようだ。ようするに欲からやっていたという事である。
呆れたミクはデスホーネットの毒を注入して放置。次に村長の部屋にも行き話を聞くと、案の定こいつの発案だった。よってこいつにもデスホーネットの毒を注入、後は放置した。どうせドス黒くなって死ぬだけなので見る必要もない。
そしてアトルコの家に戻ったミクは、次にアトルコの家の畑を調べる。すると丁度収穫が終わったのか何も植わってはいなかった。非常に都合が良かったので畑の区画にデスホーネットの毒を撒き、それを土とよく混ぜ合わせる。
何度か繰り返し、十分に辺り一帯に毒を行き渡らせたら、今度は上から圧力を掛けて押し固める。肉塊のパワーで押し固められた土は異常なほど硬く、ちょっとやそっとでは開墾もできないほどに固まった。
これでいいだろうと、ミクは満足してアトルコの家に戻る。良い事をやった後は気分が良いようだ。果たして本当に良い事かは疑問があるが……。




