0487・デッコルド村
(申し訳ないんだけど、そういう話は横に置いといてくれる? それよりもここはドドコース村で、東には領主が住んでる町があるんだよね? それにしても小型恐竜とか出てくるのに、よく畑とか作れるもんだよ)
(小型恐竜? ………おー、デッブーの事かい。ありゃ村の皆でボコれば勝てるべや、そこまで強いヤツじゃねえべ。体が大きいオデッブーも大きいだけでしかねえし、あいつらの肉はうめえだよ)
(んだんだ、ケンバよりは遥かにマシだべや。アレはアレで夜が元気になるだで、必死に獲る奥さん方がおるけえな。ケンバ? でっけえウサギの魔物がおるじゃろ、アレをこっちじゃケンバっちゅうとるだよ)
(へえー。まあ、私達は西から旅してきて色々見て回ってるんだけど、西の方では農業をしてなかったのよね。こっちじゃしてるけど、これは誰かが言って始めさせたの?)
(んー、あー、いつだったべや? 50年ぐらいめえに種を植えた奴がおって、そいつの御蔭だって聞いた事があんべよ。後は皆で色んな事して育て方が分かったっちゅう感じじゃな)
(成る程ねえ、まだ体系化された農業をしている訳じゃないって事なのね。農業が発展していく時代って事かしら? ある意味で凄く新鮮だし、私が生まれた時代でさえ既に分かっていた事だからねえ)
(最初期の農業という事? だったら草がボーボーなのも当然なのかしら。それともコレはこういう作物なの? 先ほど芋って言ってたけど、ここまで生えてたら雑草が混ざってると思えてくるわね?)
(こりゃこういうもんだで、余計な事すっと逆に良うなくなるんだべや。周りに草あ生えてくるけんど、それを食って大きくなるだよ。芋の近くに生えた草はなんでか知んねえけど、途中で萎びて枯れるんじゃ)
(だから雑草は抜かん方がええんじゃ。何でか知んねえけど、雑草が沢山萎びっと芋が大きくなるだよ。それが分かってから誰も雑草抜かんでな。御蔭で楽になっただよ。それまで無駄な事しとったでな)
(雑草を食べてるのか、雑草の栄養を途中から奪ってる? 何にしても不思議な芋もあるものねえ。周りに雑草が生えた方が良いっていうのも、初めて聞いたかもしれないわ)
(色々な話をありがとう。私達は東にあるっていう町へ行ってみるよ)
(おお、そうかい。でも行くなら気をつけた方がええべや。たまーにおかしな事をしとる奴がおるらしいでな。町への道を塞いで物を奪う奴とかおるっちゅう噂を聞くし、駄目ならさっさと逃げるのがええだよ)
(んだ。怪我すんのもバカらしいでな、さっさと逃げるのが一番だあよ。怪我が元で変な病気になる事もあるだで、逃げるのが一番ええ)
(情報ありがとう。とりあえずは東へと行ってみるよ、それじゃ!)
そう言ってミク達は黒亀族の夫婦と別れ、畑の隙間を歩きながら東へと進んで行く。このドドコースという村は30世帯くらいしか住んでいない小さな村みたいだ。それにしても山を越えたくらいで村や町があるとは変わった星だと思う。
とはいえ農業を始めたのもここ50年ほどの話らしいので、農業文明の始まりと考えればこんなものなのであろうか? 片や狩猟系民族のまま、片や農耕文明へと移行中。
ネオガイアでも初期の人類は狩猟民族だったと言われていたので、農耕民族になるまでにはそれなりに時間が掛かるのだろう。そんな事を考えながら歩いて行き、村の外れから更に東へと進んで行く。
村の人達からは変な目……というか珍しい物を見たような目で見られていた。どうも余所者は全て疑うかのような排外主義ではないらしい。それがこのドドコース村だけなのかは分からないが。
村にはピンク色の毛の兎獣人やら、水色の毛の狼獣人、黒い毛の烏のような獣人? 鳥人? も居た。ちなみに烏獣人は両腕両足があり、背中に黒い翼が生えている。腕が翼ではないらしい。
長閑な風景の中を歩いていると、小型恐竜が襲ってきたので始末する。相変わらず何処にでもいるが、村の近くには居なかったので殺される場所には近寄らないらしい。それは賢明だと思うが、村人よりヤバい存在に襲い掛かるのはどうなのか……。
ミクが小型恐竜を処理し、アイテムバッグに仕舞ったら先へと進む。ある程度の距離を歩くと、遠目にまた畑が見えてきた。あそこが町だろうか? 既に夕日が出てきているので、ミク達は早足で急いだ。
畑の間を歩いていると、周囲から声が聞こえてきた。また何を言っているのか分からない為、【想念思話】を使って話をしていく。
(こっちの声は聞こえてる? そっちの言葉が分からないから、こうやって会話するしかないのよ。聞こえてたら心で返事して)
(ぬぁっ!? 何だこれは? 頭の中から声が聞こえるぞ! お前が怪しい事をしてるのか!?)
(待て! この人はわしらの言葉が分からんと言っとる。それでこんなよう分からん事をしておるのじゃろう。とにかく話が出来るならええ。お前さんらは何しにここへ来た?)
(私達は西から旅をしてるだけだよ。ドドコースっていう村の人に聞いたら、こっちに町があるって聞いたから歩いてきたの。で、ここが町?)
(ああ、旅をな。それはともかく、ここは町ではない。ここはデッコルドという村だ。町はここから東に行った所にあるが、半日がかりで歩かんと着かんぞ? 今日は……アトルコの家に泊まるといい)
(アトルコ?)
(親を亡くした子だ。悪いが、お前らのような怪しい奴等を泊める阿呆はいねえ。アトルコなら死んでも構わ……!)
(碌でもない連中だねえ。心での会話に慣れてないから本音をあっさり出すんだろうけどさ。ここの村はクソしかいないって情報でもバラ撒かれたいの? 違うなら口を閉じておいた方がいいよ?)
(なっ!? ……お前ら、ここにどれだけ居ると思ってんだ? 事と次第によ、ひぃっ!!!!)
(あ゛? 今何か言ったか? 何か聞こえた気がするんだけどなー……私の気のせいか?)
((((((((((………))))))))))
ミクが本質を少し出しただけで周囲の者は何も喋らなくなった。この星に居るのは獣に近い獣人である。なればこそ、彼らは本能的な恐怖を嗅ぎ分けるのだが、その彼らの本能が悲鳴を上げているのだ。
目の前の者には絶対に勝てないと、絶対的強者には喰われるしかないと叫んでいる。その事を自覚すれば、後は何も出来ない。彼らに出来る事は唯々諾々と目の前の相手に従い、ただ過ぎ去るのを待つしかないのだ。
ミク達はアトルコという人物の家を聞き、そこに案内させる。当然、案内させるのはミク達に喧嘩を売ってきた者だ。そいつは終始怯えきっており、狼系の種族だったが尻尾を丸めている。余程の恐怖だったらしく、漏らしているようだ。
そんな事には興味もないのでスルーし、アトルコという人物の家に行くと中から小さな子が出てきた。出てきたのは白い毛をしている褐色肌の猫の女の子だ。案内してきた狼は「もういいだろ!」と言って逃げて行く。
(あー、貴女がアトルコ? 私は西から旅をしてきたミク。ここに一晩泊めてほしいんだけど、いいかな?)
(えっ!? 声が頭の中から!? ………あっと、あれ? 何でしたっけ?)
(貴女の家に一晩だけ泊めてほしいんだけど、いいかしら?)
(あっ、はい。壊れかけですけど、それで良かったら……)
(ごめんなさいね。村の人に聞いたら、貴女を紹介されたのよ)
(ああ、成る程。私は忌み子ですから……)
(((は?)))
「ピ?」 「シュル?」
何だか面倒臭い事をされていそうな女の子である。




