0479・緑銅
丸焼きの肉は削ぎ切りしていき、焼けたパンとスープで夕食にする。食べる物としては古い時代と変わらないものの、食べる者の心境もまた変わらないようである。外で食べる食事は美味しいのか、特にゼルのテンションが高い。
「やっぱり外で食事をするのって良いわねえ。特に自然の中で食事をするっていうのが最高よ。開放感があるし、空は綺麗だし。どうしても人が多いとゴチャゴチャしてるし、永くタウン惑星に居たから余計にそう感じるのかしら」
「そんなに永かったの? タウン惑星での暮らしは」
「まあね。何だかんだと言って色々な物が揃っているし、娯楽も情報も多いのよ。田舎暮らしなんかもした事はあるんだけど、気付いたら全く知らない世の中になってたりするから困るのよね。100年ぐらい田舎に引き篭もってたら理解不能な世の中になっていた事があったの」
「100年も文明に触れ合ってなかったら、それは変わってるでしょう。酷い場合20年でも全く違う世の中になってたりするのに、100年じゃ変わっているのも当然よ。ネオガイアでもそういう歴史は見たわ」
「ネオガイアねえ。ミクやレイラの話だと、今から700年ぐらい前の宇宙みたいね。そこからゆっくりと進歩していって、やがて宇宙に進出するようになるわ。そこからが長いんだけど」
「人の住んでいない星に入植して、人類の生存圏を広げていくんでしょう? それは時間が掛かって当然よ。進歩というよりも、拡大というのが正しいわね。既に何処の星から人類が巣立っていったか分からなくなりそう」
「いえ、何処だったかしら……今の人類の祖が生まれた星は特定されていた筈よ。生憎と私が生まれ育った星ではなかったけども。でも何処だったかは忘れたけど、確か共同管理惑星になっていた筈」
「………ああ、コレだね。祖星α001。この星が人類最初の星みたい。一万年周期で人類が滅び、その度に宇宙に散って行ったらしいよ。その近くの人類生存惑星も、古くはα001から巣立った古い人類みたい」
「それらが更に文明を作り出す人類の祖となり、やがては広がっていったという事ね。ネオガイアでも一万年以上、何をやっていたのか分からない時代があるらしいと聞いた事があるわ。一度か二度、文明が滅んだのではないかと言っている学者もいたわね」
「まあ、様々な惑星に様々な歴史があるわ。ただ単に停滞し続けていただけかもしれないし、その期間は進化の期間かもしれない。知能が僅かに向上するだけでも数千年かかる場合もあるもの。現代の人間種の知能になるのに、どれほどの年数が必要だったかなんて神様しか知らないだろうし、私達が知る必要も無い事よ」
「それはね。いちいち知りたくもないし興味も無いよ。それより、ちょろちょろと何かが近付いてきてるねえ。私達がエサにでも見えてるのかもしれないけど、随分とマヌケな生き物も居たもんだっ!!」
ミクは近くの石を投げてぶつけたのだが、そうすると周囲の魔物が激怒して姿を現した。とはいえミクは完全な暗闇だろうが見通せる為、最初から何が居るかは知っていた。それはレイラも同じである。
「「「「「「「「ブルルルルァァァッ!!!」」」」」」」」
そこに居たのはオークなのだが、何故かそのオークの肌は黒い。更には女性だというだけで血走っておらず、怒りながらも冷静にこちらを観察している。雌と見ればとにかく種付けしようとするオークとはどうやら違うらしい。
猪顔である事に変わりはないのだが、明らかに別種と言える知性を感じさせる相手だった。なので【想念思話】を使ってみたのだが、支離滅裂な感じで自らの感情を言語化できないらしい。つまり、こちらを食べ物として見ているので冷静なだけだった。
「どうやら、いつもの種付けオークとは違うみたいだね。肌も黒いし別の種族だと考えてもいいと思う。雌と見るや犯そうとする奴等よりはまともかな?」
「ブラックオークね。こいつらは滅ぼされたりしない魔物よ。通常のオークは酷いから見つけ次第即座に殺す事が決まってるけど、こいつらは強姦とかしない種だから虐殺される事はないわ」
「オークに強姦しない種類が居る事が驚きよ。クレイジーモンキーが雄を襲わないくらいビックリね。この世はまだまだ不思議で満ちていると痛感するわ」
そんな事を話しつつも、襲ってきたブラックオークに対処する三人と一匹。ロックはミクの胸ポケットで既に寝ている。
ミクは首を鉈で切り裂き、レイラはメイスで頭をカチ割り、ゼルは槍で喉を突き刺す。ティムは体を大きくして頭を丸齧りにして吐き捨てている。どうやら美味しくなかったらしい。まあ、頭だからね。
それらを見て恐怖したのか、30体ほど居たブラックオークは逃げていった。倒せたのは四体だけだ。ミクはそれらの死体の血抜きと【冷却】を行い、肉を通して本体に送ると解体をしていくのだった。
食事も殆ど終わっていたので、残りをアイテムバッグに仕舞いつつ後片付けを行い、終わったらレイラ以外を本体空間に送る。テントには入らず、ミクとレイラは肉を使って露天掘りを続けていく。
夜の間になるべく多くの鉱石を得ておき、精錬して紫魔鉄にしておきたい。それを考えつつ地面を貪り送っていると、中に白魔銀も含まれている事が分かった。それだけではなく緑色の銅まで見つかったのだ。
本体が色々弄って分かったのだが、どうもこの銅は闘気と相性が良いらしい。闘気を流すと強化されているので間違いないと思われる。強化された後は紫魔鉄と変わらない強度と切れ味なので、相当に優秀な素材だと言えるだろう。
優秀だからこそ、こんな物が発見されると困るのだが……。そう思ったミクは、贈り物をする事で強引に持っていくのを認めさせようと思いつく。白鱗族のリーダーは剣を持っていた。なので作るのは剣だ。
剣身は100センチにし、柄部分は25センチにした。彼らは背が高く筋力も高いので、ロングソードでも苦も無く扱える。後は少々細工を施して、誰が持っても闘気を勝手に流すようにすればいい。これで強力な剣の完成だ。
勝手に闘気を流すという時点で若干呪いの武器っぽさはあるが、必要最低限の量しか吸い取らないので大丈夫だろう。気分が悪くなれば使わなければいい。
ミクはそれを転送してアイテムバッグに仕舞い、再び掘り出していくのだった。
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次の日の朝。太陽が昇ってきた辺りでテントに入り、ゼルと二匹を転送してきて寝かせる。これで何の問題もないし、誰も本体空間に居たとは思うまい。そんな事を考えつつ。昨日の肉を取り出して再びレイラに焼いてもらう。
ミクは朝からパンを焼き、レイラが削ぎ切りした肉を、焼いたパンに野菜と共に挟んでいく。完成したサンドイッチを食べつつゆっくりしていると、ゼルと二匹が起きてきた。朝から元気にティムは食べ、ロックは母乳を飲んで二度寝する。
ゼルは少しゆっくりした後、もそもそと朝食を食べ始めた。飲み物は水ぐらいしかないが、綺麗な冷たい水で十分なようだ。ミクは朝食を食べているゼルに、昨夜の緑銅の事を話しておく。
「緑色の銅ねえ……魔力ではなく闘気だから、そこまで騒がれないかしら?」
「近接武器に使えば、魔力を使わなくても強力な武器として使えるけどね。魔法銃には白魔銀と紫魔鉄で、緑銅は近接武器に。こうやって使い分ければ魔力を無駄なく使えるよ」
「それだけじゃないわ。闘気のみだから盾と相性が良いのよ。闘気を流せば魔法も魔力も押し返せるし、魔銅じゃないから魔力の通り自体が元々良くないの。二重の意味で魔力防御が高いと言えるわね。魔力で押し返すより守りやすいわ」
「あらら、それはまた騒ぎになりそうな素材ね。どうするべきだと思う?」
「まあ、私達でなるべく手に入れてからかな。そもそも開拓時代は持って行ったって文句は言われないし、それを餌に開拓者を呼んでる訳だからねえ」
「先行者が儲かる理由よね」
それぐらいの利益がなければ、開拓などに応募する者もいないものだ。それが現実である。




