0478・白鱗族の採掘場
自称青狼族の勇者とやらの首を刎ね、あっさりと殺したミク。生かしても何の得も無いので当たり前の事ではある。更に言えば白鱗族の者達も何も言わないし、それが当たり前という顔をしている。
種族が云々というより、攻めてきた連中に対して慈悲などは無いという事だろう。ある意味当然であり、こんなところで手加減すると必ずや敵は増長する。攻めても殺されないとなれば舐められてしまうのだ。
相手をつけ上がらせるだけになってしまい逆効果でしかない。これはいつの時代でも、どんな生き物でも変わらない真理だろう。報復をしないと相手はつけ上がるのだ。仲間を守る為にも報復は当然の事である。
それはともかくとして、これ以上は攻めてこない青狼族に対してどう報復するのか聞くと、難しい顔をして思案し始めた。
(我等とて報復はしたいのだ。だが奴等の住処は森であり、我等にとっては不利にしかならぬ。さりとて報復をせねば侮られる。いったいどうしたものか……)
(お客人の力に頼る訳にもいかぬからのう、我等の力を見せつけねばならんのだが……自ら不利になるような死地に向かうのも……)
(まあ、尻尾が木にぶつかったりしたら音が鳴るし、それで居場所がバレたりするだろうね。向こうは岩山でも普通に登ってくるけど、こっちは迂闊に攻められない……か)
(なかなか面倒な状況ねえ。魔法銃なら簡単だけど、渡す訳にはいかないし困るわ。古い古い時代の戦いを考えなきゃならないし、1000年前でも銃はあった筈。私が500歳頃だから……うん、間違いない。銃はあったわ、火薬式のヤツだけど)
(<まほうじゅう>とは、そなた達が使っておった物か? あれがそなたらの武器なのか……。それはそれで凄いと思うが、魔法という事はその道具で魔法を放っておるという事じゃの?)
(そうだけど、もしかして貴方達の中に魔法が使える者が居るの? 魔法銃を渡すと問題になるかもしれないけど、魔法を教える事は出来るよ。ただし、流石に対価も無く教える訳にはいかないけど)
(それは当然じゃろう。しかし困ったのう、魔法が教えてもらえるなら習わせたいところじゃが、対価となる物が無いぞ……)
(長老。我等が鉄を採っておる所で見つかる紫色の鉄なら、十分な対価となるのではないか? 我等にはまともに扱えぬが、この者達ならば扱えるかもしれん)
(うん? もしかしてこの岩山に紫魔鉄があるの? ならあれ使って武器を作ればいいのに。何故使わないのか不思議でしょうがないんだけど)
(あの紫色の鉄は柔らかくて使い勝手が悪いのだ。他に使い道があるのか分からぬが、我等には扱えぬ。かつて武器を作った事もあるが役に立たなかったので、今では鉄を採る場所に捨ててある)
(勿体ない事をするねえ。あれは紫魔鉄といい、魔力を流すと非常に強度が高く切れ味が鋭くなるんだよ。そういう意味では非常に優秀な金属なんだけど、普段は鉄より柔らかいから仕方ないのかな。それに純度が足りてないのかも)
(ふむ。つまり紫色の鉄は使えれば優秀という事か。しかし我等には扱えぬからな、持っていても仕方ない。魔法を教えてくれるというのならば、そちらの方が重要だ。村でも魔法を使える者は多くない)
(そもそも魔法なんて誰でも使えるわよ? 訓練をすれば。使い方を知らないか、ちょっと練習して駄目なら諦めるから使えないと錯覚してるんでしょ。古い時代にはそういった事があったと聞いた事があるわ。最初に上手く使えた者だけが魔法使いになってたってね)
(練習すれば使えるんだから、才能のある者が使えずに埋もれてる場合もありそうだね。何と言うか、古い時代はこういう知識の無さでなかなか発展しないんだって聞くけど……どうやら間違ってはいないみたい)
ミクは紫魔鉄のある場所を聞き、彼らの使っている採掘場に向かうのだった。ゼルとレイラは魔法の使い方を白鱗族の者達に教えていく。これからどうなっていくのかは分からないが、紫魔鉄がある以上は友好を育んでおいて悪い事はないだろう。
ティムと一緒に案内してもらい、彼らの採掘場へと歩いていく。その途中にクソ山羊が出たが【魔力弾】で撃ち抜き、さっさと始末したら血抜きをしていく。それを見ていた白鱗族は絶対にミクと敵対しない事を決めるのだった。
着いた場所はガランとしている岩肌の場所で、そこかしこが穴だらけになっている。つまり露天鉱床と呼ばれる物であり、大きく螺旋に掘り下げていきながら鉱石を採掘する鉱床となる。どれだけの範囲に鉄があるのかは調べないと分からないが、結構な埋蔵量をしていそうである。
ミクはアイテムバッグから魔鉄のスコップを取り出して【土中探知】を使いながら掘っていく。鉄を掘り出すものの横に置いていき、紫魔鉄だけをアイテムバッグに入れて掘り進める。
周りで見ている白鱗族の者に鉄の含まれている鉱石を示し、それを持っていくように指示を出す。そろそろ夕方になりそうなのでMASCを使い、バルハーマに現在の状況を伝え自由にするように伝えておいた。
バルハーマには呆れられたが、紫魔鉄が採れるという事で重要性は理解したようだ。食料は買ってきてもらっているが、全てをミクが持っている訳ではない。途中でバルハーマ達にも半分分けておいたのだ、向こうで勝手に料理して食べるだろう。
少なくともセマーダイとソムデオード、それとメイリョーズとエイリーダは料理が出来るので問題ない。バルハーマとカラマントは食べる専門で、ルーダイトは簡単な適当料理しか出来なかった。
なので向こうは放っておき、こちらは掘り出しを進めていく。白鱗族の者達はミクに戻るように言ったが、ミクはゼルとレイラにこちらに来るように伝えてくれと言い掘り続ける。ティムは近くに寝転がって見ているだけだ。
白鱗族の者達も説得を諦めて村の方へと帰っていく。ミクとしては掘り出す作業を見られても困るので、正直に言えばここに止まりたい。食べる物は持っているし肉は焼けば済む。調味料も香辛料もあるので問題など無いのだ。
しばらく掘っているとゼルとレイラが来たので、アイテムバッグに入れておいたテントを建てていく。テントと言っても暇潰しで作った、ミクの蜘蛛の糸で出来た物だ。下に鉄の板を敷き、その上にテントを設営していくゼル。
ミクは支柱を立てた後、四隅にペグを打って引っ張っていく。簡易的な物だが、正直に言ってこれで十分である。周りから見えなくなればそれでいいのだ。実際には本体空間に寝泊りするのだから、ここで寝る必要は無い。
折角なので外で魔法を使いつつ、大きな鉄の串に刺した山羊肉を丸焼きにしていく。適当に作ったY字の金具を地面に刺し、そこに山羊肉の刺さった串を乗せ、ゆっくりと回しながら焼いていくレイラ。
ミクはパン生地を適当に作った後、ピザ焼き窯っぽい物を作成して焼いていく。採掘時に大量に出た石を本体空間に送り、窯にしてもらったのだ。上に生地を置き、下から魔法で熱して焼いていく。
何だかキャンプ飯みたいだが、本人達もそのノリで料理をしているようだ。ゼルも竈っぽいものをミクに作ってもらい、鍋でスープを作っている。ロックは楽しそうにあっちを見たり、こっちを見たりしながら「ピーピー」騒ぐ。
楽しそうで何よりだが、ここは大型の魔物が住む危険な惑星である。その事を忘れているのだろうか? ……忘れていても問題ない肉塊ではあるのだが。
暗い夜闇に紛れて襲ってきたのは黒い鹿であった。あっさりとミクの右腕に飲み込まれたが、勿体ないので肉は残したらしい。夜に紛れる危険な魔物も、ミクにとっては新たな食料でしかなかったようである。




