0477・青狼族
(白鱗族ってアイテムバッグを持ってないんだね。結構な高値とはいえ売ってるんだけど、やっぱりこの惑星から出た事のない原住民と考えて間違いなさそう。まあ、その事に関してどうこうとは言ったりはしないけど)
(ふむ。よく分からぬが、その<あいてむばっぐ>とやらには物が沢山入るのか? だとすれば凄い物じゃが、そなたの口ぶりだと割とありふれた物のように聞こえるのだが……)
(そうだよ。とはいえ高値……って分からないか。ある程度の発展をすると、物々交換じゃなくてお金という物を使うようになるんだよ。物を運ぶのも面倒だし、交換が上手くいかないと持ち歩く事になるでしょ。だからお金という物と交換するようになるの)
(そして物が大量に入るアイテムバッグというのは、大量のお金がないと交換できないって事。それほどに高価なんだけど、かといって貴重な訳じゃないのよ。それなりというか、お金があれば買える物ではあるの)
(ほうほう。それは素晴らしい事じゃが、お金というのがよう分からんからの。手に入れるのは無理じゃな。それよりも<わくせい>とやらから我等が出た事がないと言うておったが……)
(夜空に光っている物があるでしょ? あれを星というのよ。で人間種、つまり私達のようなのが居住している星を惑星というの、物凄く大雑把に言うとね。私達はあの暗い夜空の向こう側から来たという事よ。一応説明しておくと、ここはヴィルフィス帝国という国の外周ギリギリにある惑星なの)
(そして私達と似た者が、この惑星を開拓するべく北の方に住んでるって訳。森の近くの平原に村を作ってね、私達がその周りを調べたり魔物を駆除したりしてる)
(平原にか!? よくもまあ、危険な所に住もうと考えたもんじゃ。あのような所に村を作っても、危険な魔物に壊されるだけじゃぞ。信じられん事をするわ)
(そう? 普通に三年ぐらい生きてきてるし、周囲にそこまで危険な魔物も居ないけどね? 堀を跳び越えてくる魔物も殆どいないし、空から襲ってくる奴はたまに居るけどさ)
(あの<ギャースカ>に襲われたのか!? よく生き残れたの……我等でさえも矢を放って追い払うのがやっとだ。あれらは子供を奪っていく事もある為、我等からすれば怨敵でもある。今までどれだけの子らが犠牲になったか……!)
そんな話をしていた矢先、多くの者が村の近くに集まってきた。何故か気配の動きが速いので、どうやら走って来ているらしい。いったい何だと思ったら、襲ってきた奴等より頭一つ分大きい白鱗族の者達がやって来た。
「TYOUROUNISINOSAKINOMORIKARA……NUKOYATURAHAITTAINANNANODA」
(すまぬが、今話した奴もこの話の中に入れてくれぬか?)
(了解、了解。………入ったよ)
(ぬ? 何だコレは、頭の中に声が響くぞ? それより長老、西の森から狼どもがやってくる。我等はそれを見つけたから慌てて引き返してきたのだ。それと、こやつらは?)
(この者達は山の麓から北に遠く行った平原からやってきたそうじゃ。山の魔物の種類などを調べておるらしい)
(そうか。そなたら早く山を下りろ。狼どもがこちらに迫ってきておる。あやつらは我等から様々な物を奪おうとするのだ。そなたらにも容赦なく襲い掛かってくるぞ)
(襲われたところで叩き潰せるからどうでもいいんだけど、それより狼どもっ……何か来た?)
この集落は石を削って積み上げて作ったような豆腐型の家が多く、ある意味では分かりやすい建築物なのだが、そこに青黒い体毛の狼が現れた。狼と言っても二足歩行で毛むくじゃら、ケモナーが歓喜しそうだなとゼルは見ている。
ミク達は今のところ動く気が無いが、女性達が子供を抱えて走って逃げようとしている。そんな女性に対し矢を射ってきた狼、当然ミクが見逃す筈はなくキャッチした。それを見て騒ぐ狼と、喜ぶ白鱗族。関係性がよく分からない。
仕方なくミクは喋っている連中も【想念思話】に入れるのだった。
(貴様らこれでいったい何度目だ! これ以上我等の村を攻撃するならば、容赦なく青狼族を殲滅するぞ!!)
(何だこれは!? 己の内側から声が聞こえるだと? 面妖な!! 鱗どもの怪しい術か何かか!? ………おそらくあの毛も碌にない気持ちの悪い者どもの所為に違いない。あれを殺せ!!)
(おのれ狼どもが! 客人にまで手を出すとは、もう許さん……ぞ?)
ミクは矢を射かけてきたので全てキャッチし、お返しに矢を投げて青狼族とやらを始末していく。そもそも肉塊に対しての攻撃としては、話にならないほど脆弱な攻撃でしかない。矢で肉塊がどうこう出来るなら、神々が送り込んだりなどする筈が無い。
下界の連中ではどうにもならないからこそ、腐った者どもへの断罪者として送り込んだのである。肉塊の強さは神の悪戯も含まれるが、憤怒そのものだと言ってもいい。それだけの怒りを向けているのだ、神々は。
(あっと言う間にお前だけになったけど、相手を殺そうとするという事は自分も殺されるという事だ。その覚悟は出来ているな?)
(な、何を………何を言うか!! 我は青狼族の勇者! お前如き怪しき者に負けるなどあり得ぬわ! 神よ、我にご加護を!!!)
(無い無い。神どもが加護を乞われて与える事なんてないよ。神どもが勝手に加護を与える事はあっても、それは勝手に与えるだけ。だいたい神という存在が、自分達の言う事を聞いてくれるとでも思ってんの? だとしたらバカでしかない)
(キッサマー!! ブチコロシテヤル!!!)
そうやって襲ってくる青狼族の自称勇者。狼の二足歩行だからかそれなりには速い、それなりには。しかし圧倒的に速い肉塊には何の意味も無く、自称勇者は腹を拳で突き上げられた。その一撃で膝を突き、腹の中の物をブチ撒けて呻く自称勇者。
何とか立ち上がった瞬間、再びミクは腹を突き上げる。またもや悶絶する自称勇者。周りの白鱗族も最初は避難したり恐怖したりとしていたが、一人を残して全員殺され、残った一人も悶絶しているだけなので、既に娯楽であり観戦状態だ。
白鱗族のリーダーらしき者も呆れてしまい、ミクのやりたいようにやらせている。散々吐き出させてのた打ち回らせた後、頭の上に掌を乗せて脳を操る。即座に支配したミクは話を聞いていくのだった。
(お前は何故ここを襲ってきた?)
(鱗どもは鉄製の武器を持っている。我等は森に住む種族ゆえ鉄の武器が無く、作り方も知らない。手に入れるには奪うしかないのだ)
(物々交換とか色々な入手方法はある筈。何故そういった事をせず、攻めて奪おうとした? 殺してしまったら手に入らなくなるぞ)
(そんな事は知らないし、我等は長に言われてやっているだけだ。虫の魔物ならまだしも、蜘蛛の魔物と戦うには鉄製の武器が絶対に居る。それが無ければ苦しい立場に追いやられてしまう)
(なら余計に白鱗族を敵に回している場合じゃないだろう。周りを全て敵にしたら死ぬしかなくなるぞ)
(そんな小難しい事は知らん!! 我は鱗どもを襲えとしか言われていない!!)
(駄目だコイツ。言われたから従ってるだけの、何も考えない阿呆でしかない。私の力を使って喋らせているから嘘は吐けない、つまり本当の事しか喋ってないんだけど……)
(幾らなんでも脳筋すぎるでしょ。青狼族とかいう奴等って、こんな奴等しかいないの? 何と言うか、会話するだけで疲れてくる連中ねえ)
どうも青狼族は脳筋が多そうだ。そう思い関わらない事に決めたミクだった。脳筋の相手なんて疲れるだけだし。




