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0047・冒険者ギルドと特殊な依頼




 言い争いはそれほど経たずに治まった。肝心のミクとヴァルが聞く気無しと本体の空間に引っ込んだからだ。二人で罵倒し合ったもののバカバカしくなって止めたらしい。ミクもヴァルも戻ってきたので、話し合いは進む。



 「まあ、昇華草はこれで文句の無い品質だから後で報酬を用意しておくわ。それより、ロクド山脈の事をロディアスに報告しておいてくれる? 二人からの報告が無いと動きようがないだろうし」


 「確かにそうだろうな。まともな貴族どもを動かすにも情報は要る。冒険者ギルドに行って、さっさと報告を終わらせておこう。ミクしか知らない事もあるからな、一緒に行こうか」



 そう言ってローネはゼルダの顔を見る。その顔が優越感に浸った顔に見えたのか、またゼルダが怒りかけたが、それをスルーしてさっさと出て行くミクとヴァル。毒気を抜かれた二人は喧嘩を止め、行動を始めるのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 冒険者ギルドのギルドマスター執務室。そこで仕事をしているロディアスの下に客が現れた。独特なノックの仕方をするので誰か分かった彼は、誰何すいかもせずに許可を出す。


 中に入ってきたローネとミクにヴァルは、さっさとソファーに座ったり床に座って寛ぐ。受付嬢が紅茶を持って来てくれたので、お礼を言って口をつける二人。受付嬢が部屋を出ると、すぐに話を始めた。



 「ロキド山脈の手前、セベオ町に商国の諜報組織があったそうだ。これはミクが殲滅した。私達が泊まった宿もソイツらが経営していたようだ。今ごろ従業員が半分以上居なくなって困ってるだろうが」


 「そいつらは色々な愚痴を言ってたけど、王国の商会の幾つかを乗っ取ったり買収して、商国に都合の良い動きをさせてた。その片棒を担いでいたのがトレモロ子爵とオルドム男爵」


 「成る程、そういう繋がりだったのか。どうりでトレモロなんていう豚が急に関わってくる筈だよ。今まで冒険者というだけで見下してはいたものの、何もしてくる事は無かったのに急にだったからね」


 「まあ、分かりやすい豚だったのだろうな。その後ロキド山脈に行き、商国の奴等の秘密のルートは潰してきた。それなりに幅のある谷を二本のロープで繋いでいたので、そこをミクが使えなくしている」


 「簡単に言うと、近くにデスホーネットの巣が幾つもあったから、そこのデスホーネットの巡回ルートに谷を加えた形。だから通ろうとするとデスホーネットに襲われる」


 「………」



 ロディアスはゼルダと違いすぐに想像したのだろう、顔が引き攣っている。だが事実を飲み込んだのか、冷静な顔に戻すと二人から話を詳しく聞いていく。流石は中央ギルドのギルドマスターだと言えるだろう。


 二人から話を聞き、大凡おおよそ大丈夫だと思ったのか、別の話を始めるロディアス。それは試験の事と依頼の事だった。



 「実はね、それなりに試験を受けに来た者が居てさ。現在10人を越えたんだ。まあ、毎回受けては落ちる奴が居るんだけども。近日中には第二試験である<乱戦試験>が行えそうだよ。これが終われば楽になる」


 「<生存試験>に関しては、ついていく冒険者を選定すればいいだけだからな。後はちゃんと行って帰ってきたかを調べれば終わる。大体は遠い所に行って何かを取って来いか、ダンジョンに行って取って来いという試験だ」


 「それぐらいしか試験内容に出来ないっていう事情もあるんだけどね。試験を作る側は大変だよ。それと、ミクに抹殺依頼が来てるんだけど請ける? 依頼者はマルヴェント侯爵本人からだよ。報酬は金貨30枚」


 「……暗殺依頼としては妙だな。下っ端の暗殺か? 流石に貴族の暗殺には少なすぎるし、何を考えている?」


 「これが正式な報酬だよ、暗殺の場合のね。ただし、該当の貴族家から不正の証拠を見つけて持ち出せたら別。その場合は報酬が金貨100枚まで上がる。政敵は政治の場で潰したいって事さ」


 「そういう事か。ロディアス、お前僅かとはいえミクの能力の話をしたな? 場合によってはお前を消さねばならんのだが……そこのところを話せ」


 「は、はは……。いやー、怖い話は止めてほしいね。少なくともアンノウンに睨まれるなんて俺もゴメンさ。だから、不正の証拠などがあったら持ち出せるとしか伝えていない。何が出来るかと、どうやってかは別だからね」


 「………良かろう、首の皮一枚繋がったな。ミクの持つ能力が洩れていないならばいい。問題の発端がお前なら、私が首を狩りに行くか、それともミクに喰われるかのどちらかだぞ?」


 「どっちも遠慮するよ。そもそもどんな技術を持つか、どんな【スキル】を持つかは聞かれたって答えないさ。王都のギルドマスターとしても、それは必ず守らねばならないからね」


 「目的の奴を殺すかどうかも私自身で決めるって事? 喰えるなら請けるけど、証拠だけ取ってくるのはなぁ……」


 「まあ、どうするかは君が決めてくれ。ターゲットはスカボロー侯爵だ。貴族街で一番大きな屋敷に住んでるから簡単に分かるよ。屋敷も王城に近いからね。建国王の側近の家柄なのに、どうも他国がバックについてるみたいなんだ」


 「商国の事が明るみに出てきた時にコレか……? 随分タイミングが良い気がするな。上位貴族なんだ、当然色々な事は知っていただろう。明るみに出てきたから、広がる前に潰すという事か」


 「多分そうだろうね。今までなら建国からの家柄だ、迂闊には潰せないし慈悲を掛けてたんだろう。でも、明るみに出るとなると話は別だろうさ。事は貴族全体の信用にまで飛び火する。そんなもの無いけど、一応ね」


 「貴族だ。信用よりも体面だろう。流石に売国は体面が悪過ぎる。建国からの血筋だか何だか知らんが、裏切り者は地の果てまで追いかけて必ず殺さねばならん。でなければ秩序を保てんからな」



 ミクは依頼と標的の事を聞き、ロディアスと話す事も終わったのでギルドを出る。その際に敵意と悪意を向けてくる奴等が居たが、相変わらず無視する三人。


 ゼルダの屋敷に戻ると、昇華草の抽出作業を行っているらしく、調薬専用の部屋に行ったらしい。それを聞いたミクは寝室に案内してもらい、ベッドに寝て分体を停止させる。するとヴァルは大元へと戻った。


 手持ち無沙汰になったローネは、アイテムバッグの整理や武具の整備を行うのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 夕方になった頃、ミクは分体を起動させてベッドから起き上がる。すぐ横にヴァルが出てきたタイミングで二人に挨拶するローネ。


 三人が部屋を出て応接室に行くのと、ゼルダが調薬部屋を出るのは同時だったらしく、応接室の前でバッタリと出くわす。そこに夕食が出来たと声を掛けてくるメイド。時間ピッタリと言える三者であった。


 食堂で夕食を食べつつ、冒険者ギルドの話をする四人。なぜかヴァルの分の食事まで出されているが、流石に食べられるのを知っていて出さないのもおかしいので、ゼルダが料理人達に指示したらしい。


 ミクは感謝しつつ金額を聞くと、ゼルダは昇華草の件でチャラにしてほしい事を言ってきた。昇華草自体は二束三文にしかならないが、薬師がキチンと使うとランク5の毒消しの材料に化ける。


 今後の宿代や食費と合わせて相殺という形にしてほしいという事だった。別に問題無いので了承するミク。その事に対してジト目を向けるローネ。明らかにおかしい事は分かるが、薬師が使わないと意味が無いのも事実である。


 結局、口に出さずに溜息だけで済ませたようだ。どのみち宿代と食費で十分なミクが許しているのだから、ローネが口を出しても意味は無い。それも込めた溜息だった。


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