0469・2チームの到着
翌日。マスターロの所に見舞いに行くと、既に回復していたものの顔色が良くなかった。とはいえ、これは血を失った事によるものなので休んでいれば回復する。それ以外に問題は一切無いので2~3日養生するように言って家を出た。
今日も再び北に行くか、それとも北東に行くか迷っていると、東の空から降りてくる物を発見。宇宙船がどうやら来たようだ。ミク達は迎えに行く為、魔導二輪に乗ると東へと真っ直ぐ進んで行くのだった。
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宇宙船が野原に作られた発着場に着陸すると、中から<ワイルドドッグ>とルーダイトとエイリーダが降りてきた。丁度その時、道の先からミク達がやってきてゼルが声をかける。
「やっと到着したわね、待ってたわよ! 食料がもうギリギリでね、数日遅かったらヤバかったわ。助かったけど、思っていたよりは早かったわね?」
「姉さんが掲示板で話題に出すからさ。何処の国もそれぞれの傭兵から情報を得てるけど、姉さんというよりミクは注目の的だからね。あらゆる国が注目してるよ」
「うん。だからミク達の居る場所は各国が探してる。何といっても<宇宙一の剣豪>を見えない速度で切り殺した美女だし、注目されない方がおかしい」
「ま、カラマントの言う通りだ。久しぶりだな、まさかオレ達が開拓の手伝いをするなんて思わなかったぜ。暇潰しになるのと、ゼルさんがあげてくれた情報のおかげで来る事を決めたんだけどさ」
「そうだね。流石に辺境開拓なんて危険で儲からないから、当初は食料だけ渡して帰ろうと思ってたんだけど、何あの芋虫とウサギ。どう考えても儲けの元にしか思えないよ」
「うむ。強度の高い繊維と精力剤の替わりとなる肉。宇宙で初めての代物だ、高値で取り引きされるのは間違いない。今の間なら高値で売れるだろうから絶対に儲かる。先行者が一番儲かるのは世の常だ」
「私としては儲かるなら何でもいいわね。義手のメンテナンスにもお金がかかるし。それとウサギ肉かしら? やっぱり精力剤替わりになるって大きいわよ。今までなら毒蛇の肉とかしかなかった訳だし、あれはどちらかというと微量の毒で精力が一時的に強化されるだけ。そのうえ反動が大きいのよね」
「その反動を受けたのは私なのだがな? おかげで酷い目に遭ったし、回復するのに3日ほどかかったのだぞ。一生使い物にならなくなったらと思ったら気が気ではなかったのだ、あの時は」
「ゴメン、ゴメン。色々な人が試していたから問題ないと思ってたのよ。言い方は悪いけど人体実験はされていた訳だしね。まさかルーダイトがあそこまでダメージを受けるとは思ってなかったわ。後でリスクがあるという情報が出てきてビックリしたぐらいよ」
「とりあえず開拓村に行くけど、そっちは魔導二輪か魔導四輪はある? ないなら後ろに乗せるけど?」
「オレ達は魔導二輪を持ってる。一人一つずつ持ってるしアイテムバッグに入れてるから問題ねえ。そっちのお二人さんは大丈夫か? イェルハムラから逃げ出してきたって言ってたが……」
「残念ながら着の身着のまま出た所為で、アイテムバッグを買うので精一杯だったわ。それ以上は稼げばいいと思ってたから、移動用の物は持ってないわね」
「ならゼルの魔導四輪に乗せてもらうといいよ。座席が余りまくってるし」
そう言ってミク達は準備が整うまで待つ。<ワイルドドッグ>が魔導二輪を出して乗り、ルーダイトとエイリーダがゼルのバギーに乗りこむ。それを見たミクが出発の合図を出し、一行は西にある開拓村へと行く。
すぐに着くも辺鄙な場所なのは理解したらしい。とはいえ開拓とはこんなものだし、始まって三年程度なら仕方がないといえる。死なずに生き残っているだけで十分であろう。
一行はマスターロの所に行き挨拶した後、それぞれの建物へと案内する。まあ、ベッドがあるだけマシかとバルハーマが言ったが、それですらミク達が用意したと聞いて唖然とした。
「そこまで物が無いのかよ、これはマズったか? 最悪は飢え死にか、魔物に襲撃されての死も覚悟しなきゃいけねえかもしれねえ。食料は買ってきてあるし、なるべく大量に買ってきた。とはいえ外の魔物を狩れるかは分からねえし、危険な魔物が居たら……」
「??? ……お前達は知らないのか? 謎の美女と呼ばれる者はこの世で最強に近い事を。どんな生物だろうが、勝つ事はまず不可能だという事を」
「は? どういう事? ボク達が聞いた事がない秘密か何かがあるの?」
「ああ、そういえば<ワイルドドッグ>の面々には教えてなかったね。……こういう事だよ」
ミクは首から上を怪物の口に変える。その瞬間、<ワイルドドッグ>の面々は即座に魔法銃を抜いて撃ったが、ミクはその全てを喰い荒らした。その所為で不発となるが、五人はミクの豹変した姿を見て唖然としている。
「相変わらず怖ろしい姿だ。見るのは二度目だが、やはり勝てるとは思えん。魔法銃から放たれる魔法を貪り喰うのだからどうにもならん。勝てる者は神くらいとか言っていたが、我々の至れぬ領域の話でしかない」
その後ミクは首から上を戻し、ミクがどういう存在なのかを話して聞かせる。全てを聞いた今は、<ワイルドドッグ>の全員がガックリとしつつ椅子に座って項垂れていた。
どうやっても勝てない怪物がこの世に五体も居る。そんな話を聞かされて、いったいどうしろと言うのか。彼らの心境はそんなところであろうか?。
「ああ、マジでそんな気分だ。オレ達の命っつーのは薄氷の上にしかないってハッキリ分かったぜ。悪党に落ちると怪物に喰われるんだろ? ……そういや、クソッタレの連中が行方不明っつー話は昔からちょこちょこ聞くな?」
「うむ? ……そういえばそうだな。もしかしたら噂も事実で、何処かでアンノウンという者達に貪り喰われたのかもしれん。悪党ならば喰ってよいか……神が居るとして、言い分は分からんでもないな。この世には腐った者が多すぎる」
「ま、ボク達も散々見てきたからねー、腐った連中。確かにああいう奴等が圧倒的な何かに貪り喰われて死んだって聞いたら、「ざまぁ!」としか思わないしね。ボク達も品行方正には生きてないけど、それでも腐ってる訳じゃないし」
「まあねえ。アタシもそこまで腐った事は出来ないしね。ああいう事が出来る時点で、捻じ曲がったクソヤロウだとしか思わないよ」
「うん。とはいえ、まさかミクとヴァルとレイラが殆ど同一人物だとは思わなかった。厳密には違うし、今は違うとは聞いたけど……。まさかあの姿がミクの姿の一つだったなんて」
「今はヴァルの姿だし、一人立ちしたからもう使えないけどね。流石に同じ姿っていうのは良くないから、今度はこういう姿かな?」
そういってミクはかつて使ったモブの姿になった。中肉中背で黒い髪で目が隠れた人物。どこにも特徴が無く、極めて印象に残り辛いモブ顔である。あっさりと姿形が別人になったのを見た<ワイルドドッグ>の面々は、再び何とも言い辛い顔をした。
「確かにヴァルはイケメンだったけど、あれが愚かな女を貪り喰う為に作られた顔と声だったなんてねえ。何と言うかさぁー……男と女って変わんないんだって本当によく分かるよ」
『そうか? 多少は違うと思うが、メイリョーズがそう思うのなら多分そうなのだろう』
「「//////」」
「その格好なのに、あのヴァルの声がするというのも凄いわねえ。……私? ルーダイトも渋いイイ声をしているから、私としてはそこまで「グッ」とは来ないかな?」
下らない話をしてないで、そろそろ真面目な話をしては如何だろうか?。




