0467・翼竜? ワイバーン? プテラノドン?
翼竜と言うべきかワイバーンと言うべきか、それとも今まで通りプテラノドンと呼ぶべきかは悩むが、その姿形をした魔物が強襲してくる。ミクは一つも慌てていないし、そもそもレイラやゼルが負けるとは思っていない。
あの二人であれば傷付く事すら無いだろう。可能性があるのはロックとティムだが、少なくともティムが逃げるのは容易く、そのうえ大きくなれば食い荒らす事さえ簡単に出来る。なのでそもそもミクが心配する事など何も無い。
それでも走って戻りつつ、大太刀を担いで空中からの強襲に備える。大した事の無い魔物か、それとも優秀な魔物なのかは倒せば分かるだろう。使える皮なら自分達で回収し、要らない程度の脆い物なら村で使ってもらおう。
そう思いながら、レイラやゼルとは少し離れた所に陣取る。なかなか厄介ではあるが、それでも空中の敵に対する対処方法など幾らでもある。明らかに人間種では使えない方法は却下だが、それらを排しても幾らでもあるのが事実だ。
空中の魔物が頭を下げこちらに突っ込んで来る。手前の方から水平に移行して足で掴むのか、それとも何かしらのブレスでも吐くのか。どのみちレイラは長巻を構えているし、ゼルはジャベリンバズーカを構えている。
向こうに二匹行き、少し東側に外れているミクにも二匹来た。向こうに三匹行くと面倒な事になっていたが、こちらの方が数が少ないので狙い易いと思ったのだろう。所詮はそんな知能としか言えないが、何も知らない魔物にミク達の実力は分かる筈もない。
バケモノの方に行った二匹は哀れ、片方は飛び上がったミクに翼を切り落とされ墜落。もう片方は【魔縄鞭】の魔法で、ミクの所に到達する前に叩き落された。そして転がってちょうど近くまで来ている。肉塊がそれを見逃す筈も無く、首が根元から切り落とされた。
翼を根元から切り落とされた方も、痛みにのた打ち回る間にミクに首を落とされて終了。二匹とも死体が血を噴出している為、地面に撒き散らされている血の回収を行い、その後は死体から血を吸い取り【冷却】する。
死体の処理をしつつレイラ達の方はどうなったのかと確認すると、片方の魔物は首が落とされており、もう片方の魔物は胴体に穴が空いていた。
魔物と呼ぶのも困るのだが、アレの名前はどうするべきだろうか? 死体の処理も終わったので収納し、レイラ達の下へと歩いていく。
「お疲れ様ー。ところでコイツの名前どうしよう? 空の魔物とかプテラノドンとか翼竜とかワイバーンとか適当に呼んでるけど、コイツの名前ってそもそもあるの? 聞いた事ある?」
「ピー?」 「シュル?」
「二匹は聞いた事ないみたいね。ちなみに私も無いけど、この星の魔物って特有の魔物が多いからついてないんじゃない? プテラノドン? とかいう名前でいいと思うけど」
「流石にネオガイアと同じ名前はマズいんじゃないかな? いや、そんな事ないのか? ………面倒だからコイツはプテラノドンかプテラでいいや、いちいち考えてもしょうがないし。ついでに私は学者じゃない」
「まあ、名前なんて識別できれば良い訳だし、拘る必要も無いと思うわよ? それより予想より皮が硬くなかったと思うんだけど、飛ぶのには柔らかい皮の方が良いのかしら? 鞣してみないと分からないけど、使えそうな感じはしないわね」
「触ってみた感じだと巨大ミミズの皮の方が優秀かな。でもこの皮も悪くはないからマントとかだと需要があるかも。もしくはジャケットとかパンツ。私の場合はミミズの皮が余ってるから要らないね」
「とりあえず持って帰って肉を得るついでに剥いでから考えましょ。もしかしたら時間を置くと変わるかもしれないし。そうなると狩ってすぐに皮を剥がなきゃいけないけど、やってみないと分からないわ」
「だったら私が倒した分は本体に剥いでもらうよ。暇してるし、剥ぐくらい簡単に終わるからね」
そう言って死体を取り出したミクは、右腕を肉塊にして飲み込んだ。プテラの大きさは体長3メートル、翼を広げた姿は9メートル程となる。ちょっと横に長い感じはするが、魔力を感じたので魔法かそれに近しいスキルで飛んでいるのだろう。
肉は付いているが骨の内部が中空でスカスカらしく、本体空間に居る<従者たる骨盾>は気に入らないらしい。どうも骨密度が高い骨が好みならしく、適当にバリバリボリボリ食べている。相変わらず骨を食べるしか活躍が無い、可哀想な盾であった。
それはともかく解体して仕分けをした本体は分体に送ってくるので、アイテムバッグに仕舞ったら北へと進む。まだ朝であり昼にもなっていないのに、既にそれなりの肉を手に入れた。それにしても何故ここの恐竜は人間種を食べようとしないのだろうか?。
「そういえば変ね? 人間種なんて簡単に殺せるわ。肉は少ないかもしれないけど、飢えている連中なら狙ってもおかしくない。かつて空から強襲された事があるらしいから、絶対に襲われないって訳じゃないんでしょうけど……」
「何かしらの理由があると主は考えているのね? まあ無ければ殺されて全滅している可能性が高いから、確かに何かしら在りそうだけど……仮に何かあるとしたら何しら?」
「村人が採ってきている草とか果実? または人間種の臭いを好まないとか。あそこの連中ヤりまくってるし、あまり体を綺麗にしてないっぽいからね」
「まあ、確かにアレの臭いはそれなりにするわね。私は嗅ぎ慣れた臭いだけど、もしかしたら魔物は嫌がるかもしれないわ。最初は冗談かとも思ったけど、案外その可能性も無い訳じゃないと思うわよ? 人間種なら臭いで済むだろうけど……」
「魔物にとっては近付きたくない悪臭の可能性もある訳ね。村人が主に食べているのは栄養補助食品だし、あれには匂いなんて特に無いもの、食べ物の匂いという可能性は高くないと思う」
「魔物除けとか動物除けって臭いのする物っていうか、対象が嫌う臭いをさせるのが基本だからねえ。効かない相手にはこっちの位置を知らせる物にしかならないけど」
そんな不思議を解明する気分で雑談を続け、魔物が出たら降りて戦う。それを繰り返して進み、昼を食べたら周辺を探る。未だ草原が続いており、所々に小さな森が見える程度である。
景色を見ながら低速で進んできたが、特に気になる風景や光景は無かった。芋虫が小型恐竜を食べていたり、その芋虫が蜘蛛の魔物に食われていたり、その蜘蛛を食い荒らす巨大な亀が居た。
「そういえば大きな亀が居たけど、あれを倒さなかったのは何故? ミクなら一度は倒して確認しそうだけど……」
「いや、あんまり食べる部分なさそうだし、甲羅も別に硬そうじゃなかったし。それに亀の肉だから美味しいって限ってないから、今はいいかって思っただけ。足は遅そうだったから、獲るのはいつでも出来るからさ。無理して獲らなくてもねえ」
「ピー……」 「シュ……」
「あれね、魔物の基準が美味しいか美味しくないかなのね。気持ちは分かるし誰だって美味しい物を食べたいのは当然だけど、それで見逃されたというのもどうなのかしら?」
「それでも命が残ったのならいいんじゃない? 美味しそうであり食べた事が無かったら、高い確率で主に狩られるわよ? それよりはマシでしょう、たぶん」
「まあ、死ぬよりマシかしら……」
ミクが襲わなかっただけで、そこまで言うのもどうかと思うが……。色々言っていたが、実際にミクが襲わなかった理由は唯の気紛れである。




