0465・雨の日
ゼルが掲示板で呼びかけた次の日は生憎の雨であり、外に出られる天気ではなかった。今日は一日建物の中で過ごすしかないが、今の内にやっておかなければいけない事がある。それは2チームが来た際の泊まる場所だ。
この建物は<ワイルドドッグ>に渡せばいいとして、ミク達が泊まる建物とルーダイト達が泊まる建物が必要なのだ。その事を話しにマスターロ達の所へ行くと、余っている建物を整理する事になった。
実は他にも余っている建物は3つあったのだが、それらは倉庫としても使われているので掃除できていない。だからこそ何も入れてなかった建物を肉の貯蔵とミク達の建物として貸し出したのだそうだ。
ミクは町の入り口の建物を<ワイルドドッグ>の五人組に渡し、自分達はもっと狭いところで構わないと説明する。流石にそれは……とマスターロは渋ったものの、ミク達は気にしないので問題無い事を重ねて説明。納得させた。
「まあ、そこまで言われるなら仕方ありません。まずは家の中を片付けなければいけませんが……今日は生憎の雨ですし、困りましたね。雨の日は多くの場合する事もありませんので………」
「まあ、分かるわよ。どう考えてもヤってるって声が小さいながらも聞こえてくるし。少なくとも声が聞こえなくなる静音の魔道具ぐらい使いなさいよ、と言いたいところなんだけど、それすら無い?」
「お恥ずかしながら、数個はあるのですが……魔石が無くて使い物になりません。皆さんが狩ってきてくれた魔物の中にはありましたが、アレは私達が狩ったものではありませんので……」
「別に気にしなくてもいいのに。私なんてゴーレムコアすら持ってるし余ってるけど、碌に使い道無いから放ったままだよ。せっかくだから【魔力盾】の魔道具に使った方がいいかな?」
「主。それよりも片付けが先よ? 適当に建物の中の物をアイテムバッグに詰め込んで持って来ればいいんじゃない? そうすれば雨の中で動く必要も無いでしょう」
「いえ、しかし……」
「いいわよ。私達がやった方が早いでしょうし、纏めて持って来て選別すればいいわ。本当に必要か分からない物まで入ってるかもしれないし」
そう言ってミク達は物置にされている建物を聞いてから向かった。雨音に乗って悩ましい声や、艶かしい声が聞こえてくる所為で風情が台無しである。そんな妙な雨模様の中、建物へと入り中の物を手当たり次第に詰めていく三人。
ロックとティムはベッドで寝ているのでお留守番であり、今はここにいない。なかなかの量があるもののアイテムバッグに詰めてしまえばお終いである。二つの建物の中にある物をすべて詰め、マスターロの家に戻ると中からアレの声が聞こえてきた。
ミクはレイラとゼルと顔を見合わせた後、溜息を吐きつつ自分達に宛がわれている建物へと戻る。まさか何処も彼処もヤりまくりとは思わなかった。この開拓村はどうなってるんだと言いたいが、女性の方が乗り気だとこんなものであろうか?。
家へと戻ったミク達は起きていたロックやティムと遊びつつ、暇な時間を過ごしていく。ロックには走らせて体力を使わせ、ティムには素早く動く訓練。小さくともムシュフシュである以上、強い事は強い。とはいえ、小さいながらの俊敏性は活かされていない。
元々のムシュフシュ自体が大きいので、どうしても大きい姿での戦いをしがちなのだ。ミクは小さい時と大きい時でそれぞれ別の戦い方をするべきだと言い、ティムもミクの言に納得して練習している。小さい時には素早さを活かして戦わないと損だ。
そんな事を言いつつ、遊びながらの訓練を繰り返す。白熱した戦いも終わり、気配を調べるとマスターロ達も終わっていたようなので移動。建物をノックしてから入る。ミク達がジトッと見るのでマスターロも気付いたらしい。
「いや、申し訳ありません。私には選ぶ権利が無いものでして……」
「まあ、この開拓村には女性の方が多いからね、余程の事が無い限りは女性の意見が優先されるわよねえ。艶々で何よりだけど、ちょっと自重してほしかったわ。私達が帰った後なら好きなだけすればいいでしょうに。二人が我慢できなかった所為で無駄に待たされたわね」
「「//////」」
マスターロの下には二人の女性が居るが、一応恥の感情は残っているらしい。開拓村中がこんな感じなので、恥すらもう忘れたのではないかと思っていたゼル。酷い言い草だが全員が色ボケしていれば忘れる事もあるだろう。それが普通になってしまえば。
それはともかく、ミク達は2つの建物にあった物を出していき、マスターロと二人の女性が取捨選別をしていく。そんなに大量の物もなかったが、網とか石で作った槍などがあった。かつてコレで小型恐竜を倒そうと考えていた時期があったらしい。
「今思えば絶対に無理なのが分かるのですが、当時は男性も多く、一匹のところを狙えばいけるんじゃないかと考えていたのです。もう亡くなりましたが、鼻息の荒い者も二人居ましたので……」
「懐かしい。ほんの一年か二年前なのに昔の事のように感じる。根拠も無いのに主張して……当時はそれが頼もしいと思って抱かれていたけど、今思い出したら何も考えてなかっただけなのよね」
「私の方も同じよ。何の根拠も無く色々語る姿に頼もしさを感じたけど、今思い出すと滑稽でしかない。二人とも亡くなったけど、思い出しても悲しくならないのは本当に頼もしい人が分かったからよね?」
「ええ。本当に頼もしい人って地味なのよ。でも真っ直ぐに立って、皆を引っ張って……私達も助けてくれた。最初は手を出さなかったけど、真面目に真摯に助けてくれるんだもの……私達だって女なんだし、ねえ」
「何かあの頃の事を思い出すと駄目ね///。色々なモノが溢れてくる。ここは旦那様に鎮めてもらわないと///」
「そうね///、鎮めてもらいましょうか///。という事で申し訳ありませんが……」
「ええ。私達は建物というか家が使えるようになればいいだけだからね。火がついたなら好きなだけヤりなさいな。今日はどうせ雨みたいだし」
その言葉を最後にミク達はマスターロの家を出た。幸せそうで何よりではあるが、この開拓村の男性も大変だ。中にはマスターロ達のような関係ではなく、体だけの関係もあるだろう。それも含めてこの村の男性陣は大変だ。
ミク達は家へと戻り、布団類を作成していく。ダチョウの魔物の羽を詰め、ようやく敷布団が完成した。枕も完成させたので寝てみるが、十分な物だと言えるだろう。ゼルも問題なしと言っているくらいだ。
完成したベッド一式を収納し、余っている木で新しいベッドを作成していく。これは新しく来る面々の為の物であり、流石にベッドくらいは良い物でないと厳しいだろう。そう思って作成していく。
途中で木が尽きた為、ミクはムカデになって外へと出て行く。これはバレない為と、外が雨なので濡れても構わない姿で出入りする為だ。南の森に行き、村から見えない位置まで行ったら人型に変化。間伐する木を選別する。
何も持っておらず全裸だが気にする必要は無い。この状態でも圧倒的な強者の為、誰かに負けるという事はあり得ない。アンノウンはどんな姿でもアンノウンである。
間伐する木を根から全て引っこ抜きながら、肉を通して本体に転送する。本体は枝を落として木の皮を剥ぎ【錬金術】で乾燥させていく。ある程度の間伐を終えた時、ミクに対して襲いかかってくる者がいた。
ミクは素早く回避し、敵を正面に見据える。すると、そこには人の背丈以上の蜘蛛が居た。




