0460・ダチョウとウサギとクリティカル
ミク達が帰りに見つけた鳥はダチョウに似た鳥だった。非常に足が速そうかつ強靭そうであり、蹴られたら相当の威力が出そうな足をしている鳥だ。細い足ではなく非常に野太く、そして爪がエグい形状をしていたのは見えた。
あれも小型恐竜を食らうような魔物かもしれない。それぐらいの獰猛さは感じたので、明日は気合いを入れなければならないだろう。まあ、ミクにとっては楽勝の相手であろうし、肉塊は鳥肉と羽の事しか考えていない。
開拓村に戻ると村人は帰ってきており、早いものの我慢できない者達が肉を焼こうとしていた。別にそれはいいのだが、何故バツの悪そうな顔をするのだろうか?。
「いや、皆さんが獲ってきた肉ですし、我慢できなかったとはいえ先に食べるのはどうかと……」
「全部食べられれば思うところもあるだろうけど、そうじゃないなら好きにすればいいと思うよ? 早いかもしれないから何とも言えないだろうけど、一日は経ってるから大丈夫かな? 私達も食べていい?」
「もちろん! 早く焼いていきましょうよ、時間が掛かるんだし!!」
村の真ん中で火を熾し、焚き火にしていく。ミクも木から剥いだ皮を提供して燃やしつつ、木の杭に刺した大きな肉を回しながら焼いている。豪快な焼き方ではあるが、香辛料のような物はあるのでそれなりに美味しいだろう。
どうも森の中の植物には香辛料になる物なども多数あり、3年の月日でそれらは知っているとの事。味気ない栄養補助食品のような食事を少しでも美味しくしようとしたらしく、長き努力の結晶であり苦難の結果だそうだ。何回もお腹を壊したらしい。
そんな苦労話を聞きつつ焼いていくと随分と良い匂いがしてきた。この肉は小型恐竜の肉だが、どうやら肉質はなかなか良いらしい。これなら大きなサイのようであったヤツも期待できるだろう。
そんな事を考えつつ焼けた表面部分をナイフで削ぎながら食べていく。思っている以上に美味しいのだが、なかなかに噛み応えのある肉であった。硬いという程でもなかったし、筋張っている訳でも無い。
しかしながら噛むのにそれなりの力が要る。だが、噛めば噛むほどジワーっと肉の旨味が感じられ、あの小型恐竜が食われる理由もよく分かる肉であった。ミク達はその肉を美味しそうに食べ、村民は泣きながら食べている。……そこまで肉に飢えていたのか。
自分達では獲れないから諦めていたし、襲ってくる危険な魔物でもあった。傭兵も帰ってこなかったのなら尚更で、彼らにとっては恐怖の対象でもあったのだろう。それが美味い肉だったうえ、久しぶりの生を実感する食べ物である。
色々な意味で彼らにとっては忘れえぬ御馳走になったろう。ミク達は焼き終わり、食べ終わったらさっさと小屋に戻る。明日はあのダチョウ魔物を仕留めなければならないのだ。早く休んで明日に備える必要がある。
その名目でさっさと引っ込んだのだが、理由は村の連中の感謝が鬱陶しかったからだ。喜ぶのは良いのだが、酒も飲んでいないのに泣きながらエンドレスで感謝し続けてくる。そんな事を延々と続けられたら、最後には鬱陶しくなって当然であろう。
彼らも嬉しかったのは分かるが、しつこ過ぎである。延々と絡んでくる酔っ払いと変わるまい。さっさと小屋に引っ込んだミクは肉で転送し、本体空間で皆を休ませるのだった。
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明けて次の日。朝から軽食を食べたミク達は、村の人にダチョウの魔物を狩ってくる事を言って出発する。北東へと魔導二輪に乗って進んで行くが、なかなかダチョウに似た魔物は見つからない。昨日も夕方になって発見したのだ、日中は違う所に居る可能性もある。
そんな事を話しつつ北東に進んで行くと、小型恐竜の大型版と思しき魔物とダチョウの魔物の群れが争っていた。明らかに優勢なのはダチョウ側で、大型版恐竜は今にも負けそ……足を蹴り飛ばされた大型版恐竜は地面に倒れ、複数から蹴り飛ばされて死んだ。
その後は嘴を器用に使い、大型版恐竜の肉を貪っている。えらく喜んで貪っているが、別のヤツが遠くから接近してきてるぞ? ダチョウの魔物は近付いてきている魔物に気付いていないようだが……。
ゼルとロック以外には既に見えているが、ウサギの魔物が近付いている。それもかなりの早さだ。そして……。
「あー、凄い威力。流石は齧歯類の近縁、凄まじい威力の顎と歯だよ。あっと言う間に一羽が瀕死じゃん。胴体を裂かれたからか、アレは助からないね。このままだとウサギから逃げ出しそうだし、今の内に私達で倒そうか。あのウサギも喧嘩を売ってきたら殺そう」
そう言ってミクは魔導二輪を加速させ、一気にダチョウの群れに近付く。ウサギの魔物とダチョウの群れは睨み合っていたが、そこにミクが乱入した途端に乱戦となった。とはいえ、その乱戦に負ける肉塊ではない。
魔導二輪を降りて収納したら、大太刀を取り出して首を狙う。ダチョウの魔物はミクの方が弱いと思ったのか蹴ろうとしてきたが、そんな隙だらけの攻撃を受けるミクではない。通常のダチョウの5割増しほどの大きさだが動きは単純なので、首は簡単に落とせる。
レイラも長巻で首を落とし、ゼルは槍で両足を使えなくしていく。ティムは最大サイズになり、ダチョウの頭を噛み砕いて貪っている。流石は<原初のドラゴン>と呼ばれるムシュフシュである、ダチョウの魔物如きは敵にもならない。
ウサギの魔物はジッとこちらを見ていたが、隙を狙うように突如攻撃してきた。それは非常に高速な一撃であり、砲弾が飛んでくるかのような跳躍である。実際ウサギの身長は通常時で2メートル近くあるのだ。体を伸ばせば3メートルは超えるかもしれない。
その巨体が目にも留まらぬ速さで跳躍して噛み付きにくるのだ。普通の人間種ではあっと言う間に殺されるだろう、普通の人間種であれば。
ミクはあっさりとかわし、ウサギの魔物が着地した瞬間、首がズレて地面に落ちていく。
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※うさぎのまものは、くびをはねられた!※
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ダチョウの魔物も全部で10数羽いたが決着は着いており、現在はレイラが血抜きをしている。ミクもそれに加わりつつ、【冷却】と【超位清潔】を使って転送していく。
本体に羽根を毟ってもらい、ついでに解体も頼む。三羽ほどは村に持って帰るが、後は自分達で食べようという魂胆だ。どのみち本体空間に隠しておけば見つからないので、言い訳も必要ない。
ウサギの魔物も血抜きなどを終わらせ、どうするか悩んだが普通に持って帰る事にした。まだ昼にもなっていないが、目的の羽は手に入ったので敷布団を乗せる形でベッドに敷けばいいだろう。
他の村人は持ち込んだマットレスを使っているらしいが、ミク達はわざわざ用意をしていない。色々な物を用意する為、次の宇宙船でこの星を一旦離れた方がいいだろうか? だがそれをすると村人が五月蝿そうではある。
足りない物が多いもののどうするべきか? そこに頭を悩ませつつ村へと戻るミク達。午後からは北へと行ってみるかと思いつつ、小屋に入って出来た敷布団を転送する。
敷いてみて寝心地を確認するも、全員から問題なしとのお墨付を貰った。なのでアイテムバッグに収納し、サンドイッチと鳥の唐揚げを食べつつ話し合う。ロックはいつも通りだ。
「それにしても、これがあの鳥の唐揚げ……。美味しいんだけど凶悪な足を持ってるのよねえ。普通の魔法銃で勝てるなら人気が出そうな星だけど、普通の傭兵には強すぎる気がしないでもないわ。<ワイルドドッグ>でも呼ぼうかしら?」
「ねえ、ゼル。呼ぼうも何も近付いて来てるんじゃないの? 貴女、行き先を掲示板に流したでしょう。主は特に気にしてなかったけど。案外乗り気になってる可能性があるわよ? 今の内に言っておけば買ってきてくれるんじゃない?」
「……そうね。とりあえず一度掲示板に書き込んでみるわ」
何やら新しい連中が来そうではあるが、どんな連中が来るのだろうか?。




