0459・芋虫と糸
肉の解体は終わったので各々の家に帰っていった村民。村民と言っても13人なので限界集落かそれ以下でしかないが、それでもこの人達が開拓村の全員なのだ。明らかに人手が足りていないが、この人員で何とかするしかないだろう。
まあミク達が全力を揮えば何でも出来るだろうが、そこまでする気は無い三人。ここで少しの間ゆっくりしようと思っているからだ。村の入り口に一番近い家に入り、適当に寛ぐ三人と二匹。土が剥き出しだが気にする必要は無い。
木でベッドを作っても布を碌に持っていない為に体を痛めるだけだ。ならば【土崩】の魔法を使い土を崩して柔らかい地面にした方がマシだろう。どのみち汚れても【超位清潔】で綺麗になるし明日までだ。
そう言ってミクはゼルを肉で転送。こちらではロックとティムと遊んでやるのだった。
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次の日。ゼル達を起こして軽食を食べた一行は、南の森の方へと行く。開拓村の西から南は森であり、村の人達が野草や果物などを採りに行っている場所となる。この星がどうかは知らないが、少なくとも一年を通してこの辺りは温暖なのだそうだ。
冬というか気温の落ちる時季はあるものの、誤差の範囲と言える程度にしか落ちないらしい。四季っぽいのは全く無いそうで、森の植物も元気に成長するようである。それはともかく、昨日本体空間で作っておいた斧を取り出して二人に渡す。
伐採用の斧なのでそれなりには重いが、二人にとっては大した重さではない。そんな魔鉄製の伐採斧を持って森に入ったミク達は、間伐に適した木を伐り倒していく。もちろん伐った後はアイテムバッグに収納し、切り株は肉で根こそぎ転送する。
そうやって20本程度の木を伐採していると、虫の魔物が襲ってきた。直径40センチ、全長3メートルほどの巨大芋虫である。ここまで大きいと大型の魔物に食われそうな気がするが、何故こんなにも大きな虫がいるのだろうか?。
ミクがそんな事を考えていると、芋虫は大きな口から糸を吐きかけてきた。凄い速さで糸が飛んでくるものの、ミクは翳した右の掌から全て本体空間に転送していく。すると、効かないと思ったのか芋虫は糸を吐くのを止め、こちらに向かってジッと構えたままになった。
隙を探しているのか分からないが、このままでは埒があかない。仕方なくミクが近付こうとすると素早く糸を吐きかけてきたが、それは右の掌から本体空間に送る。どうもこの芋虫、大きすぎて小回りが効かないらしい。その所為で逃げるに逃げられないのだろう。
だから何とかミク達を追い返したいのだ。それに気付いたミクは素早く行動、芋虫に接近し頭部近くに手を置いて触手を突き刺す。脳というかそれっぽいところを見つけ、そこに命令を出す事で動きを止めた。
「レイラ。こいつの口の前で手を翳してくれる? この糸が欲しいのよ。死なない程度に糸を採ったら解放するから、それまでお願いね」
「分かったわ。それにしても強靭そうな糸だったし、案外優秀な素材かもしれないわね?」
「そうね。もしかしたら、この星の特産は糸になるかも。ただ、今のところミクとレイラが居ないと採れないでしょうけどね。普通なら粘着糸で絡めとられるわよ」
「粘着成分は確かにあるけど、本体空間なら簡単に分離できるから問題ないね。……となると蜘蛛の魔物の方が良い糸を出すのかも。見つけたら蜘蛛の魔物の糸も採取してみようか」
「ピー……」 「シュル……」
二匹が同情するような視線を芋虫に向けているが、ミクが止める事も見逃す事も無い。手に入れられる物がある以上、キッチリ手に入れておく。何よりここでは布など手に入らないのだ。この機会になるべく糸を手に入れておかねばなるまい。
そんな意気込みとは裏腹に、触手で命じられた芋虫はどんどん糸を吐いていく。どんどん糸を吐いていき、やがてグッタリし始めたら止めて解放する。大きな芋虫である為、それなりに糸が取れて喜ぶミク。それとは対照的にグッタリして動かない芋虫。
凄い対比だが、十分な糸が採れたのでそっと離れたミクは、先ほどの気配と同じものを探すのであった。それから4匹の芋虫を見つけ、それらからも糸を得たミクは上々の気分で開拓村に戻る。
今日も誰もいないようだが、一旦小屋に戻って作業しようと思い中に入る。ついでに本体が作った軽食を食べつつ、木材を取り出して作業を始めた。2メートルの木材にして収納したが、まずは皮を剥ぐの先だろう。
肉で包み皮だけ転送したら綺麗な丸太になった。意味不明な皮の剥ぎ方だがゼルは気にしていない、大分ミク達に慣れたようである。そんな丸太を量産している横で、レイラがミクの鉈を使い真っ直ぐな木材や板などに切っていく。
それが終わったら本体から転送されてきた木工道具を使い、ゼルが少しずつ加工していく。穴を空けて組み合わせたりだ。図面は無いものの、簡単な物ならMASCを使えば情報は幾らでも転がっている。
30分もしないうちにベッドが一つ完成。とはいえ寝具がまだ完成していない。布は現在本体が作成しているから良いとして、中に詰めるクッション性の物をどうするか……。この星には鳥が居るのだろうか? 居れば羽根が使えるのだが……。
悩んでいても始まらないので、四人分のベッドが完成した段階で小屋を出た。ミク達は森に行かず、今度は北東に行ってみる事にする。東に宇宙船の発着場があるので微妙に分かるのだが、それでも見た事の無い魔物が居るかもしれない。
そんな期待をしつつ歩いて向かっていると、再び小型恐竜みたいな奴等を発見した。それなりに数が多いという事は、連中はこの星では下位の存在だという事になる。基本的に数が多い生物は上位存在に食われるので数が多いのだ。
それは当たり前の事ではあるのだが、では連中を食う上位存在は……? そう考えていた時、空中から巨大なプテラノドンのようなヤツが襲いかかり、足で掴んで持って行ってしまった。
小型恐竜は「ギャー!ギャー!」と言い、蜘蛛の子を散らすように逃亡していく。成る程、空中から強襲してくるらしい。それだけとは限らないが、ああいった大型生物に食われているんだろう。
そうミク達が納得した矢先、「ギャー!ギャー!」喚いている小型恐竜が糸に囚われていた。どうやら芋虫の糸にやられたらしく、芋虫は口から溶解液の様な物を出して掛けていく。すると「ジュージュー」と音をさせながら小型恐竜が溶けていき、ある程度の状態で飲み込み始めた。
……ここは小型恐竜を芋虫が食べる惑星らしい。納得はし辛いが弱肉強食と考えれば当然の事であろうか? それにしても小型恐竜の食われ方がアレ過ぎて、何とも言えなくなっているゼルであった。
「まあ、アレ見ててもしょうがないし進もうか? クッション性のある物を探しに来たんであって、芋虫の捕食活動を見に来た訳じゃないからさ」
ミクの一言で再び歩きだした一同。なかなかに侮れない魔物も居るようなので気を引き締めるのだった。妙な事をしてくる魔物も居るかもしれず、罠に掛かるとゼルや二匹に危険が及ぶかもしれない。
ミクとレイラには問題なくとも、危険なガスが出ている場所も無いとは限らないのだ。緊張感を持って探索していく一行はそのまま北東を進むものの、結局クッション性のある物は発見出来なかった。
夕方近くになったので、魔導二輪に乗って開拓村へと戻る。その途中で走る鳥を見かけたミクは、明日アイツを狩ろうと決めるのであった。




