0458・開拓村での生活とは?
ミク達はとりあえず狩りに行ってくると言ったのだが、何度も何度も気をつけるようにと言われた。よっぽど傭兵が帰ってこなかった事がトラウマになっているのだろう。本当に何度も引きとめられた。とはいえ、魔物を狩るのが傭兵の仕事であり、今回の依頼でもある。
更には大型の魔物の肉を食べてみたいのだ。そんなミクが狩りに出ない筈がない。なので仕事をしてくると言い、まずは村の北に行く事にした。魔導二輪は使わず歩いて行き、ティムの背にロックを乗せる。そのロックは楽しそうに周りをキョロキョロしている。
「ピ! ピ! ピーピ♪」
「何だか楽しそうで機嫌が良いわね。今まで居たタウン惑星とは違って、自然がいっぱいと言うか自然だらけだからかしら? それとも見た事が無い景色だか……何か妙なのが早速来たわよ」
ドスドスと音を響かせながら現れたのは、二足歩行の小さな恐竜みたいな生き物だった。背の高さは2メートル程で小さい前足が二本、大地を踏みしめている大きな後ろ足が二本の、トカゲ系生き物だ。
ただしティムと同じく牙が大量に生えており、明らかな肉食であると分かる。こちらに来るやいなや、猛烈な速度で噛み付いてきたが、至極あっさりと頭部をメイスで潰された。しかしながら、この大きさが普通だとすると大型の魔物はもっと大きいとなる。
今使っている武器では大きさが足りないのは明白だ。ミクはヴァルに渡していた長巻を取り出してレイラに渡し、自分は暇な時に作っておいた大太刀を取り出す。刀身1メートル60センチ、柄が40センチの大太刀だ。
それを見てビックリするゼルと騒ぐロック。どうやら長い物を見て驚き、興奮しているだけらしい。ゼルは無理に物理的な武器を使わず、ジャベリンバズーカかバレットバズーカを使うように言っておいた。そちらの方が安全だ。
頭部を粉砕した魔物の血を指先から吸い取っていくミク。【冷却】の魔法を使って冷やしたら、最後に【超位清潔】を使ってから仕舞う。これで食べても安心安全な肉になった。そう思って先へと進もうとすると、ゼルが呆れていた。
「普通は狩った魔物に【超位清潔】なんて使わないわよ。【上位清潔】でも十分過ぎるっていうのに……。まあアーク系の魔法がポンポン使えるミクなら当然なのかもしれないけどね」
そう言いつつも、バズーカ片手に周囲を警戒するゼル。ミクとレイラも警戒しており、ティムは四肢に力を入れて周囲を見回す。すると警戒していた北東から大型の魔物が現れた。
それは大きなサイのような魔物であり、体高だけで3メートルは超えていて、そして顔が爬虫類系だった。明らかに恐竜系の一種であろう。更には口元が真っ赤に染まっており、先ほどまで何かを食っていた事が分かる。
「GYUAAAA!!!」
そう鳴くと共に一気に突進してきたが、一瞬で側面に回ったミクに首を斬られて血を噴出。そのままヨロヨロとした後、倒れて動かなくなる。おそらくは一気に血を噴出した事によって失神したのだろう。ミクは近付いて右腕を肉塊に変えると、飛び散った血を全て吸い取っていく。
ある程度噴出が治まると傷口に手を突っ込み、更に血を吸い取る。肉に適度な水分として残る程度まで血を吸い取ったら、再び【冷却】と【超位清潔】を使ってから収納した。それにしても本当に大きな魔物である。
「ここまで大きいのが当たり前に居るとなると、本当に開拓出来るのか疑問を感じるわね? それでも生き残ってるんだから、開拓自体は可能だと思うけど……」
「でも、開拓するのと生き残るのは同じじゃないわよ? どこまで大きいのが居るのかは別にして、さっきの魔物でさえ開拓村の連中は勝てそうにないのよねえ。食料の供給がなければ全滅してない?」
「そんな気はするね。惑星開拓の始まりはそんなものと言われたら返す言葉が無いけど……。資料とか読めば分かるけど、現実に開拓なんてした事ないから細かい事とかは分からないんだよね」
「まあ、私もそうだし大体の人は知らないと思うけど……それよりも、狩れるだけ狩って帰りましょう。肉も熟成させないと食べられないし、解体もしなきゃ」
夕方前の時間なので、そこまで狩る事はできなかったが、肉としては十分だろう。そう思い、ミク達は開拓村へと戻る。周囲に気配も無いので、そこまで開拓村の周囲には魔物が多くないのかもしれない。
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村へと戻ると十数人の村人が戻ってきていた。どうやら近くの森などから採れる物などを採ってきているようだ。大型の魔物は大型故に森には入ってこれないらしい。開拓村も外側には堀を掘ってあるので、ある程度の魔物の侵入は排除できるそうだ。
ただジャンプ力の高い魔物は越えてくるらしく、それらを排除しようとすると橋を架けないといけなくなる。流石にそれは出来ないので、堀は今以上に拡張するのは無理だと説明を受けた。それでも幅は5メートルくらいはあるし、こちら側には柵もあって防げる筈だが……。
それでも越えてくるジャンプ力の高い魔物が居るらしいので驚く。それと空を飛ぶ連中は根本的に防げないらしい。だからこそ地下室を作って避難するのであり、地上の建物はある意味で壊されるのが前提な部分もある。
それでも死ぬよりマシだと笑っている村人。実際、ここに来て亡くなった者も当然おり、その所為でバランスが悪くなったそうだ。男4の女9ではバランスが悪いのも仕方ない。そのうえ厳しい状況だ。ストレスから逃れる一番の娯楽は、こんな場所では”アレ”しかない。
おかげで男性陣は毎日大変ならしく、女性陣はミク達を牽制している。切羽詰まっているのか、こういう状況だからこそなのかは分からないが、ミク達はその輪に入る気など無い。
「そもそも私達は三人でシているから、そちらに関わる気は無いわよ? 正直に言って何処かの建物を貸してくれればそれで良いんだけど……どこか無い? 少なくとも男性1に対して女性2でしょ。だったらいつも使ってるのは4つか5つの建物よね?」
「そう……ですね、まあ。囮として建てているだけの建物が2つ外側にありますので、どちらかを使って下さい。そこには地下室も無いので、最悪は脱出して逃げる必要がありますが……」
「空から襲ってくるデカイ奴は本当に危ないんです。過去に一度魔法銃で傷をつけた事があるんですが、その時に大暴れされて……その所為で七人も亡くなりました。そこで一気に男手を失ってしまいまして、その結果どうする事もできなくなり」
「補充人員は来ないの? それとも人気無い?」
「人気は元々ありません。やはり外周ギリギリの惑星なんて、田舎中の田舎ですから。そのうえ大型の魔物が出る事も知られてますし。MASCも何度目かの襲撃で壊れてしまい……今では一つしか残っていません」
「あらら……まあ、それなら待つしかないか。話を変えるけど、今の内に捌きたいんで手伝ってくれない? 肉を分けるから」
「は?」
そう言うと、ミクはアイテムバッグの中から魔物の死体を出す。これから解体し、一日置いて明後日食べる事になる。ミク達が寝泊りするのは村の入り口の建物に決めたので、その反対側、一番奥の建物に肉を貯蔵する事になった。
ミクはアイテムバッグの中から取り出すフリをして、大量の鉄で出来たフックを取り出す。保存してある丸太を愛用の鉈で加工し、Y字の棒と真っ直ぐの棒を作ったら、建物内の地面に刺してその上に乗せる。
洗濯物を干す物干しのような物を作ったら、村の女性陣が必死になって解体してくれた肉をフックに引っ掛けて紐で吊るしていく。あまり沢山は吊るせないので再び物干しを作り、またそこに吊るしていく。
皆、頑張ってくれているが笑顔だ。どうも肉を食べるのは数年ぶりらしく、この星に来てからは全く無いらしい。食料の輸送も殆どが栄養補助食品のような例のアレらしく、まともな食料は森で手に入れた野草とか果物だけのようだ。
よく今まで生きてこれたと関心するミク達だった。とはいえ、だからこそ現実逃避としてヤりまくっているのだろうか?。




