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0453・クーエルの挑戦の終わりと伯爵令嬢




 「それでは第四回戦、つまり準決勝の第一試合を始めます。まずはここまで運で上がってきたクーエル選手! そっちはどうでもいいので本命はこちら! 昨年のチャンピオン、セスドリアム選手ーーーッ!!!」



 うわぁ、凄いなー。四方八方から「わーわー」「キャーキャー」言われてるよ。大変だなぁチャンピオンって。僕なら一回で十分だよ。絶対に二度目や三度目なんて出ようと思わない。だって対策されて簡単には勝てなくなるんだし、それでも勝ち続ける才能なんて絶対に無い。


 前回チャンピオンと僕が前に出て頭を下げて挨拶するんだけど……。



 「運だけで勝ち上がるなんて君も随分恵まれてるね。ここまで来れたのは強運と言っていいけど、もう十分だから。……さっさと潰して、病院送りにしてやるよ」



 握手しながら言ってくるのが、コレだ。強い人って性格悪くないと駄目なのかな? 幾らなんでも強い人が全員性格が悪いとは思えないんだけど……でも、ミクさん達も性格が良い訳じゃ無かったし、強い人ってそういうものなんだろう。多分。



 「それでは皆さん、モブが無様にやられる姿を見ましょう! 準決勝……始め!!!」



 相手はいきなり突っ込んできて突きを放ってくるけど速い! やっぱり予選では手加減してたんだな。それでもあの人達よりは圧倒的に遅いけど。流石にこの速度じゃ防げないなんて事は無い。ただ、攻撃に転じる事も出来ないんだけど。


 僕を運だけで勝ち上がったザコだと思ってるからか、攻撃の仕方が素直と言うか真っ直ぐだ。これなら反撃は……こうだ!!。


 相手の突きを避けながら槍の柄を縦に持つ。相手は素早く薙いできたけど、それを受け止めつつ少し斜めにし、相手に近付いて押し倒す。流石に舐めている相手がこんな事をしてくるとは思わなかったんだろう。相手は押されるがままに後ろに倒れる。


 僕はすぐに相手の胸を突き、そしてバックステップで下がった。これで勝ちには……ならないよなぁ、他の所を突いた方が良かったかな? 何か本気にさせた気がする。



 「チッ! 運だけで上がってきたザコじゃなかったのか。まあいい、それならそれで観客に分かりやすく仕留めてやるだけだ。さっさと沈め、【2段突き】!!」


 「あーっと、セスドリアム選手お得意のスキルだーーー!! これでモブも散、えぇーーーーっ!?!!?!」



 残念ながら前回チャンピオンが【2段突き】を使うのは知ってるんだよ。当然ミクさん達が弱点を教えてくれてる。【2段突き】というスキルは、使い熟すと隙が少なく使い勝手の良いスキルになるらしい。


 ただし明確な穴が一つあり、それは手打ちになるという事。このスキルは速さが特徴である代わりに威力がそこまで乗らない。体重も力も乗せて二連続で突くのは別のスキルであって、このような初歩を抜け出した程度のスキルじゃないそうだ。


 なので、前に出ると同時に相手を右手で掴んで引き倒し、その頭を槍で突く。これで文句なく僕の勝ちだ。どれだけ前回チャンピオンが贔屓にされても、ここまで明確な勝ちは無い。



 「ま、まさかまさかまさかーーーっ!! モブが勝ってしまう何て事があっていいのでしょうか!? まさかの逆転劇が起きてしまいました!! あっ、前回チャンピオン! 納得できないのか挨拶を拒否して帰ってしまいました! アレは駄目ですねー、礼儀が無いのはいけません!」



 会場中から「お前が言うな」って言われてるけど? あのアナウンスの人は<鋼の心臓>でも持ってるのかな? まあ、僕は無難に挨拶して戻るけどね。それにしても舐めていてくれて良かったよ。本気だったら身体強化を使わなきゃいけないところだった。


 改めて優勝なんて一度でいいとしか思わない。こんな事を毎年やるなんて正気の沙汰じゃないよ。今年一回で十分だ。来年は父の元で働く事になってるし、本当に今年だけで良かった。というか、今までの弱さが目くらましになってるんだろうか? やたらにザコ扱いされるのは。


 それよりも5分後には決勝戦だ。それまでには集中力を高めておかないと……。相手がどうやって勝ったとかは知らないけど、僕は僕のできる事をするだけだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「さて泣いても笑ってもこれが最後! 槍部門、20歳以下の決勝戦の始まりです! まずは向かって左より、運だけでないっぽいモブことクーエル選手ーー!! ここまで何となくで勝ち上がっていますが、この決勝も何となくで勝ってしまうのかーーー!!」



 どうやって何となく勝てるのか教えてほしいと思うよ。武術の戦いにおいて何となくの勝利ってあるの? 聞いた事が無いんだけど……。



 「次は向かって右側。ここまで圧倒的なものも無く勝ち上がってきた、こちらも意味不明な女性、テーセアルヌ選手ーー! 今手元に来た資料によりますと、実はあのオールヴァント伯爵家の御令嬢です! 今さらながらにヤバイと気付いたぞーー!!」



 えぇっ!? オールヴァント伯爵家の御令嬢!? ……ああ、終わりだな。流石に伯爵家の御令嬢に勝つのはヤバい、ウチなんてあっと言う間に首を切られる。大人しくさっさと負けよう。アレだ、ズルズル下がって落とされればいい。流石にコレは駄目だ。


 一応中央まで行って挨拶するも、絶対に目を合わせてはいけない。とにかく下級貴族にとっては目上の方は絶対なんだ。もう優勝とかどうでもいい、父も母も妹も分かってくれる筈。伯爵家なんて高位の家の人がそもそも決勝まで来ないでほしい。



 「一言だけ言っておく、絶対に手加減するなよ。私を倒す気でこい」


 「無理に決まっているでしょう、ウチは男爵家ですよ。貴女が良くても私の家が後ろ指を指されるのです。申し訳ありませんが、お断りいたします」



 僕はそう言ってさっさと下がった。伯爵家が仮に許したとしても、周りの貴族が許す訳が無い。弱小の男爵家なんて簡単に吹き飛ぶんだ、無茶振りされても無理なものは無理に決まってる。彼女だって伯爵家の者なんだ、知らない筈もないだろうに!。



 「では、槍部門20歳以下の部、決勝戦を始めます! それでは……始め!!」



 僕はいつも通り槍を握り、ゆっくりと後ろに下がる。外に出れば負けが決まるのだからさっさと出た方がいい。あからさまにやると、それはそれで「愚弄しているのか」と言われるので加減が難しい。何故か決勝戦でおかしな戦いになってるが、とにかくどう負けるかを考えないと。


 負け方なんて考えた事なかった、どうしよう? とにかく攻めてきてほしいんだけど、何故か向こうは攻めてこない。勘弁してくれよ、伯爵家の方なんだからさっさと下位貴族なぞ叩き潰せばいいだろうに!。


 そう思っていたら、真っ直ぐ歩いてきた。そうそう……って、ちょっと待て。何で僕を追い越すように歩いてくるんだよ! おかげでバックステップで後退する羽目になってるじゃないか。何でこんな訳の分からない試合になってるんだよ、おまけに滅茶苦茶怒ってるし!。


 くそぅ、こうなったら槍を持って相手を突くフリ。よし、相手は止まった。僕の後ろは場外……にはちょっと遠いけど何とかなる筈。伯爵家の御令嬢はどうやら僕がやる気になったと勘違いしてくれたらしい。なる訳ないだろ、バカなのか!? 誰が首を落とされるような事をするんだよ。


 よし、向こうが突いてきた。これを防いで……捌いて……タイミングを計って………今だ!!!。



 「おおーーっと!! 伯爵令嬢であるテーセアルヌ選手の鋭い突きが決まったーーーっ!! モブ君は吹っ飛んで場外まで飛びましたけど大丈夫でしょうかーー? ま、生きていれば何でもいいですね。槍部門20歳以下の部、優勝はテーセアルヌ選手に決まりましたーーっ!! やはりモブは所詮モブでしかなかったですね! もっと早く落ちていればいいものを」



 毎度思うんだけど、このアナウンスはどうなんだろう? ま、いいや、準優勝でも十分過ぎる。家族も必ず理解してくれる筈だし、高位貴族に睨まれるなんて御免被る。まだ20歳なのに死にたくない。


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