0446・愚か者達の消える夜
食事を楽しんだ後ホテルへと行き、部屋をとって休む。ロックとティムは何やら「ピーピー」「シュルシュル」と言って会話しているようだ。実際には意志の疎通は出来ているだろうが、会話は出来ていないだろう。
それはともかく、そんな二匹を見てほっこりしつつも先ほどの事を話すゼル。
「ミク、さっきのはギリギリよ? 本来なら魔法銃を抜いた時点で向こうが捕縛されるんだけどね、タウン惑星ってああいう連中が権力と絡んでたりするから面倒なのよ。まあ、ミクの場合はそれらも含めて全て食べそうだけど」
「当然、食べるよ。あの思念体のアンノウンにも言ったけど、私は神どもから喰う事を認められているからね。あいつらはどうせ裏で良からぬ事をしている連中だろうから、こっちに手を出してきたら当然食べるに決まってる」
「まあ、当然よねえ。勘違いしたバカが調子に乗っているだけなんだから、さっさと喰って終わらせてやるべきよ。ああいうチンピラっていうのは強い相手には手を出さないものだけど、中途半端に権力と結びつくと調子に乗るのよねえ」
「ああ、最初から食べたかったのね。なら好きにして頂戴。ミクとレイラが負ける事はあり得ないし、最悪は私と二匹も本体空間に連れてってくれていいから。そうすれば二人は好き放題喰い荒らせるでしょ?」
「その分、部屋に入ってこられると言い訳できないけどね。防犯カメラがあるといちいち面倒臭いんだよね。映ってるとか映ってないとか。まあ、その辺りは何とかすればいいか。どうも非常階段の方は映してないみたいだし」
そういった部分まで確認しているのもどうかと思うが、こういう時には役に立つ情報である。そもそもミクとレイラは窓から出て行くので関係無いのだが……。
いつも通りに二匹が寝た後でゼルを寝かせ、分体を停止していると何者かが非常階段から侵入してきた。愚かな者もいるものだが、十中八九あの組織の連中だろう。チンピラだからこそ舐められたら負けであり、チンピラだからこそ相手の事を理解しない。
裏の組織など大きくなろうが名を轟かせようが、どこまでいってもチンピラでしかない。何かの魔道具で鍵を無理矢理開けて侵入してきた連中は、あっと言う間に触手で麻痺させられた。直接注入されればどうにもならないのは当然だ。
脳を操って尋問したものの、依頼者の仲介者しか知らなかった。徹底しているとは思うが、仲介者が居る以上は無駄である。脳を喰って転送したら、ミクはゼルと二匹と荷物を本体空間へ転送し、レイラと共にムカデとなって窓枠に穴を開けて外に出た。
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繁華街のとある一角、深夜まで屋台が出たりしている場所に仲介者の店はあった。何でも屋と書いてある建物に侵入し、仲介者の寝ている部屋を強襲。頭に着地したら触手を突き刺して脳を操る。
この仲介者も仲介者から話を持ってこられただけらしく、その仲介者は占い師らしい。こんな時代にも占いというのはあるようだ。仲介者の脳を喰って転送したら、今度は占い師の下へ。
同じ繁華街の別の一角、占いや大道芸の者が多いエリアに行き、そこの一番大きな店に侵入。中で寝ているババアの脳を操り話を聞くと、どうやら両方の組織から依頼があったようだ。なので一番のプロに依頼させたらしい。………アレで?。
ミクとレイラは大した事の無さに呆れつつも、ババアの脳を喰って転送する。それなりに持っていたので頂いていきつつ怪しげな薬なども回収した。毒物や薬など様々あったが、麻薬関係が非常に多かった。
どうやら占い部屋で香を焚きながら、こういう薬も使っていたらしい。何よりババアの脳がそれ系で汚染されていた。なので自分でも使っていたのだろう。治安が良いというタウン惑星でもコレである。
両方の組織の事は聞いたので、ミクとレイラで手分けして転送していく。下っ端から順番に話を聞きながら喰い荒らしていき、組織全体の者を喰っていく。もちろん限度はあるし、働いているだけのホテルの従業員を食ったりはしない。
あくまでも犯罪者に限定しているので、犯罪に関わっていない者は組織の者でもスルーしている。幹部連中も喰い荒らして、残るはトップだった奴だけである。貴族街の近くに大きな屋敷を構えており、男爵家の屋敷に行くのに通る道なので簡単に分かった。
その屋敷に侵入すると、屋敷のそれなりの場所に護衛らしき連中が不寝番として起きている。ミク対策か、それともコレが日常なのかは知らないが、まずは麻痺させて転送する。話は本体で聞けばいいだけだ。
見つからない事を最優先にし、色々と移動しつつ喰らっていくと、女二人が多人数の護衛にヤられていた。その部屋に入って確認したが、どうやらヤられているというよりは薬を使って楽しんでいるらしい。
さっさと部屋の中の全員を麻痺させて話を聞くと、女二人は組織のトップの妻と娘のようで、薬を打っては楽しんでいるそうだ。揃いも揃って犯罪者なので遠慮する必要もなく喰らい、さっさと本体に転送した。
残りは組織のトップだけなので寝室に侵入し、脳を操って話を聞く。警戒用の魔道具は複数設置してあったが、そもそも【魔力探知】で分かるうえ、ミクは天井に穴を開けて侵入している。なので警戒用の魔道具が反応する事は無い。
話を聞いて分かった事は、元々争っていた原因は結びついている貴族が原因であった。その諍いに巻き込まれる形で勢力を伸ばそうとしたようだ。
ミクに暗殺者を嗾けたのは、舐められたら負けではなく恐怖からだった。つまり、殺される前に殺せという理由だったのだ。ミクは聞いた瞬間呆れたが、人間種などそんなものかとも思う。
手を出さなければ殺されなかったのに、恐怖から余計な行動をしてしまい破滅する。実に人間種らしい行動とも言えるし、何千年経っても変わらない事はあるのだなと思う。古い時代から延々と同じ事を繰り返すバカ。それが人間種だ。
自分は賢いと思っている者も、古くから続くバカの一人でしかない。その事を理解出来ないのが人間種と理解すれば、永遠に肉を貪れる事も理解できる。愚かな人間種も許容できそうな気分になるミクであった。
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裏側に居た貴族の事も聞き、現在はその貴族を喰らっている最中である。貴族政治によくある派閥の争いだったので、現在加担した派閥の当主全てを喰っている。対立している派閥に対する攻撃としてホテル街の組織を利用したのだから、全て同じ穴の狢だ。
よってミクが手加減する事も容赦する事も無い。武術大会まで日数もあるので、今の内に当主を交代してもらおう。ちなみにクーエルの家は両方の組織に関わっていない。良く言えば派閥に関わらない、悪く言えば弱小の家でしかなかった。
それなりの当主が居なくなるので、どっちつかずの日和見も多少は良く見えるようになるかもしれない。この惑星としては4分の1が入れ替わるので多少の混乱はあるかもしれないが、帝国全体の貴族からすれば微々たる数だ。そこまで長く混乱しないだろう。
そんな事を考えながらホテルの部屋へと戻り、ゼルや二匹に荷物を転送する。特に誰かが入ってきた形跡も、扉に挟んでおいた紙も落ちていない。実は窓からムカデになって出る前、扉が開いたら落ちるように紙を挟んでおいたのだ。
古典的な方法だが、誰かが入ってきたら分かるようにしてあった。その紙も残っているので大丈夫だ。流石にミク達と同じ様に窓から出たとは考え辛い。窓枠の穴しか空いておらず、窓の鍵は閉まったままなのだし。
全てを確認し終えたミクとレイラは椅子に座り、MASCを使って情報収集をする。もう、朝まで何時間も残っていない。なので適当なニュースでも読む事にした二人。
会話も無く、手元をジッと見て指を動かしているその姿は、やはり何処かの惑星でよく見る光景であった。




