0444・クーエルの修行02
「さっきも言ったけど、私やミクが持つ母乳スキルで出せる母乳は非常に栄養が豊富なの。体を作る意味でも栄養は必要だけど、栄養のみの食事はあまり良くないのよ、何と言っても吸収効率が悪くてね。だから私の母乳となったのよ」
「赤ん坊が飲む物だからね、当然というか吸収効率は非常に高いの、母乳は。先ほどコップ一杯飲ませたけど、それだけで摂取し辛い栄養も充分摂取できるから。余程の事が無い限りは毎日飲ませるから慣れなさい、これもクーエルを強くする為だからさ」
「そうよ。それと、主やゼルが母乳スキルを持つのは黙っておいて頂戴ね。本来は子供に与えて魔力や闘気を増やす為のものだから。まあ、それでも限度があるし、誰しも器を壊さないと次の段階には進めないんだけどね」
「は、はあ……、そうですか///」
「そそ。じゃあ、今日はこれでね」
そう言ってミク達は男爵家の屋敷を後にした。メイドのリャムも何とも言えない顔で見送っていたが、ミク達はやれる事をやっているだけである。【神育の輝乳】は無理だが、それ以外は最高の物を用意し、最高の教育を施している。
世の中の多くの者が頭を下げて教えを乞いにくるレベルの技術だが、当然ながらクーエルもリャムも気付いていない。そして、それを面白がっている三人。やっている事は神々と変わらないのだが、やはり気付いてないらしい。
今日も同じ食堂に行き、適当に注文しては飲み食いしている三人と二匹。といっても、ロックは食べられないのでティムだけが食べているのだが……。ちなみにティムも寝る前に母乳を飲んでいるので、栄養はバッチリであり不足していない。
適当に食事をしていると、またもや喧嘩が始まったが、今度は客にブン殴られていた。一撃で気を失ったらしいが、それを囃したてる他の客。いったいなんだと思ったら、<宇宙一決定戦>に出る人物のようだ。
「流石に七年連続チャンピオンのウェイデル・ローマスが相手じゃ、多少は腕に覚えがあろうが、酔っ払い如きは相手になんねえなあ。当たり前だけどよ」
「今年も賭けが成立しねえのかねえ? 去年もウェイデルに賭けが集中し過ぎて、胴元が二位を当てる方式に変えちまったからなあ。チャンピオンを当てるのが簡単過ぎて賭けにもならねえって、本当にただの笑い話だぜ」
「今年も<格闘部門>は乱戦模様かなあ? 圧倒的チャンピオンは居るが、代わりに二位の候補は大量に居るからだけどよ。ま、逆に絞れなくて面白いんだけどさ」
先ほど綺麗に顎先を掠めるように殴ったのは、<格闘部門>のチャンピオンらしい。その一撃で失神していたが、それなりでしかない。ミクとしては何の興味も湧かない相手なので極めてどうでもよかった。
十分に食事に満足したミク達は、ホテルへと戻って部屋で休む。ロックをベッドに寝かせ、その横にティムが寝転がる。ミクはティムの口に指を突っ込むと、その指先から【神育の輝乳】を出して飲ませていく。
十分に満足したティムは母乳の効果で寝始めたので【超位清潔】を使って綺麗にしていると、後ろからゼルが抱き付いてきた。そろそろ我慢できないらしい。
今日はいつもと違いミクのみで、優しく抱き締めながら丁寧にじっくりとしてやる。その結果、前後で挟むよりも狂乱し、凄まじい勢いで勝手に撃沈した。
暴走という言葉がピッタリだったが、愛されていると感じる事に非常に弱いらしい。簡単に騙されそうな気がして心配になったミクだが、レイラは本体空間で大丈夫だとミクに伝える。
レイラは理解していたが、ゼルは警戒心が物凄く強い。表面上は綺麗に取り繕っているが、裏では他人を信用していないのだ。つまり心の仮面である。それを完全に剥がしたのがミクの母乳であり、母を感じているゼルはミクにだけ物凄く弱いのだ。
それが分かっている為、ミクには大丈夫だと伝えたのである。何故ならレイラも同じであり、ロックもティムも同じものを感じているのだから。分かっていないのはミクだけであるが、これは仕方のない事であろう。
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それから三日。今日は練習終わりに器を破壊する事を伝えてある。クーエルは嫌そうな顔をしたが、こればかりは素直に諦めてもらう。少なくとも器を壊すのは二回に留めるので、そこまでは破壊してもらわねば困る。
本当なら両方ともに三回壊したかったのだが、それは日程的に難しそうなので諦めた。流石に最悪を想定すると、器を治すだけで九日も無駄に使う事になる。それでは修行の日数が足りなくなるので仕方ない。
それまでは気合いを入れて練習に励んでもらおう。ここでやった練習が大会の時の実力になるのだから、手を抜いていい事など何も無い。そう言って気合いを入れ直させて、集中させながら教えていく。
夕方、再び唸っているクーエルにゼルの母乳を飲ませ、お姫様抱っこで部屋まで連れて行く。丁度その時に両親が帰宅したらしく、男爵と妻はミク達を見て何とも言えない顔になった。
母乳の事でも驚いたが、それ以上に自分の息子が美女にお姫様抱っこされているのだ。親としては何とも言い辛くなって当然であろう。そんな事には頓着しないミクは、さっさと部屋へと連れて行くのだった。
その後、応接室で再び話をするのだが、どうも進捗が聞きたいらしい。
「大会でスキルを使う奴が現れると厳しいかな? とはいえ、スキルだけで勝てる訳じゃないのは教えてるから対処は出来ると思うけどね」
「その……槍のスキルと言うものを教えてはやれないのかね? もちろん秘伝ほどのスキルを教えてやってくれとは言わないが……」
「半端なスキルなら教わらない方が良いわ。それに頼ると却って今まで学んできたものを軽んじるかもしれない。今のクーエルに必要なのは身体強化の練度と基本よ。スキルを使えば強くなったと思うかもしれないけど、技術のある者はそれを隙として狙ってくるわ」
「一ヶ月では半端なスキルにしかならないの。多少なら勝てるかもしれないけど、優勝は絶対に無理。去年の決勝戦の動画を見たけど、あの連中には通用しないわ。だからこそ基本の練度を上げる事が重要なのよ。付け焼刃は裏切るけれど、基本は裏切らないから」
「成る程、基本こそが最も大事だという事は多い。煌びやかな物に目を奪われてはいかんという事か。すまない、息子を宜しくお願いする」
「まあ、不安なのは分かるけどね。本人を惑わすのはよくないわ。自分の子供なんでしょう? なら信じてあげなさい」
「……そうね。貴方、ここは信じて見守るだけにしましょう」
「そうだな。親として腰を据えて待とうか……あの子がどういう結果を残すのか」
ミク達は男爵家の屋敷を辞し、繁華街へと移動し食事をしようと最近通っている店に向かう。すると所々が破壊されており、店主が片付けをしていた。ミク達は魔導二輪を下りて収納し店主を手伝いはじめる。
「お客さん、すまねえな。今日は店を開けられねえんだ。喧嘩しやがったバカが暴れやがってよ、そのうえ抗争を始めやがった。やつらは多分ホテル系の連中だと思う。ホテル街にはホテル街の利権があるんでな」
「その利権のぶつかった連中が抗争を始めたと……周りの店も被害を受けたみたいだし、碌な事をしない連中だね。それより他に美味しい店を教えてよ。オススメのヤツ」
「ははははは。この店の店主であるオレに聞くなんて面白いお嬢さんだ。ウチが一番だって言いたいところだが、今はコレだからなあ。ここから真っ直ぐ行った所に<ゲンコツ爺>という名前の店がある。そこはオレの師匠の店だ。美味いぜ」
「分かった、ありがとう。片付け終わったら、そっちへ行ってみるよ。すぐに終わりそうだしね」
「ホントにすまねえな」
その後、片付け終わったミク達は教えて貰った<ゲンコツ爺>の店に行く。入り口を開けて中に入ると、20席ほどしか席の無い店だったがテーブル席がギリギリ空いていた。なので、そこに座って壁に貼りだしてあるメニューを見る。
………メニューが一つしかない店だったので頼んで待つ。出てきたのはラーメンっぽい物とギョーザっぽい物だった。どうやら定食らしい。
それなりの大きさの器に大量の野菜が乗っているうえ、ギョーザっぽい物は皿に50個ほど乗っている。残すと10倍の料金を払わなければいけないらしいが、量を考えると元の値段は格安だろう。
ミクは早速食べ始める事にした。




