0443・クーエルの修行01
「僕としては素手は怖いので、出来れば武器を持ちたいです。なので槍でお願いします」
「なら槍で決定ね。出場した事があるなら大会でどんな槍が使われるかは知ってるでしょ? それを教えて。多分だけど規定がある筈よね?」
「はい。大会では2メートル以上、4メートル未満の槍と決まっています。全て木で出来た物で、革製の防具を着けての戦闘。予選は乱戦方式で、20人ぐらいが会場で一斉に戦いますが、会場の外に落とされたら負けとなります」
「ふんふん、成る程。4メートルの槍を使う奴はまず居ないから無視していいけど、君の使う槍は最も短い2メートルで決定ね。長い槍は懐に入られると不利だから、後ゼルも槍の練習」
「えっ!? 何で私まで……って、しまった。【光槍術】のスキルかー、真面目に練習しないと神様に何を言われるか分からないわね。仕方ない、真面目に練習しますか」
部門が決まった以上、早速練習に移る。男爵家にはかつて槍の練習用にと買った木の棒があったので、それを2メートルに切り青年に持たせる。そして基本の突きから教えるのだが、その際に名前で呼んで欲しいと頼まれた。
「流石に青年呼びはどうかと思いますので。僕の名前はクーエル・オロストムと言います」
「了解、了解。クーエルね。とりあえず槍の突きはともかくとして、身体強化も学ぼうか? そのまま壊していく事になるけど、地獄の苦しみは頑張って耐えてよ」
「は、はあ……」
何も理解していないクーエルに魔力と闘気を感じる訓練から始めさせ、循環と強化もすぐにやらせる。一ヶ月ぐらいしか時間がないので、ある程度は端折って急ぐ必要があるのだ。
その後は身体強化をさせながら歩き、走らせ、動かさせる。出来なくとも無理矢理やらせ、魔力が無くなれば<天生快癒薬>を無理矢理飲ませる。枯渇しても気にせず、魔力回復用の<天生快癒薬>に闘気すらブチ込むミク。
それを無理矢理飲ませては何度も枯渇させていく。昼前から始めたが、夕方には魔力も闘気も限界に達していた。本人は苦しんでいるが、それでも一日で一度目の限界に達したのは頑張ったと言えるだろう。
槍を持って倒れているクーエルの頭に手を置き、強制的に魔力と闘気を使わせて器を破壊、地獄に落とす。現在クーエルは唸るだけになったので、【超位清潔】を使ってから屋敷の中にお姫様抱っこで連れて行く。
メイドに聞いて本人の自室まで連れて行こうとすると、クーエルの両親が帰ってきたようだ。ミク達は部屋を聞いていたので連れて行き、その後はメイドに呼ばれたので応接室へと移動した。
「君達が息子の依頼を請けた傭兵か……。ところで息子が倒れて呻いていると報告を受けたが、いったいどういう事かね?」
ミクは面倒ではあるものの、魔力の器と闘気の器を説明し、破壊しなければ一定以上の魔力も闘気も持てないので破壊した事を伝えた。一度破壊されてから治ると器が大きくなる事、現在はその治している最中なので苦しんでいる事を何度も説明して、やっと納得したようだ。
「ふーむ……初めて聞いたのだが、魔道具などの魔力消費では魔力の器とやらを壊せないという事か。だから君が強引に魔力と闘気? というものを消費させて破壊したと。そして治るには一日から三日ほど掛かるか」
「そこは個人差だからどうにもならないね。生涯に一度も壊さない者が殆どだし、壊してても一度ぐらいじゃないかな? 二度目や三度目になると更に魔力の消費量が上がる。強固に大きくなった器は簡単に壊せなくなるから」
「成る程な。言っている事と理屈は、まあ分かる。それが本当かは私達には分からないが、君達がおかしな事をしていなかったのはメイドも見ていたから間違いあるまい。しかしながら……息子は強くなりそうかね?」
「普通だね。センスは普通、才能も普通。でも努力は出来るみたいだから、一度限りの優勝なら出来るんじゃないかな? 流石に50歳以下の方は無理だとは思うけど、今年はギリギリってところだと思う」
「たったの一度であっても、優勝出来るなら十分だ。我が家から優勝者など出る訳が無いと思っていたからな。私も若い頃は出場が嫌でしょうがなかった。自分が弱いのは分かっていたからな。たった一度でも優勝出来たなら、生涯誇っていいだろう」
「まあ、20歳以下の部門だって優勝は簡単な事じゃないからね。宇宙中から集まってくる中での優勝。毎年一人しか生まれないチャンピオンだから、十分に誇りある勲章よ。っと、そろそろお暇して食事に行きましょうか」
「そうだね」
挨拶をしてから男爵の屋敷を辞したミク達は、繁華街の方に魔導二輪で移動し、今は適当な店に入って食事をしている。ここは大衆食堂なのだろう。酒を飲んで五月蝿い連中もいるが、下町の料理が並んでいる。
ミクは適当に見繕い、ティムと一緒に分け合って食事をする。その反対側ではロックが母乳を飲んでいる。未だに固形物は無理なので、生まれてすぐの雛を攫ってきたのかもしれない。本人? 本鳥? は美味しそうに飲んでいるだけで何も考えてはいなさそうだ。
ティムと共に煮込み料理や揚げ料理などを食べていると、酔っ払いが言い合いを始めた。面倒な奴等だと思っていたら、筋骨隆々の店主が纏めて店を放り出している。ここは一つ一つの料理にお金を払わなければ行けない店なので、外に放り出しても特に問題は無い。
だからか店主は一切の遠慮が無かった。酔っ払って喧嘩を始める奴等などアレでいいだろう。そう思いつつ食事を終えたミク達は、ホテルの集まっているエリアへ行って三人部屋をとった。
といっても三人で一つずつのベッドを使うのではなく、一つのベッドはロックとティムのベッドだ。ロックは既に寝ており、ティムもその横で寝転がる。ミクとレイラはゼルを挟んで狂乱させ、満足させたら分体を停止して本体空間へ。
後はいつもと同じく素材で遊ぶのだった。
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二日後。男爵の屋敷に行くと、クーエルは回復していた。どうも昨日の深夜に回復したらしく、その後はぐっすり寝られたようだ。今日からは再び練習の開始だが、今回も槍の基礎から叩き込んでいく。
身体強化も最初から教え、基本を何度も教えつつ魔力も闘気も使わせる。消費して枯渇したら飲ませて回復し、無理矢理に使わせていく。それでも一度壊しているからか一日で壊れる事は無かった。
夕方になって終了となった後、ミクはある物をコップに入れてクーエルに渡す。先にメイドが毒見をしたが気にせず、その後にクーエルに飲ませた。メイドのリャムが聞いてきたので、ミクは何でもない事のように答える。
「アレはいったい何なのでしょうか? 美味しかったですし、害があるとは思っていませんが……」
「ん? 気になるの? あんまり聞かないほうが……っていうのは冗談だよ。あれはゼルに出してもらった【慈悲の愛乳】だね。つまり母乳」
「「………」」
飲んだ後だから吐き出す事も無かったが、飲んだのが母乳だと知って唖然とする二人。その二人に苦笑しながらも、理由を告げるゼル。
「私もミクも母乳スキルを持つんだけど、ミクのはちょっと色々問題があってね、それで私の母乳にしたの。一応言っておくけど、私の持つ【慈悲の愛乳】は非常に高栄養の母乳なの。体を作る意味でも飲ませる必要があるのよ。それに美味しかったでしょ?」
「///」
メイドのリャムはともかくとして、クーエルは20歳にもなって飲んだのが母乳と知り、顔を真っ赤にしている。とはいえ、真っ赤な理由は目の前の美人の母乳だからだろうが。




