0044・昇華草採取と秘密のルート潰し
昇華草を採取し終わったので場所を移動し、新たな群生地を探して移動するミク。先ほどの奴等はクラッシュベアに追いかけられたっきり帰ってこない。なので喰うのを一旦諦め、昇華草採取に精を出す。
三つ目の群生地で採取していると、近くに蝶や蛾が集まってきた。これらは麻痺効果のある鱗粉を撒き散らす厄介な魔物なのだが、ミクには通用しない。腕を狼の口に変えて、根こそぎ喰われて終わるのだった。
その後も採取を続けていると、今度は「ブブブブブ」という音が聞こえてきた。どうやら蜂が飛んでいるらしい。近付いてきた蜂を食べようとすると、横から何かが飛んできたので後ろに跳ぶミク。
そちらを見ると、大きな蜘蛛が蜂を糸で捕まえて喰らっていた。その蜘蛛はジッとミクを見ているが、ミクは一足飛びで接近し、右手を熊に変えて生きたまま貪る。そこで行われているのは、正に自然の摂理であった。
蜘蛛も手に入れて上機嫌のミク、しかし復讐なのか近くに蜂が集まってくる。実はこの蜂、<デスホーネット>というロキド山で1~2を争う危険な魔物だ。即死毒とも言われる猛毒を持ち、集団で襲ってくる戦闘蜂。
危険な毒と数の暴力。その前に多くの冒険者が殺されてきた。肉食ではないので、羽音を聞いたら即座に逃げるのが冒険者の鉄則である。とはいえ、ミクがそれを守ってやる理由など無い。向かってくる蜂を手当たり次第に食べていく。
全て食べて昇華草を採り終わると、蜂が来た方角へと走って移動。そこでミクは予想通りに巣を発見した。先ほどの比ではないほどに蜂が出てくるが、<暴食形態>で貪るミク。誰も見て居ないからいいが、見られたらどうするつもりなのやら。
蜂を全て貪ったミクは、小山のように盛り上がった巣に近付き触手を使って巣を喰らう。その際、土などの要らない物は捨てて、必要な物のみ食べるか転送していく。ハチミツは本体の空間で浮かせたままにするも、早急に樽を作る事を決意する。
分体は周りの木を根元から喰らい、本体は木を使って樽を作っていく。大樽一つ分もあったハチミツは全て納まり、残りの木は何かに使えるかも知れないので置いておく。人間形態に戻り服を着ていると、ヴァルとローネが近付いてきた。
「こんな所に居たのかと言えばいいのか、何故服を脱いでいたのかを聞けばいいのか……。どっちだ?」
「さあ? 服を着てるのは一旦収納したからだよ。ここに大きな蜂の巣があってね、そいつら喰い荒らすのに<暴食形態>になったからさ。収納しちゃったんで、着なおさなきゃいけないんだよ」
「まあ、何となくは分かった。それよりもロキド山脈で蜂という事は、間違いなく<デスホーネット>だろう。ミクに掛かれば簡単なのだろうが、普通は即死毒という危険な毒を持つ敵だからな? 誰も戦わんぞ」
「即死毒? それなりに強い毒ではあったけど、そこまで危険な毒だったかなあ……? それよりも、そっちはどうだったの。秘密のルートの方」
「見てきたが、破壊して使えなくするのは無理だ。やってやれなくはないが、そこまですると怪しまれる。途中、谷のようになっている部分があってな、そこを何とか出来ればいいんだが……」
『派手に崩すと何かしたとバレるし、明らかに誰かがやったとバレるんだ。しかし、何とか出来そうなのはそこだけだった。それで困って一旦戻ってきたって訳なんだが……。何か方法はありそうか?』
「さてね。実際に見てみないと分からないかな? こっちはまた擦り付け行為をされたけど、百足になってスルーしたら追いかけられてたよ。クラッシュベアに」
「プ、アハハハハ……。ミクに魔物を擦り付け、怪我をさせるかしたら犯す気だったのだろう? 古くからそういうクズは居る。昔、若い頃に何度か私もヤられた事があるな。心配せずとも逃がした事は無い。皆殺しにしてきた」
「いや、心配はしてないけど? そもそも泣き寝入りするような性格じゃないでしょ。それに、そんな事したら神が何を言ってくるか分からないし」
「まったくもって、その通りだ。それよりも行こう。何とか出来るなら、何とかしてほしいのでな」
ミクもヴァルに乗り、秘密ルートの谷となっている場所まで移動するのだった。
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「確かに高いし、向こうは森かー。間違いなく安全の為にはここを通るしかないね。森の開けた所には花が沢山生えてたし、あっちは普通の奴じゃ危険すぎて通らないでしょ」
「まあな。あそこまでデスホーネットが居れば、誰も森を行こうとは思わんだろう。ここに先が鉄の輪になった杭とロープが二列あるのだが、これを取り払っても意味が無い。また打ち込まれるだけだ」
『これを使えなくするか、根本的にこのルートを使えなくしたいんだが……主でも厄介そうだな。まあ、人間種は何でもするから止めるのは難しいか』
「難しくはないかな。近くに大量にデスホーネットが居るし。ヴァル達は離れていてくれる? ここまでデスホーネットを来させるから」
そう言うと、ヴァルに離れるように言うローネ。彼女の肉体では耐えられないので仕方ない。闇半神族が死ぬ理由でもあるが、彼女達とて毒や病気には強いが効かない訳では無い。
そして、そういった毒などで死ぬと新たな闇半神族が生み出される。彼女達は子孫を残せるが、根本的には神が生み出した生命体なのだ。それ故、闇半神族は同族を産めない。
子供は必ず黒耳族となる。だからこそ彼女達は崇められるし、自身の種族に誇りを持つ。そして神に尊崇の念を抱くのだ。神に生み出された種族であるが故に。
それはともかく、ロープや杭にデスホーネットのフェロモンを染み込ませるミク。更には周りの地面にも十分に染み込ませる。するとデスホーネットがミクの近くに寄ってきた。
ミクはフェロモンを纏っている為、敵認定されずに素通りされる。それを見て実験成功だと喜ぶミク。デスホーネットが森の方へ戻ると、自身のフェロモンを全て消してヴァルと合流した。
「ミク、いったい何をしたんだ? デスホーネットに囲まれていたが、何もされていなかったぞ? 普通はあり得ないと思うのだが……」
「蜂にはね、同族を識別したり、テリトリーを示す為のフェロモンがあるんだよ。それを杭とロープと地面に染み込ませてきた。多分相当の期間、取れないんじゃないかな? あの谷の広さなら、渡っている最中に襲われるね」
谷の広さは10メートルちょっとはある。確かにロープで渡っている最中に攻撃されるだろう。向こうは蜂だし、渡ってきた後で刺すかもしれない。どのみち即死毒だ、渡ろうとは思わないだろう。
それを聞いたヴァルとローネは大爆笑している。まさか魔物を利用して敵を防ぐとは思わなかったらしい。一頻り笑った二人は落ち着き、ミクが乗ったタイミングで帰るのだった。
ゼルダから頼まれた昇華草は既に集め終わっているので、後は帰って渡すだけである。既に夕方近くになっているので、野営地まで急ぐヴァルだった。尚、ローネは昼食に乾パンを食べていたらしい。
帰りに仕留めたクラッシュベアの二頭のうち一頭をヴァルが食べ、もう一頭は肉を通して本体に送った。すぐに返ってきた熊肉は、綺麗に部位ごとに分けられて熟成されていた。さすが本体、仕事が早い。
その肉をアイテムバッグに入れるローネ。思わずミクをジト目で見てしまうのも仕方がない事であろう。




