0442・青年からの依頼
宇宙船の発着場に来たミク達は、どれに乗るか悩みながら情報を見ていく。レイラとゼルにはMASCでの情報収集を頼み、ロックとティムと一緒に貼りだしてあるポスターのような物を見ている。
幾ら技術が進んでも、こういう物は変わらずあるらしい。まあ、広告は目に付く所にないと意味は無いので当然かもしれないが……。そんな事を考えながら色々見ていると、ロックが騒ぎ始めたので保存しておいた母乳を容器からコップに入れてやる。
それを飲んだロックはあっさりと眠り始めた。ミクは毛布のような布でロックを包み、そのまま寝かせてやる。仮に粗相をしても吸収率の高い布なので漏らさない。そのうえ【超位清潔】を使えばすぐに綺麗になる。
なので長椅子の上に置いてゆっくり寝かせてやると、傍でティムが見守る事にしたようだ。ロックの事はティムに任せ、ミクはポスターや貼りだしてある情報を調べるも、どうも面白そうな星は無さそうである。
仕方なくレイラやゼルの下に戻り、ロックの横に座りながら二人に声を掛ける。
「何か面白そうな依頼か星でもあった? 危険があっても問題無いから、面白そうなのが先ね」
「言いたい事は分からなくもないんだけど、ミクが何を面白がるか分からないのがねえ……。そういえば一ヵ月後ぐらいに、ヴィルフィス帝国で<宇宙一決定戦>が行われるけど? それは面白そうだと思わない?」
「別に? だってシンテン・リュウザとかいう奴が宇宙一になる程度の大会でしょ。私には手も足も出なかった奴だよ? そんな程度しかいないんだから、どうでもいいよ。下らなさ過ぎて興味も出ないね」
「そういえば、そうだったわね。シンテン・リュウザを一方的に叩きのめしたんだったわ。それじゃあ楽しめないでしょうし、コレは無しね」
「主、シンテン・リュウザって奴を三人にぶつけるつもりだった筈だけど、今はいないわよ? 向こうが突っ掛かって来たらどうするつもり?」
「あー……適当に潰すからいいよ。所詮その程度の実力だし。何回やっても私が絶対に勝つほど実力に差があるしね。殺していいなら、もっと簡単だし。それよりも良さ気な惑星か依頼あった?」
「うーん……ん? これは? ヴィルフィス帝国のEER8871惑星で教師をする依頼。教師と言っても戦いを教える教師ね。さっき言った<宇宙一決定戦>に出場する少年を鍛えてほしいらしいわよ」
「少年? 出たところで勝てないだろうし意味が無い気がするんだけど? 子供なら修行期間が足りなさ過ぎるし、急造の強さを手に入れても意味なんて無いよ」
「ミクは知らないのだろうけど、<宇宙一決定戦>には、20歳以下、50歳以下、100歳以下、無制限の四つの部があるのよ。自己申告制でしかないけど、それぞれの部に出られる年齢は決まってるわ。後で年齢詐称がバレたら全宇宙に恥が伝わるようになってるから、する奴は殆どいないけど」
「少年っていう事は、20歳以下かしら? それなら青年じゃないの? ……ああ、貴女からすれば少年でしょうね。それはともかく、20歳の今年が最後のチャンスって訳ね。次は50歳以下って言うなら殆どの者が出場できるでしょうし、そこでの優勝は無理なんでしょう」
「シンテン・リュウザなんかは無制限に出場してるけど、それぞれの部でも激しい戦いが繰り広げられてるわねえ。観戦する意味でも丁度良いんじゃないかしら、ここから近いし」
「あ、そうなんだ。……だったらそれにしようか。どんな武器の部門に出場するのか知らないけど、それも含めて教えればいいか。って、そもそもどんな部門があるかも知らなかった」
「<宇宙一決定戦>は剣の部門、槍の部門、格闘部門に魔法部門。この4つの部門に分かれているわ。魔法だけは特殊ね、魔法銃や魔道具があるから魔法を自分で使う人自体が少ないし」
色々教えてくれながらも、ゼルはチケットを購入していく。ヴァル達の荷物は全て置いていってあり、向こうには手ぶらで行かされている。そんな四人の事を考えつつ、ロックを胸ポケットに入れて宇宙船に移動するミク達。
次は<宇宙一決定戦>の行われるEER8871惑星に決まったようだ。
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それから二日。<宇宙一決定戦>が行われるEER8871惑星に降り立ったミク達。依頼を出している少年はヴィルフィス帝国の男爵家の長男らしい。何でも文官の家系であり、一度でいいから大会で優勝して見返したいそうだ。
使う武器などが書かれていないが、それはワザとだろうか? そう思いながらも、まずはブラックホークの事務所へと行く。ここはタウン惑星である為、殺し合いは御法度の星である。殴る蹴るの喧嘩ぐらいなら許されるが、魔法銃を抜くと重罪が科される。
秩序が半分崩壊しているものの、逆に厳しい惑星も存在する。目の届く所はしっかりするのだろう、目の届く所は。それはともかく、依頼を受諾する旨を先方に伝えると場所を指定された。
そこへと向かうと普通の屋敷があり、庶民の大きな家より一回り大きい屋敷が目的地だった。遠くの方には贅を凝らした巨大な屋敷が見えるが、男爵家ではこんなもののようだ。いや、大きすぎても邪魔なだけか。
そんな事を思いつつ門前の魔道具に触ると大きな音が鳴り、中からメイドが現れた。屋敷の中へと案内してもらうと、そこには身長の低い青年が居た。生憎と当主は留守みたいだが、目の前の青年が依頼主なのだから問題は無い。
「僕は20歳以下の部で優勝したいんです! どうか、お願いします!!」
「まあ文官の家系ってヴィルフィス帝国ではバカにされやすいって聞くけど、その文官が居なきゃ国が回らないでしょうにね。バカにしている奴等が愚かなだけでしょう?」
「それは、そうなのですが……やはり上にあがる為にも、良い成績を残したというのは大きいですから……」
「ああ、家の事もあって貴方は優勝したいと……そういう事ね? それなら分からなくもないかしら。それで、貴方は何を使う部門に出る気なの? そこを聞かないと始まらないのよ」
「それが……何が良いのでしょうか? 僕にはサッパリで。今まで剣の部に出たり、槍の部に出たりしてるんですけど、全て予選敗退でして……」
「どれでも良いんだけど、コレって決めて練習しないと身につかないよ。そうやって適当に使ってるからこそ、いつまでも予選敗退になるの。他の選手は少なくとも、使う得物の練習はしてきてる訳だからさ」
「はあ……とはいえ、僕が何を使えばいいのか分からず……。いつも結局体を鍛えるだけで終わるんです」
ミクは正しく確認しているが、肉体に関してはきちんと鍛えられている。十分な筋肉が付いており、背は低いものの代わりに敏捷性として十分あるだろう。体を鍛えるには一ヶ月では足りないが、技を教えるだけなら何とかなるかもしれない。
「碌に武器の修練をしていないのなら、出る部門は槍か格闘のどちらかだね。魔法でも良いんだけど、魔法にするなら器を高速で壊す必要があるから地獄だよ? ……どっちにしろ壊すから一緒か」
「これで出場までの一ヶ月は地獄が確定したわね? 依頼をしてきたのは貴方なのだから、しっかりと耐えなさい。その先には間違いなく変わった貴方が居るわ」
「まあ、今さら拒否権は無いから覚悟するのね。ミクがやる気になっている以上、誰も拒否出来ないから。レイラが言った通り、宇宙一決定戦が始まる頃には見違えるくらい変わっているわ」
「で、どれに出場する? 今すぐ決めて!」
「ピー!」 「シュル!」
何故かロックとティムからも詰め寄られる青年。果たして彼は何を選ぶのだろうか?。




