0441・ヴァルと三人娘との別れ
「山に近付かなければ何も無い……事も無いね。かつて、この辺りを治める為に派遣していた者が悪事を行っていてね、その者が死んでようやく真相が発覚したんだ。情けない事だけど、その後に領地を正して山の調査を依頼したんだよ、そうしたら……」
「悪事を行っていた者と同じ死亡の仕方をした……と。まあ、当然そうなるとは思うんだけど、そこんトコどうなの?」
(それをやったのは我だ。いちいち面倒なので思念を飛ばす気も無かったのだが、我と同じ領域の者がおる以上は出て来ざるを得ん。そのうえ我にとって頗る相性が悪い相手のようだしの)
「「「「「「「!!?!?!!」」」」」」」
「いきなりの思念で驚いているようだけど、それは放っておいていいよ。私は<喰らう者>。で、貴方は?」
(我は<遮られざる者>。そなたの考えの通り、我は精神体。または思念体の存在と言ってよい。本来なら無敵を誇るアンノウンなのだが、全てを喰らうそなた相手だと相性が悪過ぎる。よって出てきた訳だ)
「それは分かった。少なくとも食べる肉が無いなら、わざわざ敵対しないよ。私は食べるのが好きだからね、特に肉が好きなんだ。それはともかく、何で人間種から生命力を奪ってたのさ? どうせ吸い取って殺したんでしょ?」
(まあな。我が殺した理由は一つだ、それは悪事を働いていたから。我はかつて古い古い時代、神と邂逅した事がある。その時に神から言われたのだ、悪業を為す者は喰らって構わぬとな。それ以降、我は宇宙をウロウロしながら悪人を喰らっておる)
「成る程、私が神どもから悪人を喰らえと言われているのと同じか。ならそっちはこのまま居るの? それとも悪人を喰い終わったなら別の星?」
(当然だが別の星に行く。我は彷徨いながら悪人を喰らい続ける。唯それだけよ。ただ、我の言う事も聞かぬ者もおるから気をつけよ。そなたがアンノウンだと分かって襲ってくるアンノウンもおるからな。我が知る限り、同じアンノウンには三度出会った。そなたで四度目だ)
「ふーん、中には喰えそうな奴もいそうだね。神どもの所為で魔界には行けないし、同じアンノウンをまだ食べた事が無いんだよ。肉が無いのはどうでもいいとして、肉のあるのが食べたいねえ」
(我が見てきたアンノウンを話しておくと、真っ黒でおどろおどろしい人骨、光り輝く翼を持つ人形、そして巨大な金色の獅子だ。そなたは……何であろうな? 我でも計ることが出来ん)
「そう? なら連れてってあげるよ」
ミクがそう言った瞬間、右腕が肉塊になって何も無い空間を飲み込む。そこにはアンノウンが居たのだが、ヴァルとレイラしか理解出来ていなかった。
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(……何とまあ、コレがそなたか。流石に我ではどうやっても勝てんな。そもそもここが何処かも知らぬが、怖ろしき肉の塊だ。うん? そこもとは何方かな?)
「私が何者かは如何様でもよい。それよりもミク、こやつの存在を使って少し弄る。文句は受け付けんからな」
「何をする気か知らないけど、好きにしたら? いい加減ウンザリしてるんだけどね」
「まあ、そう言うな。そなたにも関わる事だ。……ふむ、思い出したかアンノウン。<魂魄の神>たる私を」
(……かつての時代に邂逅して幾星霜、まさか再び御会いする事があろうとは。いったい何故……)
「ミクは我等神々が作り上げた、最強のアンノウンと言って良い存在だ。この空間でさえ我等が作り上げたものなのだよ。そなたには引き続きゴミどもを喰ろうて貰わなければならんが……よし出来たか。上手くいったようだな」
「……何故こんな事に? 俺を主から離していったい何をさせる気だ。事と次第によっては全力で抵抗するぞ」
「別に悪いようにはせん。そなたには三人娘を伴って行かせる場所が在るのだ、あれら三人も少し頭を冷やさせなければならんからな。厄介な事に銀河規模の神がやらかしおったのだ。そなたらも知っておろうが、同じ世界ならば転移させる事は可能だ」
「まさかとは思うけど、異なる宇宙の者を転移させた? わざわざ何の為にそんな事をするんだか!」
「そんな事は知らぬ。そなたらも知っておろうが、規模が小さくなるにつれ、神も個性というか性格が出てくる。享楽に走ったのか血迷ったのか、自らの神性の一部を転移者に与えおったのだ。その所為で妙なスキルを発現してしまい、おかしな混乱を起こしておる」
「それだけで神が俺を主から切り離し、一つの生命体とするのか? 納得がいかんがな」
「そなたは半分以上ミクから離れておったぞ? そもそも魂の一角にしかおらなかったが、ミクの魂が膨大過ぎる所為でミクの魂を使い個人になろうとしておった。私はそれを進めたに過ぎん。遅かれ早かれ、お前は一つの生命体になっておったよ」
「そ……そんなバカな! 俺はそんな事を願った覚えは無い!!」
「お主が願った訳ではない、ならば分かるであろう? いずれ子は親を離れねばならん。そなたは<魔女の秘法>で作られただけに早かっただけよ。それよりミクよ、三人を連れて来てくれ」
すぐに本体空間に三人が送られてくると、<魂魄の神>は事情を説明した。納得するもしないも関わり無く、ヴァル、ルーナ、ヘル、セイランは該当の宇宙の星へと飛ばされた。どうも転移者が40人くらい居るらしく、収拾をつけるのは大変そうである。
残ったアンノウンは再び肉で転送し、ミクの本体空間は静かになる。ヴァルは居なくなったものの、一個人となった事を祝福するミクであった。
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分体側は混乱の渦に陥っていたが、情報を説明して納得させた。アンノウンも落ち着かせるのに協力してくれたが、その後に何処かへと行ってしまったようだ。今は近くに居ない。
「ファイレーセ嬢が別の宇宙の惑星に? ……信じられませんが、信じるしか出来ないようですね。実際に右腕がおかしくなってましたし……」
「それにしてもミク、これからどうするの? 三人娘はともかくとしてヴァルまで居なくなったのは痛手じゃない? 実際にはヴァルもレイラもミクだと言えたんだけどさ」
「まあ、大丈夫でしょ? 私達が鍛えたとはいえ、経験は圧倒的に足りないからねー、別の宇宙の惑星に行って修行してるとでも思えばいいよ。ヴァルはお守りが大変そうだけど。それにしてもルーナ達というお荷物も居なくなったから、命を守るのは楽になったね」
「ピー!!」 「シュル!!」
「何かロックとティムが慰めてくれるみたいね。まあ、これからの事はゆっくり考えましょうか。時間は幾らでもあるんだし、お金も十分にあるしね。ヴァル達は全て置いていく羽目になったから」
「仕方ないよ。あんまり宇宙間で物質の移動はしない方が良いらしいから。おっと、ここに居ても邪魔になるだけだね。それじゃ、私達はこれで。人が死ぬ事件は解決したから大丈夫だよ。アンノウンが相手じゃ何したって無駄だしね」
「あ、ああ。私も今日の事は胸に仕舞っておくよ。現実離れし過ぎていて、誰も信じないだろうけどね」
ミクとレイラとゼル、それにロックとティムはシャス家のログハウス風の屋敷を出た。ヴァルが自分からの卒業となったものの寂しさは無い。新たな門出だし、何より神どもの要求ならどうにもならない。
あの三人娘と一緒は大変だろうが、ヴァルなら大丈夫だろう。そんな事を思いつつ魔導二輪で発着場まで走って行く。ティムの背にロックが乗っているが、落ちないようにしがみ付いている。
足でガッツリと掴んでいるのだが、ティムは特に痛くないようだ。我慢している様子でもないので、ミクは気にせず走り飛行船の発着場に着く。丁度のタイミングで飛行戦に乗り、宇宙船の発着場まで移動していく。
次は何処へ行こうかと考えながら、足元のロックとティムと遊ぶのだった。




