0431・第三ベースへ帰還
超絶リラックス効果で寝そうになっているルーナの頭を叩き、無理矢理に起こす。いったい何をやっているんだと思うも、魔物の出る中でグースカ寝かせる訳にもいかない。【音魔法】の【覚醒波】を使い、強制的に目を覚まさせてから進む。
ミク達は進んで行くも、結局ロック以外に何か見つかる事も無く戻るのだった。第三ベースまで戻ってくると、本体空間で話していた通りにヴァル組もレイラ組も帰ってきていた。ミク達と共に魔物を売りに行くも、気になるものは発見できなかったそうだ。
ミク達の方は白い蛇を探していたが、見つかったのは白い鳥の雛だった事を話す。その話をしながら今度は宿へ。四人部屋を確保したら、部屋に移動して話し合いを始めた。
『俺達の方は特に何も無かったな。多少はブラッドスネークを始め、高値で売れる魔物が獲れたくらいか。それ以外には何も無かった。ここでは死亡者も多いが、来る者も多い。可能性としては高くない気もしたが……』
「ルフの雛が居るとは思いませんでした。それも蛇に追いかけられていたとは……。親鳥が居ないならば、住んでいた惑星から拉致されたと考えるのが自然でしょうが、何故この惑星に? とは思いますね」
「私の方も高値で売れる奴を獲っただけよ。それにしてもセイランの言う通り、何故この惑星に連れて来たのかが分からないわね。愛玩動物としてなら、タウン惑星に連れて行く筈よ。高値で売れるのは、そういう連中なんだし」
「そうですね。そうではなく、こんな狩りに特化した惑星にわざわざ連れてくる……。例えばですが、飼育と観察をしているという事はないですか? ルフが何を食べるかとか、どうすれば大きく成長するかなど、繁殖の為に調べている可能性は?」
「その可能性は無い訳じゃないでしょうね。おかしな事を考える奴は何処にでも居るし、高値で売れる魔物を繁殖させる。そんな事を金儲けの為にやりかねない国だしね」
「ですね。聞こえてくる噂だけでも、十分にやる可能性があると思います。しかし、寝ている姿も本当に可愛いですね」
「ピー……ピュー……」
雛はどうやら鼾を掻いて寝ているらしい。それほどまでにリラックスしているとも言えるので、別に悪い事ではないのだが、何となくホッコリする一同。ロックと名付けた事を話すも、特に候補も無かったのかあっさり決まった。
それはともかくとして、その後も話し合いは続いたものの特に結論らしい結論は出なかった。夕方になったのでそのまま酒場に行き、夕食を頼んで雑談をしつつ待つ。テーブルの上のロックを指で撫でたりして遊ぶミク。ロックも楽しそうにしている。
そんな中、話し掛けてきた傭兵が居た。
「すまねえ、それっていったい何の鳥なんだ? 白い羽の雛なんて見た事ねえから気になってな」
「この子は多分だけどルフの雛よ。北に行ったら蛇の魔物に追いかけられていたこの子を見つけたのよ。何故ルフの雛がこの惑星に居るのか理解出来ないけど、居たものは居たのよね」
「へー……ルフって見た事ねえけど、雛はこんななんだな」
そう言って離れる傭兵。明らかに怪しいが、あえて何も言わず泳がせるミク達。この後どうするかの算段を頭の中でしていく。【念話】を使うと盗聴される虞もある為、使わないようにしつつ会話するのだった。
夕食後、宿の部屋に戻る際に尾行してくる者が居たが、あえて無視して部屋に戻り作戦会議。その間にコップに母乳を入れてやると、ロックは顔を突っ込んで美味しそうに飲んでいる。それを羨ましそうに見ているルーナ。茨木吾郎がまた出てきたらしい。
様々な意見が出てくるものの、これといった決め手は無く、結局は待ち構えて迎撃が一番だと決まる。その頃には既にロックは寝ていたので、本体空間に送って安全を確保しておく。その後は欲に塗れた連中を撃沈し、分体を停止して静かに待つのだった。
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深夜、待ち構えていた侵入者がようやくやってきた。宿に侵入してきたのは六人で、外に三人控えている。まずは部屋に入ってきた六人に即座に触手を放ち麻痺毒を注入する。少し効きが悪かったのは、最初から抗毒用の薬を打っていたのかもしれない。
ミクの使っている麻痺毒は、この宇宙の麻痺毒ではない為、完全に防ぐ事は出来なかったのだろう。麻痺させた後はその場に捨て置き、窓から外へとムカデの姿で出る。そして三人の監視に対しミク、ヴァル、レイラの三人で同時に麻痺させた。
その後は素早く本体空間に送り込み、一旦宿の部屋へと戻る三人。部屋の中にいる麻痺した連中の脳を操り、組織と目的を聞いていくのだった。
侵入してきたこいつらはゼタナクトの暗部であり、第三ベースから隠し通路を通って北に行った先に研究室があるらしい。そこで希少な魔物や動物の飼育実験をしているらしく、第一ベースに罠魔道具を仕掛けていたのもこいつらだった。
どうやら魔物のエサの為に罠魔道具を仕掛けており、傭兵を自動で殺しては魔物のエサにしていたらしい。そして肥え太った魔物をエサにして、その研究室のエサを賄っていたそうだ。とはいえ、傭兵を狙って殺すという事はしていないようである。
こいつらが傭兵を大量に殺しているとは言えず、微妙なラインで少々判断がつかないミク達。どうも他にも理由が絡んでいそうな気がするミクは、一旦保留として研究室を潰しに行くかを考える。
(その研究室を潰した方が早いと思うんだけど、躊躇う理由が何処かにあるのね?)
(いや、ごく単純な話なんだけど、連れて来られた魔物や動物は生きていけるの? って考えると難しいところなんだよ。周りを食い荒らすほど凶暴な奴なら生きていけるんだろうけど、ロックみたいなのは外に出すと喰われて死ぬよね?)
(それも自然の摂理だと思うが、元々の環境とは違うからな。元いた星であれば弱肉強食で済むが、無理矢理別の星に連れて来られている。むやみに解放するのもどうなのか? という事か)
(そうなんだよね。だから善人に洗脳しておいた方が良いのかもしれない。適当に潰して終わりは流石にねえ)
どうやら多少なりとも配慮する心が芽生えてきたらしい。ま、多少でしかないが。
それはともかくミクとレイラはムカデになり、ヴァルに後を任せて隠し通路へと進む。まさか酒場の厨房に隠し通路があるとは思わず、聞いた時には驚いた三人。
とはいえ食材などを大量に持ち込んでも変ではない場所だ。ゼタナクトの手の者が経営しているなら、更に隠しやすいだろう。
酒場で傭兵がロックの事を聞いてきたのも分からなくはないし、あれは傭兵のフリをしたゼタナクトの暗部だった。実際、侵入者の一人だったのだ。
そんな事を考えつつ酒場の厨房に入ったミクとレイラは、厨房の一角の床を開けて下への梯子を露出させる。そこへ入って蓋を閉じたら、隠し通路を真っ直ぐ進んで行く。道は一本しかないので迷う事も無く目的地へと着いた。
金属製の扉が付いているが、周りは土なのでそこに穴を開けて侵入する。中に入ると地面にタイルが敷いてあり、妙な実験施設のような感じだった。しかし人間種は誰もおらず、気配は一角に固まっている。
入ってすぐは広い部屋であり、中にはケージが所狭しと置いてある。奥の上の方に換気口があり、どうやらロックはあそこから逃げたようだ。それはともかく、ケージを確認すると大きな生き物はおらず、小さい生き物が主体らしい。
まあ、愛玩動物の繁殖なら、大きい生き物は除外するだろう。大きいと売り先が限られるので、小さい生き物の方が売りやすい。特にゼタナクトなら、そう考える筈だ。これがイェルハムラなら別なのだろうが。




