0429・二日目探索終了
宿の従業員は居なくなると怪しまれるので仕方ない……と思った瞬間、クリムゾンヴァルチャーは喰わなくてもいいのでは? と思いなおす。奴等の中の一部が手を出してきたのだから、善人洗脳の刑で済ませようと考えを切り替えるミク。
一緒に行動するレイラに、クリムゾンヴァルチャーは善人に洗脳しておくよう頼んでおく。その後、まずは近くの部屋から順番に確認していく。ここ第二ベースには、傭兵が泊まれる場所は4つある。普通の宿が2つに男と女の宿が1つ、そして簡易的な宿が1つだ。
簡易的な宿とは傭兵組織の簡易宿舎と同じで、いわゆる一人が寝られるだけのシンプルな細長い部屋の宿である。それが蜂の巣のように大量にある宿の事を簡易宿舎という。そこにも居るので厄介なのだが、時間はたっぷりある。
無限に起きていられる肉塊からすれば、今の時間からが本番とすら言えるだろう。そんな二人は泊まっている宿の中から虱潰しに探していき、クムゾンヴァルチャーは洗脳、デスピエロとクーロンは本体に転送していく。
他にもサンディアやダーククロウにホワイトナイトという傭兵組織の者も居た。色々な組織があるもんだと思いながらも、そいつらは無視して他の者に聞いていく。それなりに時間はかかるが、夜の内に終わればいいだけなので問題は無い。
最初の宿が終わり次の宿へ。そこも終わったら、次は簡易宿舎だ。ここは思っている以上に厄介で、密集して寝ている為バレる可能性が高い。もちろん可能性そのものは極めて低いのだが、その低い中でも高いのだ。
先ほどまでの宿よりも慎重に行動し、入り口の扉のほんの僅かな隙間から侵入する。元々窒息しないように僅かな隙間は空いており、わざわざ喰って空ける必要は無い。そんな中へと侵入しては、小さな声で答えさせる。これなら聞こえても寝言だと思うだろう。
そうやって放置する者は放置し、洗脳する者は洗脳し、転送する者は脳を喰って転送する。宿よりは長い時間が掛かったものの、最後の男と女の宿へ。まあ、男と男の可能性もあるし、女と女の可能性もあるのだが……。
そう思っていたら最初の部屋から男と男だった。それも優男に抱きつくように、胸毛と髭が濃い男が寝ている。何と言うか、ムサい奴が乙女のように寝ているのが………肉塊ですら納得出来ないようだ。
優男から聞いていくのだが、両方ともクリムゾンヴァルチャーだったので善人に洗脳しておく。その最中ミクはちょっとした疑問を感じる。それは善人になったら同性愛者では無くなるのでは? という事だ。もしかしたら関係無いのかもしれないが、同性愛というのは善なのか、それとも悪なのか?。
これは大いなる疑問では……と悩んでいると、<善の神>と<愛の神>が本体空間に現れ、同性愛と善悪は全く関係無いと言われた。そんな事と善悪を一緒にするなと怒られたので、どうやら関係無いらしい。
ちなみに<愛の神>も怒っていたので、同性愛と善悪については考えない方が良いみたいである。同性愛から始まる病気については悪だが、同性愛そのものは善悪ではないとの事。これ以上は考えないから帰ってほしいと思う本体であった。
イケメンとマッチョ。スレンダーな女と巨乳の女。少年とオッサン。張り型が尻に刺さった男と少女。他にも客は居たが、この宿の客は色々おかしな奴等ばかりじゃないか? その悉くが3つの傭兵組織と関わりが無かった。性欲を飛ばしていたのはコイツらもか? そんな事を感じつつ放置していく。
結局、最初の二人以外に該当する組織の者は居なかった。ここの全員を確認するのは難しくはなかったが、無駄に疲れる連中だ。そう思いながらミクとレイラは宿に引き上げて行くのだった。
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朝になり、全員起きてから事情を説明すると、妙な納得をするゼル。どうやら昨日の性欲に塗れた視線に納得がいったらしい。
「昨日の欲の視線、結構強かったもの。何かおかしいと思ってたけど、そういう連中が多かったのなら納得できるわ。傭兵組織の垣根が無いから、そういう意味で無法地帯になっているのかしら? 欲望的に」
「いけませんね。欲望に忠実な連中が周囲に多いというのは危険です。更にそれらが野放しの環境というのは……ゼタナクトは儲かればそれでいいんでしょうけど、性欲に塗れている連中は何をするか分かりませんからね!」
皆が一斉に「お前が言うな」という視線を送るが、ルーナは気付いていないのかスルーしている。ヘルとセイランが溜息を吐いたが、それすら分かっていないので、どうやらルーナ自身に自覚が無いらしい。
面倒になった一行は出発の準備を整え、酒場へと移動し朝食を食べる。デスピエロもそうだが、クーロンも消えたからだろう、店の中は随分少ない客しかいない。さっさと食事を終えたミク達は、それぞれの方角へと出発していく。
ミク達は東側を担当し、ヴァル組とレイラ組が北西と南西を担当する。高く売れる蛇が出てきたら狩ってもらう為だ。代わりにミク達は探索と移動を優先する。それなら北東と南東をカバーできるだろう。
立ったまま食べられる軽食はミクがそれぞれに渡しているので、今日は夕方まで探索を続ける事に決まっている。夕方頃に落ち合う事を決め、それぞれは出発した。
ミク達は探索優先でどんどんと進んで行く。もちろん薄く魔力を放出し、罠魔道具が無いか調べつつだ。今のところそういった物は見つかっていないが、昨日の探索でもそうだったが簡単に見つかる物でもない。
細かく魔力を発しながら進んでいると、逃げる魔物と向かってくる魔物に分かれる。小さい魔物は割と逃げるのだが、獰猛な魔物はむしろこっちに向かってきた。面倒だと思いつつも倒して血抜きをしていると、小さな蛇が近付いてくる。
そいつは真っ赤な鱗をした蛇で、血抜きで抜いた血を飲んでいるようだ。変わった蛇も居るものだと思いつつ、ミク達は獲物を収納して先へと進む。結局、北東には何も無かったので一旦ベースへと戻る。
軽食を食べつつ次は南東へ。再び薄く魔力を発しつつ進むも、こちらも何も無く夕方近くになった。なので戻っていると、先ほどの真っ赤な蛇が蛙の魔物に咬み付いているのを見た。蛙は痺れて動けなくなっているようだ。
そんな姿を見つつ帰ろうとすると、後ろから赤い蛇が襲ってきたので、ミクは右手を肉塊にして飲み込んだ。後は神をも溶かす消化液で溶かされるだけである。世の根底は弱肉強食、弱ければ喰われるだけ。それを知らない筈も無いであろうに。
第二ベースへと戻ったミク達は、既に帰ってきていた二組と合流し酒場へと向かう。中に入って夕食を注文し、席に座って雑談を始めたが、昨日と同じ様に周囲から性欲が飛んでくる。余程ここの連中は飢えているのだろうか?。
そんな中、何食わぬ顔で食事をして宿へ行くミク達。昨日と同じ宿だが、店員は善人なので問題無し。むしろここの方が安全だとさえ言える。部屋に入った全員は、早速今日の探索結果を話し始めた。
『残念ながらこちらは何も無しだ。くまなく調べたうえ、随分と遠くまで行ったんだがな……罠魔道具も何も無かった。どうも罠魔道具は第一ベース付近限定ではないかと思う。ここはまた別なのか、それとも俺達が気付いていないかだが……』
「流石に魔力を流している以上は何かしらの反応がある筈です。それが無いという事は、おそらく罠魔道具も何も無いのだと思います。第九ベースまであるんですから、常に何かある方がおかしいと思いますよ?」
「それは確かにそうだね。散らして紛れさせて、見つからないようにはするか」
当然といえば当然の事であろう。何をするにしても、発見され難くするのは普通の事である。それが違法な事なら尚更だ。




