0426・擬態魔道具
「その男達は情報源でしょうが、重要な情報を持っていますかね? それに随分と弱かったですが、何か理由があるのでしょうか。今まで戦ってきたクーロンの者と違い、何というか唯のチンピラみたいに感じました」
『確かにな。というより、こいつら近接戦闘が殆ど出来ていないからだろう。基本すらまともに出来ていないので弱く感じるんだ。少なくとも、今までの奴等は基本は出来ていた。基本は』
そう言ってヴァルはミクと同じ様に頭の上に掌を乗せ、脳に直接触手を突き刺す。その後に話させた事は、何とも下らない事だった。簡単に言うと、裏などなく単に賞金目当てで襲ってきただけだったのだ。つまり傭兵が殺される件とは関係が無い。
聞き終わるとメイスで頭を潰し、次の奴に聞く。全員から聞いたものの、情報としての差は殆ど無かった。
一人だけ、誰に掘られるのが気持ち良かったか詳細に話す奴が居たが、聞く気が無かったのですぐに止めさせた。秘密を聞いたのだが、そんな秘密は聞いていない。
「まあ、色々と好みというのはありますからね///。太いのが好きな者もいれば、長いのが好きな者も///。私はヴァル殿ならば、何でも好きですよ///」
そう言いながら近付いてきたので、たまには良いだろうとヴァルからキスをしてやる。セイランは驚いた後で熱烈なキスを返してきたのでヴァルも返すと、最後には荒い息を吐いて膝から崩れ落ちたセイラン。どうやら立てなくなったらしい。
「ハァ、ハァ、ハァ///。ここでは危険なので名残惜しいですが、止めておかねばいけませんね///。今日の夜に続きをお願いします///」
『少し休んでいてくれ。俺は死体を喰って主の本体に送ってくる。血の臭いなどで魔物が近付いてくる可能性もあるから、一応注意しておくようにな』
ヴァルは快楽など感じないので何とも無いが、セイランはヴァルからキスされた事で一気に昂ってしまい、キスだけで腰砕けにされてしまった。
何をしているんだと思うも、セイランは先ほどのキスを脳内で反芻しながらヴァルをジッと見ている。未だ頭の中はピンク色のようだ。
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こちらは北西に進んでいるヘルとレイラ。【武芸百般】の中に内包されている【気配察知】と【生命探知】で、つけてくるクーロンの傭兵に気付いているヘル。レイラが気付いていない筈も無く、二人はそうとは見せずに臨戦態勢である。
こちらの尾行者はいきなり仕掛けてきたが、臨戦態勢の二人に死角などは無い。撃ってくる魔法銃を【魔力盾】で逸らし、素早く手足を切り裂いていく。レイラは予備のナイフでの二刀流だ。
こちらのクーロンも突っ込まれると慌てふためき、碌に反撃も出来ないままに手足を切られていく。ヘルもレイラも拍子抜けしたように叩き潰し、ヘルが見張りながらレイラが脳を操って聞き出す。
「オレ達はクーロンの成り損ないだ。かつてはクーロンになれない連中は命を落としていたそうだが、最近はオレ達のように<シャオロン>に入れられて適当に使われる。それでも死なないだけマシだ。アンタらを襲ったのは金が欲しかったのと、殺せという命令があったからだよ」
「へぇ、じゃあ貴方達はどこかで命令を請けたという訳ね? ……ああ、MASCで報告したら命令されたと。じゃあ、命令した者は何を考えて命令したのかしら?」
「上が何を考えているかなんて知らねえよ。オレ達みたいな使い捨ての下っ端に、そんな情報が下りてくる訳ないだろ。それでもガキの頃より暮らしはマシだから従ってるだけだ。オレ達なんてチンピラと変わらんよ」
「そうなの……じゃあ、さようなら」
そう言って喉下を突き刺すレイラ。次の者にも聞くが、言う事は然して変わらなかった。金が欲しかったというのと、命令されたからだ。クーロンがミク達を殺そうとするのは分からなくもないので、それだけで傭兵殺しの犯人がクーロンとは限らない。
今はその程度の情報で満足するしかないだろう。死体を全て喰って本体へと転送したら、再び怪しいものが無いか探すのだった。
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こちらは北東へと進んだルーナとゼル。つけてくる者がいるのにも気付いているし、何なら早く襲ってこいとすら思っている。いつまで待たせるんだと若干イライラしだした頃、意を決したように襲ってくる敵傭兵。
魔法銃を撃ってくるものの、ルーナは【魔力盾】で逸らし、ゼルは【光神術】の【光壁】でベクトルを反転させてしまう。流石に反射されると思っていなかった敵は驚いてしまい、その隙に槍で足を突き刺される。
そうやって足を潰して動けなくしていくゼルとは対照的に、元気よく喉を突き刺して殺害していくルーナ。情け容赦なく太刀を突きこんでいるにも関わらず、妙に明るくやるのでちょっとおかしな雰囲気になっている。
ゼルは慣れたものなのか気にせず、足を潰し終わり武器を奪ったら尋問していく。とはいえ口を割るような相手ではない。ゼルが口を割らない連中に業を煮やし、一人二人殺そうと思ったところでルーナが割り込む。
「私こう見えて【音神術】が使えるんですよ! その中に【白音】というのがありまして、聞かせている間は頭が空っぽになり何でも喋るんです。じゃあ、いきますよ」
ルーナが敵傭兵に掌を翳すと、途端に目の焦点が合わなくなる。これが【白音】の効果かと思ったゼルは、根掘り葉掘り聞いていく。結果としては大した情報が無く、金欲しさと命令で襲っただけでしかなかった。唯のチンピラという結果に嘆息する二人。
他に大した情報も無かったので、二人は怪しい物を探して再びウロウロするのだった。
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こちらは一人で動いているミク。既に尾行されているのも分かっているし、何なら先回りした奴が居るのも知っている。それも総勢で28名という大所帯である事もだ。いつ襲ってくるんだろうと期待して待っているが、何故か襲ってこない。
妙に焦らす連中だなと思っていたら、突然近くから魔法銃を撃たれた。【魔力盾】を即座に使って防ぐが、その瞬間一気に魔法銃が撃ち込まれる。28人分の魔法銃の攻撃を防ぎつつ、素早く麻痺毒を散布するミク。
すぐに攻撃は止んだので、魔法銃が発射された木を叩き壊す。すると木に似せた魔道具で、中には魔法銃が内臓されていた。麻痺している連中を集めて話を聞き出していくと、どうやら襲ってきた連中が設置したものではないらしい。
「オレ達は偶然に魔法銃を撃ってくる木の魔道具を見つけただけだ。そいつにお前が引っ掛かりそうだから、それを待って襲った。オレ達デスピエロはお前を許す事はない。仇だからな、必ず仲間がお前を殺す」
「バカじゃないの? 頭が悪いにも程があるけど、人間種なんて所詮こんなものか」
そう言ってミクは右腕を熊の魔物に変えて貪っていく。その場で痺れているデスピエロの連中は、ようやく怪物である事を悟ったようだ。その後も喋らせる度に貪り喰われて死ぬデスピエロの傭兵。
周囲の魔物もミクの雰囲気を察知したのか全く近付かない。踊り食いの肉は美味しいらしく、ゆっくりと貪りつつ話を聞いていくミク。仲間が貪り食われながらも話すしか出来ない傭兵ども。愚か者の末路には大変相応しい姿である。
28人を喰らい終わったミクは、怪しい木なども含めて魔道具などを探しながら進む。襲ってきた傭兵よりも擬態魔道具の方が犯人に近い可能性が高いので、注意深く観察していくのだった。




