0422・森林惑星QWA611
二人が溜息を吐いたタイミングでヴァルとレイラが起動し、起き上がると話し掛けてきた。もちろん二人とも何があったか知っているし、そもそも見ていた。ヴァルはミクの魂の一角に帰っていたし、レイラもミクの肉に戻っていたからだ。
『それにしても、ローネより年上とは驚いたな。ローネでさえ1279……いや、今は1280歳か? それぐらいだというのに、1500歳超えだからな。まあ、1501歳でギリギリではあるが……』
「そうね。……それが<創造の神>が作った義手と義足? 機械というか魔道具というか、魔鉄の棒が複雑に絡み合って腕の形になっている感じかしら。それでも人間種の腕のように動くんでしょ?」
「身体強化の応用で動く形になってるね。だから割と自在に動かせるのと、手首が360度回転したりするみたい。私が使う【螺旋崩壊撃】みたいな事も出来るのかな?」
「スパ……ああ、こんな感じね。まあ出来なくも無いけど、特に威力が凄い攻撃ではないわねえ。所詮は魔鉄だし、アンノウンの牙や歯でない以上は高が知れてるわ。仕方がないのでしょうけども」
ゼルは手首から先を尖らせるように束ねてドリル回転をさせているが、ミクの【螺旋崩壊撃】に比べれば回転が足りずショボイ結果となっている。起きた三人娘は「凄い!凄い!」とハシャいでいるが。
そんな中、ミクが右手の手首から先を【螺旋崩壊撃】に変える。「キィィィィッ!!」という甲高い音が鳴ると全員が一斉に恐怖し、「頼むから止めてくれ」と言うので止めたミク。そんなに怖がるものだろうか?。
「いや、お姉様のソレは何故か分かりませんけど、猛烈に怖かったんです。何と言えばいいのでしょう? 妙な圧を感じると言いますか、自分が潰されミンチにされる姿を幻視しました」
「「「「「………」」」」」
何故かヴァルやレイラも「コクコク」頷いているので聞くと、二人も潰される姿を幻視したらしい。ミクには無いのでよく分からないが、あまりやらない方が良いみたいである。
怖いものは忘れて気を取り直した五人は、それぞれに情報を交換しつつ準備を整えて宿の部屋を出た。昨日の高級レストランに行き食事をしたら、ゼタナクト商国の発着場へと移動する。
ゼルは魔導四輪を持っているものの魔導二輪は持っていなかったので、ミクの後ろに乗せて移動していく。すぐに発着場に着いたので降り、中でチケットを購入。QWA611行きの宇宙船に乗って出発を待った。
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それから十日。ようやく森林惑星QWA611に着いたミク達は、ジャングルの中と思えるような発着場に降りていく。宇宙船の中とは違い蒸し暑い空気が寄せてくるが、ZZZ1190に比べれば重力は軽い。どうも普通の重力の星らしい。
この惑星では、どこの傭兵組織の事務所も無いらしく、魔物の買い取り所と各種の店、そして宿や酒場しか無いそうである。この惑星もそれなりには大きく、ネオガイアと同じくらいの大きさだ。
幾つかの拠点があるそうだが、その拠点に移動するには飛行船で移動する事になっているらしい。それもゼタナクトが運航しているらしく、結構なボッタクリなんだそうな。そんな事をMASCを見つつルーナが話している。
「ま、とにかくは第一ベースに行こうか。この星には第九ベースまであるらしいし、色々活動していれば見えてくるでしょ。まずは取引されている獲物とかの確認で、本格的な狩りは明日からかな?」
「そうね。主や私達は幾らでも動けるけど、他は無理だし急ぐ必要も無いからゆっくり行きましょうか。星全体がジャングルなんて珍しい惑星だしね。緑に覆われてるって面白いと思うわ」
『代わりに様々な病気があり、今も新種の病気が発見されているそうだぞ? こういう環境は病原菌を育むような培養装置みたいなものだからな。ま、主が居る以上は問題ないが』
「<紅の万能薬>があるからね。アレを飲ませるか浄化魔法で治してしまえばいいだけだし、特に難しい事でも何でも無いよ。他の奴は死のうが知った事じゃないけど」
「それは当然でしょ。いちいち他人を助けてたらキリが無いし、マヌケを死なせてやるのも慈悲よ。死ぬ奴は皆マヌケでしかない、それもまた戦場の理というもの。バカほど理解しないけど」
そんな話をしつつ酒場に行って食事をする。今は昼を過ぎているが、栄養補助食品の口直しを皆が求めたので行く事に。といっても軽い食事で済ませるべくサンドイッチを購入しただけではあるのだが。
果物のジュースを飲みつつ雑談をしていると、入ってきた傭兵達がカウンターに行って大きな声で話しだす。
「今日は上手く儲ける事が出来たけど、珍しい事もあるもんだよな。火鼠が近くに出てくるなんてよ! 普通ならあの臆病な鼠はまず出てこねえもんだが……」
「何かに追い駆けられてたんじゃねえの? 何かバッタリ出くわしたって感じの表情に見えたぜ? まあ一瞬だったけど」
「即座に撃って倒しちまったからなー、オレに感謝しろよ? あの波打つような真っ赤な皮は需要あるからなあ。高値で売れるし万々歳だぜ!」
然して聞く価値も無い情報だったのでスルーし、まずは宿に行き部屋を確保しようと思ったのだが、ゼルは高性能なMASCを持っているらしく、既に希望の宿を見つけ出していた。………全員が予想した通り、男と女が泊まる宿ではあったのだが、ゼルにも言い分があった。
「これだけの大人数が泊まれる部屋を確保出来る宿なんて、基本的にこういう宿だけよ? それに結局ヤる事はヤるんだし変わらないでしょ? ちなみにヴァルはどっちでもいいわ、セイランが五月蝿そうだし」
『俺としては助かるが、その代わりに主に迷惑を掛けるというのもな……。それはそれで使い魔としてどうなのかと思うのだが……』
「特に気にしなくてもいいよ。部屋でゆっくりMASCで調べたり、シたかったすれば良いしね。様々な事がMASCで調べられるから、この宇宙は簡単で助かるよ。ま、本当に重要な情報は載ってないけど」
「それは仕方ないわ。誰しも秘匿している情報はあるし、イェルハムラの<最強計画>なんて絶対に表には出ないもの。都市伝説のようにされているぐらいよ? もちろん意図的でしょうけども」
「荒唐無稽なバカ話にしてしまい、本質を隠してしまうという手法ですね。元々の核心部分に尾鰭や背鰭を付けて、妙な都市伝説化させてしまう。茨木吾郎として生きていた頃にも、そういうのはありました」
宿の部屋をとって休憩しようとしたが、長く宇宙船の中だったので溜まっていたのか襲われた。とはいえ好き勝手にさせるミクではない。逆にルーナを押さえ込み、レイラと二人で挟んでやる。
その結果はもちろん狂乱であり、ヘルとゼルは互いに後ろを向いて順番を決めるのだった。ヴァルとセイランは我関せずと見ている。五月蝿いと集中出来ないので、セイランが後でと決めたらしい。
その後はヘルとゼルも狂乱に堕とされ、大満足して眠りについた。ミクとレイラはその後、気配を消して静かにMASCを使いながら情報収集をしていく。話し合いは邪魔をしないように本体空間を通してだ。
(五月蝿いのが嫌と言ってたけど、セイランの悦びの声って一番大きいよね?)
(そうよねえ。あの子は全身で悦びを表現するタイプだし、他人の事は一番言えない筈なのにも関わらずよ? まあ、本人の好みだし、魔道具を使っているから洩れないけども)
(あんな小さな空間用の、消音の魔道具を作らされるとは思わなかったよ。私達だけならヴァルが洩らさないようにするけど、他人に説明する際に誤魔化す為の魔道具が要るからねえ)
(主、こちらは終わった。セイランが気を失ったからな。俺もそっちへ行って情報収集を手伝おう)
(お疲れ様、ヴァル。夕方までは寝かせておいて、その間に少しでも情報を集めようか)
椅子に座ってMASCを使いつつ一言も発さないというその姿は、何処かの惑星でよく見る光景にソックリであった。




