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0418・久しぶりの解放




 「グッ!? いきなり門を攻撃するとは、何たる野蛮なれんち」



 ドパァン!! という音と共に、大柄な兵士の頭が弾け飛ぶ。ヴァルが兵士の頭を殴りつけた、唯それだけの事である。それだけで脆い人間種など容易く死ぬのだ。肉塊や使い魔が相手だと、人間種など唯のゴミである。


 目の前で頭が弾け飛ぶのを見たからだろう、執事は失神したが、ミクはその執事を蹴り飛ばす。コイツこそが元凶なのだから、報いを受けてもらわなければ困る。飛ばされた執事は「ゲホゲホ」と言いながらミク達を見た後、「ヒッ!!」と恐怖に引き攣った声を出して必死に四つん這いで逃げていく。


 どうやら腰を抜かしているらしいが、ミク達にとってはどうでもいい事だ。ゆっくりとなぶるように歩いて行くと、屋敷の中から護衛を連れたギャルタム家の当主が出てきた。ミク達を睨みつけているが、ミク達にとっては下らないものでしかないので鼻で笑う。


 それを見て睨みを強めた後、ギャルタム家の当主は執事に聞く。



 「いったいこれはどうした事なのだ、ウェブドム。何があった?」


 「あ、あの者どもが急に屋敷を強襲し、門を破壊。兵士長も目の前で殺されましてございます!!!」


 「何だと、君達はいったい何のつもりだ! 我がパラデオン魔王国に弓引くというのならば、容赦はせぬぞ!!」


 「あ? お前達が私達を舐めたからこうなっているのだろう。私達はお前達が死にたいのだと認識した。ならば死ね」


 『舐められたら負け。その傭兵を舐め腐ってくれたのだから、俺達と戦争をする意志があると認識する。ならば戦争だ。相手が地に頭を擦り付つけるか死ぬまで、この戦争が終わる事は無い』


 「いったい何を言っている!? これでは唯の言い掛かりであろうが! 何が戦争だ! 本当の戦争も知らぬ癖に!!」


 「まず第一に貴方は兵士を用意しておくと言いながら、全く用意されていなかったわね? 私達は随分待ったのだけれど現れる事は無かったわよ? 私達をおちょくっているのかしら? それともバカにして嘲笑あざわらいたかったの?」



 そう話すレイラの横で、ミクは長方形の魔道具を取り出した。何処かの人達にはスマホの大きさと言えば分かり易いだろうが、これは女研究者が持っていた録音の魔道具である。そしてミクはそれを再生する。



 〝そのような血肉に塗れた危険な者を屋敷に上げる訳にはいかぬのですよ。それに、そちらの没落令嬢などが閣下に体を売ろうとしても困りま〟


 「これで私達に喧嘩を売っていないとでも? どうやらパラデオン魔王国という国にはクズしかいないようだね。砲塔を売るのは止めだし、以降はコイツらからの仕事は一切請けない。……いいな?」


 「当然だ。傭兵は消耗品ではない、生きている人間種なのだ。領地を取り戻したければ己らの所の兵を使えばいい。それがどれだけ死のうが知った事か!」


 「どういう事だ、ウェブドム!! 礼を失する事をするなと、あれほど言っておいたであろうが!!」


 「ち、違います! あのような者どもがギャルタム家に近付く事がおかしいのです! ギャルタム家は侯爵家ですぞ!! そこらの有象無象はひざまずいて当然なのです!!!」


 「そもそもそれが間違いなうえ、お前は唯の使用人ですよ。何を自分もギャルタム家に入れているのです。お前のような低俗な者は、かつての我が家であれば解雇か再教育行きです。ギャルタム家というのは随分おおらかな家なのですね?」


 「何だと、下賎な家の没落者が! 所詮、地に落ちた無様な者に物を言う権利など無いわ!!!」


 『何だコイツは? 本気で自分がギャルタム家の者だと思っているのか? 貴族と言えるのは当主のみだぞ。何で高が使用人風情が偉そうにしているんだ? まったくもって理解出来ないな。それともコレがパラデオン魔王国なのか? 侯爵家の執事がコレだぞ?』


 「それは違う!! ここまでのクズは私とて見た事が無い。長年仕えている者だからと思って使ってきたが話にならん。ウェブドム、貴様はクビだ! 門の修繕費も何もかも、全て貴様が出せ! 貴様の所為でこうなっているのだからな!!!」


 「ふざけるな! 王の子だというだけの小僧が!! 貴様如きにギャルタム家が好きにされる事自体が屈辱だ! 先代様も草葉の陰で泣いていらっしゃる!! 私がギャルタム家を正道に戻してくれるわ!!!」



 ウェブドムという執事は懐から魔法銃を取り出したが、構えるよりも速く、ミクに手首を切り落とされた。何故か当主と執事の争いになっていたが、怒れる肉塊を忘れるとは……コイツらは頭がおかしいのだろうか?。



 「お前達ゴミの事など、極めてどうでもいい。それより、貴様らは誰を怒らせたか理解していないのか?」



 凄まじいプレッシャーが周囲に広がる。そもそも興味も無くどうでもよかったが、ここまで明確に虚仮こけにしてくれたのだ。これで怒らない肉塊ではない。そして、周囲の者もようやく<解体師>や<キワモノ芸術家>といわれる者がブチギレているのを思い出したらしい。


 ギャルタム家の門を守っていた門番は後ろに居たのでマシだったのだろう。執事と結託していたと思われるそいつは魔法銃を腰のホルダーから抜いて……構える事は出来なかった。怒れる肉塊が本質をピンポイントで向けたからだ。



 「ヒッ! グブォ!! ウゲェ!?!? ガッア、ゲ?※AD!?R※!!>G<<Y?E※E$D%H#R%※!O?>N%C$R>U>!L!※」



 本質を受けて至極あっさりと門番は壊れた。そもそも肉塊の本質を受けて耐えられる人間種など、居ても極僅かである。肉塊が本質を解放して散歩するだけで、生きとし生ける者は皆壊れるのだ。肉塊にとって生き物は脆すぎる。



 「「「「「「………」」」」」」


 「お姉様の本気の圧を受けたのです、壊れて当然ですね。そもそもですが、お姉様は他人が壊れないようにセーブしてくれているのですよ? その事を知らないのは仕方ないのですが、それでも傲慢でいて良い訳ではないのですけどね」


 「何と言うか、壊されるべくして壊されましたね。この門番もクズの手下みたいな感じでしたし、壊されて当たり前なんですけども。それにしても……ここまで礼儀が無いとは。むしろギャルタム家が没落していた事は当然だと思えますよ」


 「まったくです。<貧すれば鈍する>と古くから伝わりますが、まさしくその通りとしか言い様がありませんね。ここまで礼儀が無いという事は、先ほど言っていた先代も礼儀が無かったのでしょう。あんなのを執事として使うぐらいですし」


 「ま、もうどうでもいいでしょう。コイツらに興味も無いし、さっさと帰りましょうよ。馬鹿の相手なんてしていられないわ。いちいち面倒だし、礼節も知らない獣の相手をしてもねえ?」


 「……ふぅ。いつであろうと何処であろうと、ゴミというのは変わらず居るから嫌になるね。久しぶりに解放したけど足りないなー………所詮は根性も無い雑魚どもか。少しは私に刃向かってみせろ、マヌケめ」



 そう言い残し、ミクはきびすを返して去っていく。その場に居た者達は自身が貪り喰われる姿を幻視しており、己の矮小わいしょうさに震えていた。王族だろうが侯爵家の執事だろうが、バケモノのようなナニカには喰われるしかないのだと悟ったようだ。


 王族だの侯爵家だのは、自身の命を守るうえで何の役にも立たない。そんな相手が居ると痛感したらしい。それは良い事だと思うが、ことごとくが小便や糞を漏らしている中なので、何とも締まりが悪い風景と化している。


 そんな風景に背を向けて、ミク達は一旦ブラックホークの事務所に戻るのだった。


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